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番外1037 これからの日常に

 現世に戻る前にローデリックの体調を改めて見ておく。仮想循環錬気による体調確認をしていくが……前より回復しているようだ。異常な反応もない。


「体調は如何ですか?」

「悪くない。やはり、全体を司る立場ではなくなったから完全回復しても昔ほどではないのだろうが……まあ、また何か起こればその時は力を振るえるという事でもあるしな。ベルディオーネや皆を守る事もできよう」


 そう言ってローデリックは魔力を軽く掌に集める。


「陛下も心配なさいますから、あまり無理はなさらないよう」

「確かにそうかも知れんな。肝に銘じておこう」


 ローデリックは俺の言葉に笑って応じた。


「ふふ。テオドール。そなたには随分と世話になった。冥府に生者が来るというのは異例ではあるが、そなたならば何時でも冥府をあげて歓迎しよう」


 俺とローデリックのやりとりにベル女王も笑みを見せる。


「ありがとうございます。そうですね。現世に戻ってみんなに安心して貰ったら、また近い内に遊びに来ます」

「うむ」


 ベル女王や、プルネリウスやヘスペリア達とも握手を交わし……見送りに来てくれた面々と挨拶をしていく。一時の別れであるが、水晶板モニターで話ができるというのもみんな分かっているので、あまり湿っぽいものにはなっていない印象があるな。


「次に来る時は、そうだな。今回行った事のない場所に足を運んでみるっていうのもいいかもな」

「ブラックドッグ達が掘ってる鉱脈あたりは気になるね」

「下層では良い修行になりそうな場所も見つけている」


 リネットに答えると、ゼヴィオンが言う。修業場所か。ゼヴィオンもブレない事だが。


「溜まっていく負の念を石にする以外の方法で処理する区画だったかしら? あれの事よね?」


 ルセリアージュが首を傾げて尋ねる。


「そうだ。ここ最近はマスティエルの一件で機能不全に陥っていたようだが」

「あれは元々、禁忌の地の状態把握にも一役買っていたからな。あの場所に負の念が集積されれば区画の機能が停止する。意図的にそのぐらいの性能にしてあるわけだな」


 ゼヴィオンがルセリアージュの言葉を肯定すると、プルネリウスが説明してくれた。


「察するに……迷宮の機能と似たようなものですか」

「そうだな。負の念を集め、それそのものを冥精の力で消し去るか、形を与えて攻撃衝動として発散させ、それを撃ち破る、といった形で消費するわけだ」


 プルネリウスからはそんな返答があった。なるほどな。

 仕組み的にも迷宮と同系統の技術が使われている気がするな。まあ、性能を抑え目にしてあるところを見るに、制御面での安全性はしっかり確立されているのだと思うが。

 まあ、確かにゼヴィオンの言うとおり、気になる場所かも知れない。


「ふむ。中々楽しそうではあるな」

「ユウも同行するかね」

「悪くないな」

「確かに……上層は平和なだけに、腕が鈍らないようにしておくのは重要かも知れないね」


 ユウとカイエンがそんなやり取りを交わし、サンダリオも笑みを見せていた。


「俺達もその区画に関わりを持つかも知れないとは聞いている」

「生前の業も大分積み重ねているからな。高貴なる姫君と同じ方法で冥府の維持に貢献するというのは……数奇なものを感じるが」


 ヴァルロスとベリスティオが教えてくれた。ベリスティオのその言葉に、クラウディアも思うところがあるのか、作戦室で静かに目を閉じていた。


「なるほど。それなら……そこにも顔を出すと思う」

「その時は……同行したいな」


 テスディロスが言うとウィンベルグも同意するように首を縦に振る。そんなテスディロス達の様子に――ヴァルロスは柔らかく笑った。


「次の来訪を楽しみにしている」


 ヴァルロスやベリスティオとも、改めて握手を交わす。

 そして……エルリッヒ達。


「娘達の事、よろしくお願いします」

「はい。状況が整ったらみんなと一緒に会いに来たいと思います」


 子供達が生まれたら、かな。生まれたばかりで冥府の気は受けない方がいいとの事なので、子供達を同行させるのも当分先になってしまいそうではあるが。


「それは楽しみですな」

「水晶板越しでも話ができるのは有難い。気長に待つとしましょう」


 先代シルン男爵やバスカールの言葉に、一同しみじみと頷いていた。


「リヴェイラも、また遊びに来るから」

「はい、であります……! もしかしたら私の方が先にそちらに伺うかも知れないでありますが……」


 ユイと手を取り合って別れを惜しんでいるリヴェイラに挨拶をすると、明るい表情で応じてくる。


「ああ。その時は歓迎するよ」

「笛の練習もしながら待ってるね」


 そんなユイの言葉にこくんと頷いて。各々思い思いに挨拶をし合う。

 冥府の実情も分かって脅威も減ったし、天弓神殿も冥精達を歓迎できるような形に修正を考えよう。まあ、特殊な場所との接点がある場所なので、有事への備えは残しておく必要もあるが。


「それじゃあ母さん。到着したら連絡を入れるよ」

「ええ。これからはお話をしようと思えばすぐにできるし、みんなとゆっくりしてからでも大丈夫よ」

「ん。ありがとう」


 俺の手を取る母さんは穏やかな笑みを見せてくれる。そんなやり取りを交わして、頷き合う。

 そうして各々、一時の別れを告げて。これからも冥府に残る側と、現世に帰る側へと分かれる。現世から同行した面々が全員揃っている事を確認。


「ではな。妾達に何か力になれる事があれば、いつでも相談してくると良い」

「ありがとうございます」


 ベル女王の言葉に改めて礼を言って。そうしてマジックサークルを展開する。召喚術式によって俺達の身体が燐光を纏い――光の向こうで手を振るベル女王達に俺達もまた手を振って。


 そして、一人一人天弓神殿へと向かう光に包まれる。俺以外の全員が転送されたのを確認してから俺もまた現世へと飛んだ。


 光が収まった所で、天弓神殿に出たこととみんなの状況を確認していく。


「よし……。全員いるね。体調に不調はないかな?」

「私は大丈夫だよ」

「同じく」

「問題はありません」


 ユイやヘルヴォルテ、オズグリーヴからの答え。続いてみんなから返答がある。

 同行者も全員揃っているし、体調不良も感じていないようだ。念のために循環錬気で調べておく、というのもしっかりやっておこう。

 というわけで循環錬気を使って調べていると、大きな魔力が天弓神殿に顕現してくる。


「ああ、ティエーラ。ただいま」

「ええ。お帰りなさい、テオドール」


 と、ティエーラも俺達の迎えにやってきてくれたようだ。


「ありがとう。確認してみて問題なければ移動しようか」

「ふふ。みんな、テオドール達が帰ってくるのを心待ちにしていますよ」


 ティエーラが微笑む。ああ。そうだな。俺も……みんなの顔を見るのが楽しみだ。

 そうして全員に異常がない事を確認してからティエーラと共にフォレスタニア城の一角へと飛ぶ。


 再び光に包まれ、戻ってきたところで、改めて全員が揃っているのを確認する。馴染みのある温かな魔力が満ちているという事もあって、みんな揃って帰ってこられたという、安堵の感覚が胸に広がる。そこに――。


「テオ……!」


 俺の名を呼ぶ声。そちらに目を向ければ、みんなが作戦室から顔を覗かせていて。


「ああ――。ただいま、みんな」


 みんなの体調の事もあるので、心とは裏腹に穏やかに歩を進めて。そして、抱きしめられた。子供の事もあるので寄り添うグレイス達の力はそっとしたものだったけれど、そこには感情が強く込められていて。温かくて優しい、柔らかな感触と匂いに目を閉じる。


「おかえりなさい……!」

「良かった……無事に帰ってきて……」

「うん……。俺も嬉しいよ」


 本当に……。今回は行先が冥府で、みんなも現世に待たせる事になったので心配させてしまったと思うが……同行した面々も無事で、こうしてみんなのいる日常に帰ってこられた。そして――これからの日常には、母さんやみんなの両親もいるもので。それが……とても嬉しい。

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