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番外1023 深淵の討伐作戦

「大丈夫でありましょうか……」


 リヴェイラが心配そうな表情で先王の顔を覗き込む。

 一先ず洞穴付近まで撤退して前線基地からやってくるディバウンズ達の到着待ちだ。意識を失っている先王をもう少し後方に運んでもらい、守ってもらう必要がある。


「うん。今は少し眠っているだけだからね。歌もきちんと届いていて、それに反応している部分が見えたから俺も術を届けられた」


 そう伝えるとリヴェイラは真剣な面持ちでこくんと頷く。そんなリヴェイラに、ユイが嬉しそうに微笑む。

 先王が目を覚ますまでもうしばらくかかりそうだ。ベル女王によく似た清廉な魔力を感じるし、仮想循環錬気でも異常を感知できないので、その辺は安心できる部分ではあるか。


 と、その時だ。ベル女王やプルネリウスから説明を受けている面々からどよめきが起こった。


「おお。それでは今封印されている存在を倒せば……!」

「そうだ。今度こそ、冥府は平和になるだろう。妾に近しい存在であるが故に、その事を明らかにすると冥府の次世代に影響が出てしまう。今まで知らせる事ができなかったのは済まなかったな」

「いいえ! そういう事だったのかと納得している所です!」

「この場に居合わせた事を嬉しく思います!」


 そんなベル女王からの返答に、冥精達は相当気合が入っているようで封印の中にいるあれ――マスティエルの本体――を打倒するという事に気炎を上げていた。連戦となるが寧ろ士気が上がっているように思える。


 保全部隊の冥精達に過去の因縁から説明し、封印の中にいる本体と戦う事になると伝えたところだ。封印されているのだから放置でもいいのかと言えば……大結界が先王に合わせて構築されたものなので、このまま延々と閉じ込め続けるのは無理だし、俺の封印術が効果を残している今のうちに、というわけだな。

 代わりに奴を打倒するまでは俺の覚醒状態も封印術維持の為に必要になっているが問題はあるまい。


 マジックポーションは残り少ないが、ベル女王と共にいるという事もあって冥精達は回復している。ヴァルロスやベリスティオもこのまま協力してくれるようだから心強い。


「……そうか。フォレスタニアでの暮らしは良いもののようだな」

「はい……! テオドール公は良くしてくれます」


 洞穴付近の岩場に腰かけて、話をしているヴァルロスとテスディロス、ウィンベルグ達である。体力と魔力の回復とディバウンズ達の到着待ちという状況なのであまりゆっくりとはしていられないが、回復がてら少し腰を落ち着けて話をする事ぐらいはできる。


 ヴァルロスが穏やかな表情でテスディロス達の近況報告に頷いているのが印象的だ。リネット達もフォレスタニアに暮らしている魔人と元魔人達の現在には興味があるのか、一緒に話を聞いて相槌を打ったりしていた。

 オルディアについては「珍しい魔人もいたものね」とルセリアージュが言って他の面々も頷いたりしていた。


「ベリスティオ殿の夢は――やはり導きでありましたか。どうなるものかと思いましたが、テオドール公の下に身を寄せて、皆穏やかに暮らしておりますぞ」

「それは……何よりだ。魔人達全体の事を見た時、お前達の事は心残りではあったからな」


 オズグリーヴもベリスティオと落ち着いた調子で言葉を交わしている。

 ここにいない魔人達とも顔を合わせに行きたい、とヴァルロスやベリスティオも考えているようだが……まあ、それも今回の一件が片付いてからではあるか。


「さてさて。昇念石は自前のものじゃないけれど、これならある程度自衛もできるかしら。後方支援ならテオも安心よね」

「んー、まあ。母さんとしては物足りないかも知れないけれど」

「流石に慣れていない武器では無理できないものね」


 母さんはと言えば、杖を手にして使い心地を確かめるように演武のような動きを見せている。あの杖に関しては、俺達が儀式場に行っている間に天使達が半霊体の杖を構築してくれたものという事らしい。「あくまで即席ですよ」と天使達は謙遜していたが、間に合わせというには結構良いものに見えるな。


 そして……その杖を振るう母さんの杖術はかなり洗練された流麗な動きだ。


『ん。テオドールに少し杖の使い方が似てる瞬間がある』

『ふふ、そうですね』

『うむうむ』

「んー。そうかも知れない」


 シーラの言葉に、グレイスが嬉しそうに微笑み、お祖父さん達七家の長老とマルレーンが一緒になってにこにこしながら頷いていた。水晶板を通してみんな母さんを見て涙目になりつつ笑顔になっている。


 ともあれ、俺の杖術はBFOという過程を挟んで我流として発展している部分もあるものの、元々並行世界の俺がシルヴァトリアで身に着けていた技術の一つである事を考えると、母さんの動きは正統派の同門の動きではあるのか。

 うん……。そういうところで繋がりがあると感じられるのは……嬉しいな。

 まあ、今回は武器の不慣れさもあって後方支援に徹してくれるとの事なので、俺としても後顧の憂いなく前線で暴れさせてもらうとしよう。


『元気そうで安心した、というのは些かおかしいかの』

「ふふ。それを言うなら私の方だね。みんな元気そうで安心したわ」

『パトリシア……。昔と変わっていなくて……うん。良かった』

「ヴァレンティナこそ」


 お祖父さんやヴァレンティナ達とそんな言葉を交わす母さんである。

 そんな光景に少し和んでいたが――神殿の方から地鳴りのような音と共に震動と強烈な魔力が伝わってきた。

 冥精達が気炎を上げていたり、母さんやヴァルロス達と……各々言葉をかわして和やかな空気もあったが、それらが一気に引き締まる。


「今のはやはり……」

「そうだな。あれが封印を破ろうとしているのだろう」


 プルネリウスが問うと、ベル女王が頷く。


「くっく。まだ一暴れできそうだな」


 ゼヴィオンが口角を上げて楽しそうに笑う。ゼヴィオンも結構な激戦をしていたと思うのだがブレない事である。まあ、ダメージについては天使達が回復してくれたようではあるが。


「おお。お待たせいたしました、陛下!」


 そこにディバウンズ達……前線基地の面々が到着した。


「うむ。我が父を安全な場所に、頼む」

「はっ」

「陛下と皆様の、武運長久を祈っております」


 ディバウンズと共にやって来た冥精達が、眠る先王を光る球体で包んで浮かせると、そのまま平原へと繋がる洞穴の奥へと運んでいく。表層以外は魔法で構造強化されているので、戦闘の余波で崩れたり、ということもあるまい。


 ベル女王とリヴェイラは――戦いの結果を見届けるという事でこの場に残る。ベル女王がいれば冥精達の力も底上げされるし、リヴェイラの祈りもまた、冥精達の力を増幅できるようだからな。

 ユイも回復してきたので「女王様とリヴェイラちゃんの事はしっかり守るね!」と気合を入れていた。鬼の通力――鬼門があれば大抵の攻撃に関しては強固な防御手段になるだろうし、それは安心だな。

 母さんも……ベル女王、リヴェイラと一緒に後方支援との事だ。


 そうして、ベル女王が立ち上がり、保全部隊の面々を見回し、声を上げる。


「では……これより根源の渦より分かたれた業の討伐任務を開始する……! 妾の不明により過去の災厄を今日まで残してしまったが……どうか、今しばらくだけそなた達の力と想いを、妾に貸して欲しい……!」


 顔を向けてくるベル女王に頷いて答える。


「勿論です。今度こそ、奴との決着をつけてきましょう」

「陛下と共に冥府の平穏のための戦いの場に身を置ける事、嬉しく思っています」

「我らの想いは女王陛下と共に!」

「おおおおぉおッ!」


 俺の言葉の後にプルネリウスが続き、冥精達も拳を突き上げた。

 ベル女王はその反応に天を仰ぐと……それから真剣な表情で言った。


「あれは……かなり巨体な上に、範囲攻撃も得意としている。密集するよりも散開し、機動力を活かして攻撃を加えるという作戦が良いだろう」


 ベル女王が作戦を伝えていく。

 散開してのヒット&アウェイだな。侵食能力があったのでかつての戦いでは散開しても敵に取り込まれたりしてしまってこうした戦い方も難しかったとの事だが……それを封印術で厳重に封じている今ならできる作戦だ。


「最大の脅威となる能力は封じられているが……あの魔力だ。各自油断のないように! 皆が配置に付き次第、合図とともに昇念石で結界を展開し――大結界の封印を解く。姿を現すと同時に攻撃を仕掛ける!」

「おおおっ!」


 ベル女王の言葉に、皆が各々手にする武器と共に声を上げた。現世のみんなやリヴェイラも、俺達に力が届くようにと、一緒に拳をあげていて。ああ。俺も気合が入るというものだ。では……討伐作戦開始と行こう。

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