表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1783/2811

番外1012 洞穴封鎖作戦

「侵入の発覚を遅らせるとか、洞穴の入り口を一時的に塞ぐ……というのは思っていた以上に有効かも知れません」


 黒い怪物はどこにでも無限に湧いてくるようにも感じられるが、倒されると場が浄化される事から、場に染み付いた負の念を材料にしていると考えられる。

 禁忌の地の平原や洞穴内部は敵が多数のアウェイだと考えれば、下層の他の場所と比べても大量の黒い怪物が出現するのは間違いなく、そこはまあ致し方ない。だが、その場で黒い怪物達を生成されるのと、他の場所で生成して援軍として送り込むのではまた状況が変わってくる、という事だ。


 相手とて、援軍を送るための魔力消費や時間的制約がかかるのだから、発見してから戦力を動かすのでは部隊展開も援軍も一手間が必要となる。要するに、意図的に戦力の逐次投入をせざるを得ない状況を作り出そうというわけだ。


「つまりは――隠密行動をしつつ、平原と洞穴内部の敵を分断してしまおう、と?」

「そうですね。儀式を完遂できれば勝ちではありますから」

「という事は……方法については、既に何か考えがあると?」

「はい。これと、昇念石を使います」


 ベル女王に尋ねられ、魔法の鞄の中からゴーレムメダルを取り出して机の上に置く。


「これは――術式を込めておくとゴーレムの核になるというものです。即席でそれなりに複雑な挙動をするゴーレムを作る事が出来ます。これに結界術式を刻んだ昇念石を運ばせて、洞穴入り口を封鎖しつつ結界を張る事で平原と洞穴を分断してしまおう、と考えています。事前に予め配置に付けておき、僕達の洞穴内部への侵入が発覚した時点で水晶板で連絡を取り合い、封鎖の為に動いてもらう、と」

「そうなると……前線基地に残る面々は、敵がそれに気付いてから封鎖を突破しようとするのを妨害すれば良い、というわけですな」


 ディバウンズが状況を頭の中で思い描いたのか、俺に確認を取るように尋ねてくる。


「はい。敵は減衰を受ける中で結界を破らなければならないわけですから、この場合は基地内部から安全を確保しながらの射撃でも十分に効力があるかと」

「なるほど。基地を無視すれば挟撃の形となってしまうわけですか」


 サンダリオが納得した、というように頷く。援軍を目的地に送るために相手としては大きな被害を出す事を前提に無理な攻めをしなければならないというわけだな。


「かといって、敵が洞穴内部から結界を破ろうとした場合、隘路になるので大型の戦力は集中させにくい、ってわけか」


 リネットがにやりと笑う。


「内側から強力な戦力を入り口に向かわせた場合は、それはそれで戦力を引き付ける事になるからね」

「どちらに転んでも、というわけね。ヴァルロスが立てた作戦にも似ているわ」


 ルセリアージュが感心したように頷いた。確かに……瘴珠を送り込む作戦はそうかも知れないな。

 元魔人の面々は作戦会議中も、大分モチベーションが高そうだが、その辺はカイエンやユウ、サンダリオもそうだ。

 冥府の面々なのでカイエン達には詳しい事情までは伏せられているが、過去の遺産、負債に対抗するというところまでは察しているようで……それぞれ思うところがあるだろうしな。気合を入れて臨んでくれているのは……俺への義理があるからか。有難い話だ。


「それと……洞穴入り口への支援射撃が行えなくなるような状況……例えば基地外壁が突破された場合等は、身の安全を守る事を優先でお願いします。地下室等に昇念石の結界を張って、外壁が破られても立て籠もれるようにしておけば、敵の目的が儀式の妨害にあるのなら、そちらを優先するはずですし、かといって完全に無視する事もできませんから――」

「基地のみんなは、そうなった場合でも籠城しておけば安全を確保しやすい、というわけでありますね」


 リヴェイラが明るい笑顔になる。そういう事だな。洞穴内部に援軍に来られないように抑えはするが、無茶をしなければ本腰を入れる、という事はできまい。


「では、昇念石の用意は進めておきましょう」


 と、冥精達が頷いて応じてくれる。


「続いては、どうやって隠密行動をするか、だが」


 プルネリウスが思案しながら言う。


「それについてですが……基地内から乗っ取られたアイオーンを排除し、防諜関係の術式を会議室に施した事で、相手はすぐさま監視体制を強化してきました。この事から基本的には使役している怪物達か、乗っ取ったアイオーン等の五感を使って探知の網を広げているものと思われます。ですから、現時点で相手の探知を誤魔化せているなら、その辺の術式を維持したままで移動すればいいかなと。これは過去にもやっている手なので、何とかなりそうです」


 その他、特殊な手段でこちらの位置を感知している可能性も考えているが……相手の出方を見る限りだと、ここまでに講じた防諜関係の魔法で探知や感知を断つ事ができている、と見て良さそうだ。


「特殊な手段、とは?」

「それについてはまだ可能性の一つに過ぎません。対策はこれで良いとしても可能性としては考慮しておく必要がありますので、後程詳しくお話します」


 先王に絡んだ話にもなりそうだからな。冥精達を交えているこの場ではしない方が良い話題だろう。俺の返答からベル女王も察したらしく「承知した」と応じていた。


 後は……洞穴内部を巡回しているであろう斥候や、探知の為に要所要所に仕掛けられた罠や術式を発見して上手く回避していく事ができれば、という事になるな。


「元より、強行突破さえも視野に入れていたのだ。対策を講じて危険性を減らし、有利な状況を作れるというのなら、その方法で保全任務を進めるというのが良いだろう」


 ベル女王がそう言うと、みんなも頷く。


「では、テオドール公の作戦を進めていきましょう」

「準備をしている間に残りの面々も魔力の回復を図り、万全になったところで作戦行動を開始というのが良さそうだな」


 プルネリウスとベル女王がそう言って。冥精達も指示を受け、慌ただしく動き始めるのであった。




 ゴーレムメダルに術式を刻んで、早速作戦を実行に移す為の準備を進める。

 並行して魔法の鞄からマジックポーションを出して、疲労している面々の魔力回復も行いつつ、冥精達に昇念石に込める術式の解説をしてもらった。


 外壁が突破された後の立て籠もり用の設備に関しては、元々の構造を利用すれば問題なくできるとの事で、殊更地下室等の魔法建築を行う必要もなさそうだ。まあ、俺は俺で他にも仕事があるからそうして冥精達も気遣ってくれるのは有りがたい。念のために防御面に穴がないか確認しておけば、それで大丈夫そうだ。


 そうして作戦準備を行いつつ、冥精達が出払っている間に先程の特殊な探知をしている可能性についてもベル女王に話をしておく。これについては幾つか可能性があって……それのどれもが推論に過ぎない。

 ベル女王は静かに聞いていたが「確かに、それならば下手な仕込みをする必要もないかも知れんな」と顎に手をやって思案していた。


 仮にこれらの可能性が当たっていても外れていても、こちらが取るべき対策としては作戦通りで変わらないから……まあ、いざという時にどんな状況であれ、心構えができている事が重要だろう。


『いよいよ、でしょうか』

「そうだね。準備が終わったら一休みして、万全になったら出発する事になる」


 水晶板モニターの向こうにいる、グレイス達に答える。出発するまでは……そうだな。水晶板越しではあるが、みんなと一緒に過ごさせてもらうとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ