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番外1028 中層への凱旋

「マスティエル本体との戦いで力を送って下さった事、感謝しております」


 俺からも目を覚ました先王――ローデリックにも改めて礼を言う。


「本当は自ら駆けつけたかったところなのだがな。冥府の王としての立場を譲っているから、ある程度の力を使っても影響は少ないはずなのだが……侭ならぬものだな」


 そう言ってローデリックはかぶりを振る。冥府を総べるというよりは、冥府全体を司る精霊か否か。王位の継承によって影響範囲が変わるというのも、精霊は約束事による影響が大きいから、だろう。


「重要な局面で力を貸していただいたので、実際かなり助けられました」

「それでも……礼を言うならば私の方だ。元はと言えば私の不始末で後世に負の遺産を押しつけてしまった。その事は……本当に済まなかった。そして、深く感謝する。そなた達のお陰だ」


 ローデリックは真剣な表情で言うと、みんなにも丁寧に感謝の言葉を伝える。

 そうしてローデリックとの話も一段落し、少し前線基地で休憩したら下層からの帰途につくという事で話が纏まった。


「体調が優れないようですし仮想循環錬気で補強もできるかと。問題がない事は確認していますが、あれから分離したばかりですし無茶はなさらない方が良いでしょう」

「確かにな。では……頼めるだろうか」


 頷いて、前線基地内部に移動し、ローデリックの状態をもう一度しっかりと見て、魔力の波長を整えて補強していく。

 一番の気がかりであったマスティエル本体からの影響に関しては……やはり大丈夫そうだ。つぶさに見て行ったが、不穏な気配は感じられず、許可をもらった上で呪法を使う事でマスティエルの因子、欠片のようなものが残っていないかも探してみたが、結果としては綺麗なものだった。


 まあ……復活できないように魂ごと念入りに粉砕して滅ぼしたからな。マスティエルとその本体に関してはこれで安心だろう。


 そうして前線基地で少し休憩を挟んでから、続いては下層拠点へと動いていく。下層から中層には拠点を経由して戻る事になるだろう。


「前線基地にもシーカーを残しておきましょうか。洞穴の向こうとも中継をできるようにしておけば諸々安心かと」

「ああ。それは確かに心強いですな。ありがとうございます」


 俺の言葉に、前線基地に暫く残る予定の冥精達が笑顔で応じてくれる。

 というわけで色々セッティングしてから出発だ。ローデリックはまだ本調子ではないので、空飛ぶ絨毯に乗って移動してもらう。


「中層や下層拠点でも戦いがあったようね」


 と、ルセリアージュが言う。


「こっちに援軍を送れないようにしていたんだろうね。本腰ではなかったみたいだから大きな被害は出ていないようだけど。ギルムナバルも大丈夫そうだ」


 ギルムナバルはルセリアージュの付き人のような印象があるからな。無事である事は知らせておいた方が安心してもらえるだろう。


「あれは耐久力が高いものね。ある程度の変形能力やその際の植物的な性質も残しているわ。流石に巨大化は無理らしいけれど」


 ルセリアージュは静かに頷いて答える。手足を樹のように変形させて槍や巨大な爪のように攻撃するとか、グレイス達と戦った時のように地面から攻撃するとか、そういう事はまだまだできるらしい。


 ギルムナバルも覚醒した魔人だったからな。魔人化が解けても能力の一部が残っているというのは他の面々と同じか。


「けれど少し能力も変わっているのよね。枯木だったはずが普通の植物らしくなっていて……巨大化できなくなった分、蔦状にしたり茨にしたりと、色々と新しい技を編み出しているようね」

「ふむ。俺の能力に変化があったのと同じか」

「その辺の変化も研究したら面白そうではあるかな」


 ゼヴィオンが納得したというように言うと、リネットも顎に手をやって思案するような様子を見せる。モニターの向こうではローズマリーもその辺の変化に興味があるのか、小さく首肯して興味深そうにしているが。


「俺から見ると、皆少し変わったように見えるな」

「そういうもんかね」


 ヴァルロスが言うと、リネットが肩を竦め、テスディロスやウィンベルグも「確かに」と同意していた。何というか、思っていた以上に和やかな雰囲気だったりするが。これも魔人化が解けているからかも知れないな。


「ベリスティオはどうだったんだ? 魂を基点にした能力だったから……」

「それに関しては心配ない。ラストガーディアンとぶつかり合った後の事はあまり覚えていないが、意識が戻った時には呪いが解けていた。不滅である事を捨てた時にそうなるとは皮肉なものだが……あれが私にとっての死という区切りだったのだろう」


 ベリスティオはそう言って遠くを見るような目をして、モニターの向こうでヴィンクルも思うところがあるのか、静かに目を閉じていた。

 ベリスティオも能力に変化があったそうで、魔人化を促した契約対象の器に必要な際に移り変わるとか、他者と力をぶつけ合って無理矢理器を奪うとか、そういう事はできなくなっているそうだ。

 魂を感知してそこに攻撃が可能、というのは覚醒能力が変化した形として残ったものなのだろう。


 そんな話をしながら平原を進んでいくと、やがて下層拠点に繋がる地下通路も見えてくる。


「戻ったら各階層で盛大に祝いもせねばな。現世の者達は料理等で持て成す事ができないのは少々残念ではあるが」


 ベル女王が言う。ヨモツヘグイの問題もあるからな。その辺は確かに如何ともし難いが。


「現世から持ち込んでいる食材もありますので、一緒にお祝いをする分には大丈夫かなと。混入には気を付ける必要がありますが、その辺の対策もありますから」


 現世の食材で作った品々を冥府の亡者達が食べられるかは検証していないから分からないが。まあ、いずれにしても宴の席に同席して同じように平穏の訪れや先王が戻ってきた事を祝うというのが重要だと思う。


 やがて地下通路も抜けて、下層拠点まで戻ってくる。

 被害は大きくないとの事だが、下層拠点でも戦闘の痕があったのは伺える。ギルムナバルはルセリアージュが戻ってくるのを待っていたのだろう。浮遊して待機していたが、ルセリアージュの姿を認めると深々と一礼するのであった。




 そうして下層拠点を守っていた面々をベル女王が労わり、ここでもシーカーを残しつつ、俺達は中層へ戻ってくる。

 神格者と冥精以外の者達は上層への立ち入りが原則的に制限されているが、戦いに参加したレイスの面々は今回の一件における功労者であると、女王やプルネリウス、ディバウンズが満場一致で許可を出す。


「あー。上層に向かう前に中層で少し顔を出したいところがあるんだが」


 と、リネットが言う。ああ。子供達の所に顔を出し、無事であると知らせておきたいのかも知れないな。


「勿論、問題はない。宴にしても少々の準備は必要だろうし」

「僕達も少し中層を見て来ても大丈夫でしょうか? 中層の塔に置いてきた物もありますので回収したりもしてこようかなと」


 ベル女王の言葉に俺からもそう尋ねると、プルネリウスが頷く。


「テオドール公達は……中層に生者として立ち入ると問題が起きそうだから、その場合、変装を継続してもらう必要があるか」

「そうですね。それは確かに」


 生者を羨む忘我の亡者というのは、元々先王やマスティエルとは無関係だしな。俺達の行動がどうであれ、その辺の事も忘我の亡者達も考慮してくれないから、中層に立ち入る場合はやはり魔道具による変装が必須になるだろう。


 というわけで、改めて魔道具を起動し、持ち込んだ物品の回収がてら中層の冥精達にも顔を見せてくるとしよう。

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