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番外1038 帰還と喜び

「ん。おかえり」

「おかえり、なさい」

「ああ。ただいま」


 一人一人抱擁し合い、再会を喜び合う。胸に頬を寄せるように抱きついて来たり、そっと髪を撫でられたりして。そうした再会の挨拶が嬉しい。


「やっぱりみんながいるところに帰ってくると安心する」

「ふふ。私達としても嬉しいわ」


 抱擁からの離れ際に、ステファニアが明るい笑みを見せる。

 みんなとの抱擁をしてからラヴィーネやアルファを撫でたり、コルリスやティールとハイタッチしたりといった具合だ。


 それを見ていたヴィンクルもユイに手を翳したりして。ユイもまたにこにことしながらハイタッチで応じたりしていた。頷いたヘルヴォルテも同様にヴィンクルとやり取りを交わして、平和な空気で微笑ましい事である。


「今、お茶を淹れますね」


 作戦室に腰を落ち着けると、エレナもいそいそとティーカップにお茶を注いでくれた。


「ありがとう」


 ティーカップを傾けつつ、カドケウスやマクスウェル、アルクス達に魔力補給をしたりして、のんびりとした時間を過ごす。


「やはり、主殿に魔力補給をしてもらうと調子が良いですな」

「確かに」


 と、核やバイザーの奥の目を明滅させるマクスウェル達である。


「やあ、おかえりテオ君」


 俺達の帰還を待っていたアルバート達が笑顔を見せる。


「ああ、アル。オフィーリア様も」

「今回は、何というか……母上の事は驚いたし、嬉しかった」

「うん……。あれは俺も驚いた。ベルディオーネ陛下と冥精のみんなには感謝してる」


 俺の言葉に、アルバートは穏やかに微笑んで「そうだね」と、目を閉じる。マルレーンも屈託のない笑みを見せていた。


「ああ。そうだ。マルレーンにこれも返しておかないとね」


 と、マルレーンにランタンを返す。マルレーンはにこにこしたままこくんと応じて、俺から受け取ったランタンを大切そうに胸に抱く。


「グレイスの指輪の封印制御もテオドールに返せるわね」

「クラウディア様が預かって下さっていて、私としても安心感がありました」

「ふふ。そうだったなら嬉しいわ」


 クラウディアがそう言って、グレイスと微笑み合う。


「ん。それじゃ、指輪の術式を戻しておこうかな」


 指輪の制御については誰かが預かってくれているというのは有事において安心なのかも知れないが……みんなは立場がお互い対等になるようにしているので、指輪についてはあくまでも臨時の措置ではある。


「では、よろしくお願いします」


 というわけで、魔力補給が一段落したところでグレイスの手を取って指輪の術式に手を加える。

 基本的には冥府に出発する前の状態に戻しておく。指輪の制御周りもいじれるようになって……母さんがもし指輪の制御権を持っている者に何かがあっても、グレイスが自由に生きていけるように、色々な状況ごとの対策を考えて術式を組んでくれていたようだ。


「これで大丈夫」

「はい。ありがとうございます」


 指輪の状態を元に戻したところでそれを伝えると、グレイスは指輪にもう片方の掌を重ねつつ穏やかな表情を浮かべた。うん。


「マリーの魔法の鞄は……まだ中に食糧やら物資やらが入ったままだから、その辺を片付けてから返すよ。それから――例の魔法炎も助かった」

「役に立ったのなら何よりだわ。鞄は後からで良いわよ。出かける予定もないものね」


 ローズマリーは羽扇の向こうで目を閉じて頷いていた。マスティエルの化身に内部から機能不全を引き起こさせたが、あれもローズマリーの魔術師としての研究成果だからな。性質上、単純な術式として扱った場合制御が難しいが、元の魔法炎が二つのフラスコの内容物を混ぜ合わせる事で反応させるのと同様に、二つの術式を組み合わせる事で制御可能なものにした、というわけだ。


「留守中の執務に関しては、問題ありません。お留守の間も手分けして進めておきました」

「どうしてもテオドール様の決裁が必要なものや報告書等はしっかり纏めてありますので、ゆっくり休んでから目を通して頂けたら大丈夫ですよ」


 アシュレイとエレナが教えてくれる。


「ああ。それはのんびりできそうだね。いつも帰って来た後仕事が溜まってたりするから」


 そう答えるとみんなも笑う。


「ふふ。私達と子供達の体調についても伝えておこうかしら。ルシール先生とロゼッタ先生の問診でも問題無しだったわ。体調も安定していて良い感じかも」


 イルムヒルトが教えてくれた。少し離れた所でお茶を飲んでいたロゼッタがイルムヒルトの言葉を首肯するようにこくんと頷く。

 うん。それは安心できるな。今日からはまた循環錬気による補強もできるし。


「それは――うん。安心した。ロゼッタさんもありがとうございました」

「ふふ。私は状態を診断したり助言ぐらいしかしていないけれどね。みんな健康で良い事だわ」


 上機嫌そうなロゼッタである。うむ。

 帰ってきてのみんなとの再会も落ち着いてきたところで、水晶板モニターを使って冥府とも連絡を取る。


『ああ、テオ。みんなも。無事に現世に戻る事ができたようで何よりだわ』

『皆さん嬉しそうで良かったであります……!』


 冥府側の水晶板モニターに、母さんの腕に抱かれながら一緒にモニターを覗き込んでいるリヴェイラの姿が映し出される。俺が戻った後で仲良くなったのかも知れないな。母さん達だけではなく、エルリッヒ達も一緒にいて。それぞれの親子がモニター越しに手を振り合ったりと、和やかな光景だ。


「こっちはみんな大丈夫だよ。体調不良もないし魔力の状態も見てみたけれど、問題なさそうだ」

『ふふ。子供達の事も楽しみね』


 俺の言葉に母さんは明るい表情で応じる。そうだな。それについては冬の終わりから春にかけて、という事になる。


「リヴェイラも、遊びに来る時は言ってくれたら召喚術式を使うからね。まあ、近い内にノーズ、サウズやハイダー、シーカーの冥府仕様の姉妹機を作りにまたそっちに行く予定ではあるけれど」

『ありがとうであります……!』


 というわけで挨拶をし合う面々を傍らで見ながらも、通信機や水晶板モニターによる映像中継を利用し、各所に帰ってきた旨を連絡していく。祈りの力が届いていたお礼も、その際に改めて伝えていく。


「――マスティエルとの戦いでは祈りの力もしっかり届いていました。改めて……ありがとうございます」

『ふっふ。それは良かった。そなた達が決戦に赴くと聞いて、各国から祈りを届けようと、予定を組んだのだ』


 メルヴィン王がそんな風に教えてくれる。なるほどな。各国で示し合わせて公務を中断してまで祈りの時間を設けてくれたらしい。あちこちからの力が届いているのはマスティエルとの戦いの時も感じていたが、有難い事である。


 そんな調子で各国の面々にも帰ってきた事やお礼を伝えていく。執務は進めてあるし、明日になったら、タームウィルズのあちこちも巡って知り合いの面々に顔を見せてくるとしよう。


『通力に目覚めたか。実戦の昂揚で覚醒するというのは実に鬼らしい話ではあるが』

「うん。あれで覚醒してなかったら、危なかったかも」

『ふふ。心強い話よな』


 と、ユイもレイメイとそんな風に冥府での戦いの顛末を伝えている。メギアストラ女王もユイの話を聞いて笑顔で応じている。魔界迷宮での連絡役であるオウギを、膝の上に乗せて魔力補給をしながら通信しているようだ。


 あちこちとも映像込みで通信しているのでユイの通力の具体的な内容については後日フォレスタニアで見せるという事で話も纏まる。

 ユイの通力については安全装置を作る事にもなっているからな。魔界側迷宮のお披露目もあるので、そちらも状況が落ち着いたらきちんと進めて行かねばなるまい。

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