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番外1016 封印の地

 迷彩フィールドを展開しながら洞穴を更に下へと進んでいく。

 同時に、映像情報を切った水晶板を通して他の場所の状況を尋ねてみるが、現状で黒い怪物に絡んだ問題は起こっていないと、前線基地、上層、中層、下層の拠点からそれぞれ報告が返ってくる。


 マスティエルの裏切りが発覚した事も通達で分かっているので、各所では他のマスティエルが絡んだ案件を冥精達が調べ直しているところだ。

 彼が手がけた魔道具や関わった施設等があるなら回収や閉鎖してから、結界の中でバックドアや爆弾、召喚用の装置等の仕掛けがないか精査していくというわけだな。


 今現在はその辺の所在の調査と把握、という段階である。どこに何があるかまでの全容が分からないので、水晶板の映像を切るなどして視覚情報を与えないようにしているし、通信時には小さめの防音結界を張ってのやりとりを徹底する、という旨の通達も行っている。


 所在を把握してから怪我人を出さないように慎重に動く、との事だ。


「今の所、他の場所については問題無さそうですね。調査も慎重に進めているようですし、重要施設に関しては優先して安全確保に動いているそうです」

「マスティエルとしても、前線基地の動きに注目しているだろうしな。妾達の作戦が本命ではあるが、ある意味冥府全体の囮になっているとも言える」

「事ここに至っては後方に注力したり意識を割いている場合ではないでしょうからね。主力を温存しているのであれば、意図せずとも引き付ける事もできますが」


 ベル女王の言葉にプルネリウスが落ち着いた様子で応じる。静かに気合が入っている様子の2人であるが。


 洞穴は緩やかなカーブを描きながらまだ続いている。この構造については……元々は向かっている方角が特定しにくくなるようにという配慮であるらしい。勝手にどこかから封印の設備に向けてトンネルを掘られても困るだろうし。最奥の設備については結界が張ってあって土魔法による侵入等はできないそうだが。


 と、先の方に何かが見えた。複数の黒い怪物達が通路全体を埋めるように浮遊している姿だ。はっきり言えば、隊列を組んだままでは隙間を通る事ができない。意図的に配置した印象があるが。

 部隊停止の合図を出せば、全員が足を止める。


「あれは――どうしたものかな」


 それを目にしたユウが眉根を寄せる。


「洞穴の壁の奥に張られた結界についてはどうなっているのですか? 何かと連動していたりしますか?」

「結界に異常があれば上層で察知できる。この先の施設に張られた結界とも繋がっているから、場合によっては察知される可能性があるな」


 と、ベル女王から返答があった。ここは自然な洞穴を模しているので、表面部分には魔法もかかっていないし、軽く崩れても誤検知せず、少しすれば洞穴の自動修復が行われるとの事だった。

 だからこそメダルゴーレムの封鎖作戦が使えるわけだが。軽く洞穴の壁面を掘れば色々な術が付与されているのが分かるはずだ。


 そうなると、今の状況では分解魔法で壁抜きしての迂回は避けるべき、か。


 ここに来るまでにも奴はあちこちに斥候を配置していたが、流石にその全てに同時に意識を割けるわけではないだろう。

 黒い怪物達は負の念に由来する攻撃衝動で動くか、或いは受けた命令に従ってある程度の行動を制御していると仮定する。門番をしていたり、道を塞ぐ等の行動をしているのが統制されている理由だ。

 奴は今、前線基地に注視している可能性が高く、全てを把握しているわけではない。

 ……マスティエルとの騙し合いだな。


「いよいよ強硬突破しかない、となった場合は……洞穴の出口まで、そこまでの距離はないと伝えておく。そう……。ここからなら駆け抜ける事ができるぐらいの距離ではあるかな?」


 ベル女王が教えてくれる。

 なるほど。出口が近いからああやってローコストの封鎖を行っているわけか。


「それは……これからの手で打開できなかった時の最終手段としましょう。とはいえ、場合によってはみんなで呼吸を合わせて、迅速に行動して貰う事になる……かも知れません。あの中にできる隙間をすり抜ける、だとか」


 というわけで、立てた作戦を伝えていく。それを聞いた面々は「実際、その方法しかなさそうだな」と同意してくれた。


 作戦としては――古典的ではあるが物音を立てておびき寄せる事で穴を作るというものだ。あの通路封鎖の役割を担っている怪物達は、異常があれば駆けつけてマスティエルに情報を伝える、ぐらいの行動はするだろう。


 みんなが通路の端に寄って密集したところで、メダルゴーレムに術式を刻み、命令を伝えてから俺自身も自身の魔力がフィールドから漏れないように隠蔽術を強化展開しながら覚醒魔力を纏う。


「これが――」

「月の民の覚醒。魔人以外の覚醒は初めて見るわね」


 ゼヴィオンやルセリアージュが声を漏らし、リネットが興味深そうに顎に手をやる。


 メダルゴーレムを洞穴天井に埋め込む。仕掛けるのは、黒い怪物達から見て、緩やかなカーブの向こうで見えなくなる位置だ。俺達が位置するのは封鎖している怪物達の動きが見える位置。


「準備はいいですか?」


 尋ねるとみんなも準備はできていると言うように頷いてくる。

 では、始めよう。ゴーレムが命令を受けて動き、天井が一部崩れた。洞穴は元々静寂に包まれていた事もあり――落石が結構大きな反響を響かせる。

 黒い怪物達は一斉に反応した。一部が音の聞こえた方に突っ込んでいき、一部が残る。ここまでは予想通りだ。


 それを受けて、動いた連中がすれ違った瞬間から俺達も行動を開始する。敵は残っているが通れる隙間は出来た。そこに向かって突っ込んでもらうだけだ。


 覚醒状態で作戦を決行するのは――時間感覚を引き伸ばし、迷彩フィールドの形を部隊と怪物の双方の動きに対して高速且つ精密に合わせるためだ。


 光のフレームに合わせ、先頭が敵の隙間に飛び込んでいく。俺も逆側に抜けてその場に留まり、更にフィールドの精度、形状変化と光のフレームによるガイドに注力する。


 精鋭揃いという事もあって、みんなの動きも相当なものだ。黒い怪物達は大きく動き回っているわけではないが、浮遊に合わせて揺らぐ。

 その動きの幅を予測してフレームを展開してやれば、自分が対応できる隙間を見つけてどんどんこちら側へ飛び込んでくる。


 ベル女王も、リヴェイラを守るユイも、フレームを潜り抜けてこちら側にやってくる。

 強行突破になるかも知れないという覚悟も決めて臨んだからか、全員が封鎖線を抜けきるまで、そこまでの時間はかからなかった。落石を確認しに行った怪物達は、他に異常がないか確認をしていたようであるが……連中が戻ってくる頃には全員がこちら側に抜けている。


 間に合わなければ一部の怪物を再度の崩落に巻き込んで更なる時間稼ぎ、という手を考えていたが、その必要はなかったようだ。バロールを抱えた殿――最後の1人が通り抜けたのを確認し、覚醒状態から通常状態へ移行する。


「中々肝が冷える場面であったが――気付かれてはいない、ようだな」

「テオドール公の制御能力は……凄まじいものですな」


 と、通り抜けてきた黒い怪物達から少し距離を取りつつ、ベル女王やカイエンが言った。

 壁と一体化して移動してきたメダルゴーレムも手元に戻ってくる。これで証拠も隠滅だ。


「何とかなりましたね。出口まで急ぎましょう」


 落石は警戒されるリスクもあったが、今の封鎖線に力が注がれていたからこそ、気付かれずに部隊規模で突破したというのは結構な攪乱になる……と思うのだが、さて。


「魔力消費は大丈夫かな?」

「今のところは。問題がありそうなら安全確保して消費を回復させる手もあります」


 プルネリウスの言葉に答え、再び隊列を組んで進んでいく。

 先程のベル女王から聞いた通り、洞穴の出口はそこまで遠くはなかった。暗闇の続いていた禁忌の地の平原や洞穴内部と違って、出口からはぼんやりとした明かりが差し込んでくる。


「見えて来たな」


 ベル女王が呟く。出口にも見張りはいるが――先程のような数を揃えて物理的に空間を抑えている、というものではない。気付かれないようにフィールドの形を整えつつ、外を覗けば――そこは下層拠点同様、山の斜面に位置するような場所だった。


 眼下に、独特な建築様式の遺跡が街並みのように広がっていた。いや、実際に街なのだ。過去――先王の代には下層の冥精達が拠点として使っていた場所だ。今の下層拠点ほど要塞化が進んでいないのは、過去の冥府下層は先王ほどの脅威が存在しなかったという事の証左でもあるだろうか。


 あちこちから伸びる巨大な鍾乳石があるのも下層拠点と似ているが……封印施設のそれは鍾乳石の先端や柱の中が明るい輝きを宿している。あちこち光る柱もあり、見通しは良い。これは魔法技術でどうこうしたというわけではなく、元々こういう立地だったそうで、だからこそかつては下層拠点に選ばれたのだろう。


 そんな封印施設の上空を黒い怪物達が何匹か飛び回っている。遺跡の街並み――その屋根の上に立っているのは……アイオーンか。だが、あの姿は。


「乗っ取られているのを、もう隠す必要もない、か」


 プルネリウスがそのアイオーンの姿に眉根を寄せる。前線基地で見た時は純白だったはずのアイオーンは……その姿を変質させていた。透けるような白い翼は黒紫に染まり……全身に黒い靄を纏わりつかせているその姿は、天使から悪魔に変わったかのようだ。

 基地で戦った者達より魔力の増大もしているか。制御術式の一部を乗っ取るどころではなく、全身に怪物達を取り込んで強化に使っているらしかった。

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