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番外1019 渦巻く暗黒

「行くぞっ!」

「おおおおっ!」


 ベルディオーネ女王の声と共に冥精達が裂帛の気合を返し、昇念石の結界とディフェンスフィールドが広がる。天使、悪魔、鬼達がベルディオーネ女王を中心に迎撃の構えを見せれば、周囲に出現した黒い怪物達が殺到し、アイオーンが武器を構えて突っ込んでくる。


「お前の相手は俺だ」

「お前達は、昇念石の結界に踏み込めるのだったわね」


 一番近くにいた門番の変異アイオーンの突撃を、手にした武器で受け止めた者達がいる。ゼヴィオンとルセリアージュだ。

 大剣と槍と。黄金の剣と斧槍と。それぞれの手にした武器が激突して火花を散らす。


「ふっ、ははっ! はぁっはっはっは!」


 アイオーンの援護をしようというのか、それとも戦いに横槍を入れようと言うのか。ゼヴィオン達の周囲にも殺到してくる黒い怪物であるが――ゼヴィオンが楽しそうに哄笑を響かせれば、近寄るだけで燃え上がる。

 ゼヴィオン自身は白々と輝くような光を纏っているが、炎熱の力は健在という事だ。だというのに味方は熱を感じないというのは、ゼヴィオン自身の性質に変化があったという事なのだろう。


「……張り切っているわね。ま、大規模な戦いだからと言うよりも……戦いに意義がある、というのが新鮮で楽しいというのは分かる気がするけれ、ど!」


 ルセリアージュが振るわれる斧槍と突っ込んでくる黒い怪物達を空中で側転するように避けながら黄金の霧を展開する。霧の中から形成された黄金の刃が閃き、突っ込んできた怪物達を串刺しにする。そのまま一部の剣はルセリアージュの身体の周りを衛星のように回り、一部の剣がアイオーンに向かった。


 凄まじい勢いで剣戟の音が響き渡る。立体的に繰り出される黄金の剣を、人ならざる存在故の反射速度で受ける。背中から展開したカマキリの腕のような、第3、第4の腕はディバウンズが教えてくれた予備知識の中にもある副腕だ。

 4本の腕で無数の剣と切り返して、ルセリアージュと猛烈な速度で切り結ぶ。


「ふふっ。いいわね。そうこなくては!」


 笑うルセリアージュ。射線上に入った黒い怪物達では黄金の刃を受ける事ができない。貫かれ、切り裂かれ。そのままアイオーンと切り結ぶ。

 ゼヴィオンもルセリアージュも、敵の被害を拡大するために敢えて敵中に突っ込んで暴れているようにも見える。


 笑いながら斬撃を応酬するルセリアージュ。そこに別のアイオーンが突っ込んでくる。

 分断するように閃光が走った。アイオーンがそちらに視線を向ければ、嘲るように笑いながらリネットが切り込んでくる。


「お前の相手は、あたしがしてやるさ」


 そのまま、手にした大剣でアイオーンと激突する。

 元魔人である3人は相当に気合が入っている様子である。テスディロスも雷を身に纏い、デュラハンと共に敵の中に突っ込んで暴れ回っているようだ。オズグリーヴに関しては、ベル女王を中心とした防御陣地に煙の防壁を構築して守りに徹しているようだ。


 ならば……後方の戦いはみんなの力を信じよう。俺は俺でマスティエルの相手を引き受ける。

 向かい合ったまま魔力を高め――全身から余剰魔力の火花を散らす。

 瞬き一つの刹那で互いに突っ込んで、ほとんど中間地点で激突した。ウロボロスと大鎌がぶつかり合って衝撃波が広がる。弾かれて、後方に飛ぶ。レビテーションで慣性を和らげ、シールドを蹴って反転。マスティエルも黒い翼に魔力を込めて、火花を散らしながら俺目掛けて突っ込んでくる。


 魔力の光を尾のように引きながら再度ウロボロスと大鎌が激突する。互いの魔力が干渉し合ってスパーク光が散る。つばぜり合いのように魔力を込め合う中で、俺を囲うように光の環が浮かんだ。


「断て――!」


 マスティエルの言葉と共に、光輪の幅が狭まる。ウロボロスに局所的に魔力を込めて大鎌を弾き返して直上に跳べば、足元の空間を光の輪が閉じて切り裂いていった。

 光魔法の拘束術式――ライトバインドを斬撃に転化したような術だ。二度、三度。立て続けに俺のいる位置、向かう先に大きな輪が生まれ、一点に収束するように空間を切り裂いてくる。その射線上に入った黒い怪物は両断されている。斜め右上。反転して左下へ。シールドを蹴って跳んだ俺を追随するように、マスティエルも突っ込んでくる。


「今」


 再度大鎌とウロボロスで切り結んだ瞬間。俺の合図に従って、洞穴の出入り口がメダルゴーレムによって封鎖される。同時に昇念石の結界が展開して、黒い怪物達を洞穴内外に押し留める。これに連動して前線基地の面々も動くだろう。


「……なるほどな。分断が貴様の策か」


 それを見て取ったマスティエルの表情に焦りの様子はない。まだ何か策があるのか、それともまだまだ多勢に無勢と考えているのか。だが――策があるのはこちらも同様だ。




「――今だよ! こっち!」


 マスティエルやアイオーンが大広間から離れたのを見計らい、ウィズを被ったバロールと共に、ユイとリヴェイラがプルネリウス、ヘルヴォルテ、ベリウスとサウズ、そして冥精達の一部を引き連れて神殿内部に侵入して大広間を横切っていく。バロールによる迷彩フィールドは展開したままだ。


 マスティエルが待ち構えている以上は、真正面から姿を現して堂々と受けて立つ、というのは良い。冥精達の性質上から言っても、より多くの力を引き出す事ができるだろう。

 だが、作戦は続行させてもらう。バロールが迷彩フィールドを展開したままで内部を見て、別働隊で作戦遂行をするのが無理そうなら撤退すれば良いだけの話だ。

 元々儀式の維持をしながらマスティエルやその配下と戦う予定であったしな。


 バロールのサイズに合わせて変形したウィズは……どちらも俺と五感リンクで繋がっている。バロールとウィズの感知能力と制御能力を合わせれば、魔法の罠には対処可能だろうという判断だ。


 魔力を感知しながら地下への通路を進んでいく。神殿下層の地下通路にもアイオーンが1体配置されているのは想定内か。


「眠りの封印結界を守っているか……。いや、大玄室と、どちらにでも睨みの利く位置ではあるな。ただ……封印対象を眠り続けさせるために神殿は清浄に保たれている。内部で黒い怪物達が出現する余地はない」


 プルネリウスがアイオーンを見て言う。代わりに神殿外部に排出された負の念が禁忌の地の街や平原に溜まって、あの量の黒い怪物を生み出す事になっている。

 平然としているアイオーンを見るに、あれは普通に侵入してこられるのだろうが。


「封印結界の停止か儀式の開始。どちらかに手を付ければ、アイオーンには気付かれてしまうでしょう。先に奇襲を仕掛ける手もありますが」


 ヘルヴォルテの言葉にベリウスがうなり声を上げ、口元に笑みを浮かべるようにして視線を向けてくるが、プルネリウスは思案した上で首を横に振る。


「……いや。テオドール公がマスティエルを引き付けている内に、最奥までの確認が優先事項だろう。安全確保ができれば隘路に防御陣地を構築しながら戦う事もできるはずだ。それに神殿入り口付近で防御陣を構築しているから、オズグリーヴ殿の匙加減でアイオーンに対する封鎖や黒い怪物達の侵入も防げる」


 その意見は俺も同意だ。マスティエルと斬撃を応酬し、展開される光魔法の弾幕を闇魔法の弾幕で相殺しつつ、会話の内容に意識――というよりも魔法演算領域の一部を割いて、バロールとウィズに頷いてもらう。


「では、決まりだな。……仮に封印が解けて膨大な力が放出された場合でも、力は上に向かって放出されるように根幹部分の構造から作られていて、祭壇やその付近は安全が確保されるようになっている。儀式に関わる者を守る為でもあるから……儀式中の安全性については安心してもらって良い」


 元々ベル女王の化身が儀式を行うわけだしな。根本の作りからそうなっている、というのは分かる。神殿自体も封印の一部として組み込まれているので、マスティエルが儀式場そのものに改変を施せるなら、封印そのものに手を加えられるはず、との事だ。眠りの封印結界は後付けの補強であるから罠として利用されてしまったわけだが。


 この辺が目的の場所に直接壁抜きができない理由でもある。分解術式を使えば無理とは言わないが。

 迷彩フィールドを展開したままで更に奥へと進んでいけば……やがて開け放たれた大きな扉の前に辿り着く。ウィズとバロールが少し先行し、内部の様子を見る。

 魔力反応を見ながら潜んでいる敵や、独立した後付け部分のような魔力反応がないかを確認していく。この場所にも罠らしき反応は――ない、か。マスティエルはまだ余裕がありそうな様子ではあったが……。


 振り向いて目蓋を二度三度と瞬かせて安全だと伝えると、リヴェイラとユイが内部を覗き込む。


「敵は……いないようであります」

「施設が破壊された痕もない、かな?」


 その言葉を受けて冥精達は頷いたが、通路側を見張るように背を向けた。


「私達は本来既に立ち入れぬ領域故、外側を見張ります」


 ここに来て必要以上に覗こうとしないあたり、冥精達も律儀な事だ。


「最後の隔壁を開くであります」


 リヴェイラが手を翳してベル女王から習ったマジックサークルを展開すると壁の一部に光が走り――左右に開いていく。

 その向こうに幾重にも重なり合って交差するように伸びる青白い光の柱が見える。先王を縛る大結界だ。


 網の目の更に奥――そこに渦巻くような暗黒の塊が広がっていた。

 蠢くような黒の中に魔獣の顔が浮かび上がりうねる様に飲み込まれて、また別の場所から鳥のような顔が浮かんで暗黒の波に混ざって消える。その顔のどれもが眠りについているのか、目を閉じていて。

 あれが……今の先王の姿。そして、マスティエルと繋がる本体でもある。


「祭壇も、見つけた……!」


 隔壁の向こうにある祭壇を見つけて、ユイが指差す。


「行ってくる、であります……!」

「うんっ、リヴェイラちゃんの事、きちんと守るから」

「ユイ殿にそう言ってもらえると、安心するであります!」


 ユイと言葉を交わし、そしてリヴェイラは祭壇へと向かう。

 リヴェイラは――祭壇の前までやってくると、祈るように手を組んで――。




「――来たか」

「これは――!」


 カドケウスの合図。ベル女王が顔を上げるのと、マスティエルが声を漏らすのがほぼ同時。笑うオズグリーヴの煙が壁となって神殿の入り口を封鎖する。


「別働隊か……! 本体を先に抑えるつもりとは舐められたものだな……!」


 獰猛に笑い、牙をむくマスティエルの足元からマジックサークルが広がる。転移術系のマジックサークル! だが――発動する前に砕けた。マスティエルの表情に、今度こそ驚愕の色が浮かぶ。


 内部に、罠は無かった。だとすれば本体が動くしかない。本体を囲う隔壁も閉ざされていたとなれば、こいつがそもそも外に出て行動していられた理由は、転移系の手札を持っていたから、という事になるのだろう。


 いざとなれば本体に連動させて本体の位置まで戻る術の用意があったのだろうが……転移術と言えど、発動前に干渉されてしまえば術式は意味を成さない。


「だが、お前は何処にも行けない。出し抜いてリヴェイラ達や……ベル女王陛下に手出しをできると、思うなよ?」


 覚醒――金色の魔力の網が周囲に広がっていた。向かう場所は分かり切っているし、阻害するだけなら小規模な術式で事足りるのだ。後出しであっても時間干渉しているこちらの術式の展開の方が、速い。

 俺の方に向かって突っ込んできたアイオーン達をカイエンやユウ、サンダリオ達が抑えに動いてくれる。

 そうしている間に、ベル女王の身体も光に包まれた。儀式をこの場で進める為だ。


「貴様――」


 マスティエルが俺に視線を向ける。マスティエルの力が充実して膨れ上がり、暴風のように魔力が吹き付けてくる。


「だが、よく分かった。ベルディオーネが動けない以上、貴様程度しか私の敵足りえない。貴様を殺せば、後の者はどうにでもなる!」

「やってみろッ!」


 その言葉と共に。互いに纏った魔力の光を彗星の尾のように引いて、俺と奴は突っ込んでウロボロスと大鎌を叩きつけ合っていた。

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