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番外1011 込められた想いまでは

 まずは対策の話し合いをする前に、敵の目が他にないか調べるという事で片眼鏡と共に魔力の網を伸ばして会議室回りをかなり細かく調べさせてもらった。


 そうして異常がない事を確認した上で、会議室に隠蔽結界や消音の術やらを張り巡らせて、対策の内容が漏れないようにしておく。


「他に探知の手段があるかは分かりませんが……一先ずはこれで大丈夫かと。基地内のアイオーンが倒された事と、こうした防諜で探知手段が途切れて……もしかすると外の怪物達にも変化があるかも知れません」

「いつもより注意して観察しておくのが良さそうですな」


 俺の言葉にディバウンズが頷き、基地内部に通達が行く。外の様子はハイダー達も見ているが、普段と違う微細な変化は普段から前線基地にいる面々の方が察知できるだろうしな。そうして準備が整ったところで作戦会議を進めていく事となった。


 ローズマリーの魔法の鞄と同じように、マルレーンからもランタンを借りてきているので、それを使えばアイオーンの装備に関しても実物に近い形を見ながら解説してもらう事ができる。


 ディバウンズはその辺が専門という事でアイオーンの装備を色々と出して説明してくれた。

 左腕に装着する装備の内一つは――見た目がクロスボウに似ているな。効果もそのまま、細く収束させた魔力の矢を放つというものだ。


「大凡の印象ですので、実物はまた異なるかと。参考程度に、という事で」


 そう前置きしてはいるものの、装備の見た目と共に連射性能や射程距離等々、特性を幻影で実演してもらえるのは中々に便利だ。

 アイオーンは冥精の補助を行えるよう、武器に限らず色々な装備品を持っているようだ。武器の類を開発しているのは、黒い怪物達や冥精の干渉対策をした脱獄犯のような相手と戦う事も想定しているから、だそうな。


 冥精の干渉をはねのける術式を牢獄内部で組み上げようとしていた囚人が実際にいて、発覚して脱獄は未然に防がれたものの、問題視されたという事件もあったらしい。


「アイオーンの開発か。禁忌にさえ触れなければとも思ったが、今度はマスティエルがこのような動きをするとは……難しいものだ」


 ベル女王はかぶりを振る。


「他人事、とは思えぬな。俺もカイエンには苦労を掛けてしまった」

「ここでこうして立ち会えたのも運命なのかも知れませんな」


 ユウとカイエンとしては……ベル女王の言葉や今の状況には思うところがあるのだろう。ユウは……強力な宝貝の副作用で失敗してしまった、という点では同じだからだ。

 そのせいで逆に気合が入って魔力が充実しているようにも見えるが。


「信任を受けて開発を進めておきながら、この体たらく。誠に申し訳ありませぬ」

「いや。誰かの役に立ちたい、誰かを幸福にしたいと信じる想いがあるからこそ生まれるもの。過程で失敗があったとしても、だからと言ってそこに込められた想いまで切り捨てる事はしたくない」

「陛下……」

「寧ろ造反を招いてしまった妾の不徳の致すところ、かも知れぬな」


 ベル女王の言葉に、ディバウンズは黙礼を捧げる。技術に込められた想いを汲む、か。冥府の先王も……そもそもの動機は平和や幸福を願ってのものだった、かも知れない。だから……ゴーレム技術の開発に葛藤や思うところがあっても、計画を止める事はしなかったのだろう。ベル女王は君臨すれど統治せずで、実務は信任する、という方針だしな。


「何か主張があって裏切ったという事ならそうですが。心の底で悪意を持っていたとか、どうしても相容れない理不尽な主張をする手合いもいますから、あまり思いつめない方が良いかと」

「マスティエルに話を聞いてみなければ分からない、か。気遣いには礼を言おう」


 俺がそう言うと、ベル女王は俺に静かに頷いてから、小さく笑みを見せた。


 そうして少し気を取り直したところで、更にディバウンズからアイオーンの性能やその他の装備等々、色々と教えてもらう。戦闘だけでなく様々な場面で任務をこなせるように魔力感知のレーダーやら運搬用の装備やらもあるらしい。工夫次第で戦闘や妨害工作に活用してこないとも限らないから、この辺の情報もしっかり押さえておくべきだろう。


 アイオーンの情報と対策を話し合ったら、続いて洞穴内部にどう進むかを考えていく。


「この魔道具はまた……便利だな」


 と、プルネリウスはマルレーンのランタンを使って呟く。洞穴内の構造や地下の施設部分を見て、事前に襲撃を受けそうなポイントや戦う上で気を付けるべき事等、対策を練っておくわけだ。プルネリウスは長年保全任務に携わっているだけに、色々と信頼度の高い情報を持っているからな。


「眠りの封印結界については、発動した場所は分かっているのですか?」

「私が見た時と変わっていなければこの場所かな。護衛の立ち入りを制限される奥に……結界を発生させる水晶と、それを罠として扱うための魔法陣が描かれていた」


 プルネリウスが可視化された施設の一か所を指差す。


「それが、私が覚えていた記憶に繋がるわけでありますね。プルネリウス殿には改めてお礼を言うであります……!」

「そうして元気な姿を見ると、不幸中の幸いではあったとは思う」


 リヴェイラが笑顔を見せるとプルネリウスも相好を崩して首肯する。

 プルネリウスはその光景を一目見て異常事態を察知し、即座に対応しようとしたというわけだ。そういう判断が早かったからリヴェイラは現世に退避する事ができた。

 敵の目的が儀式の妨害にあるのなら、リヴェイラの身柄を抑えるように動いてきただろうし、そうなっていたら事態はもっと深刻だっただろう。プルネリウスのしてくれた事はかなり大きい。そしてその後については……俺達の知る通りというわけだな。


『施設の奥となると、眠りの封印結界の解除は一足飛びに、とはいかなさそうね』

「マスティエルもその辺は警戒するだろうからね」


 ステファニアの言葉に頷く。

 と、映し出されている水晶板モニターに変化が見られた。それを受けてか、会議室の扉もノックされる。


「作戦会議中、申し訳ありません。外の様子に少し変化が見られたので報告に参りました」

「やはり、普段とは違うか」

「はい。こういう、あからさまに監視しているかのような動きを見せるのは初めての事です」


 プルネリウスの言葉に、入室してきた天使はそう教えてくれた。

 水晶板モニター越しに見る外の様子は――外の暗がりの中に、目玉のついた人魂のような形状をした怪物達がこちらを見ながら無数に飛び回っているのが見える。


『監視の目があるというのが伝わってしまったから、開き直って見逃さないようにしているのでしょうか?』

『ん。或いは焦りを引き出そうとしてる、とか』


 エレナがその光景に首を傾げると、シーラが言った。


「どっちも、というのも有り得るね。洞穴内に進行させないっていう、意思表示でもあると思う」


 当然、マスティエルが裏にいる事に気付いた事も分かっているだろう。なりふり構わないというか何というか。封印が解けるまでもたせられれば勝ちだというように思っているならこういう行動も分かる気がするが。


「自由に戦力を出せるにしても少し制約がある、とか?」


 ユイが口にするとみんなの視線が集まった。


「あ、えっと。私達が来るまで戦力を温存していたみたいだったから。いくらでも自由になるなら、そんな事をする必要もないのかなって」

「なるほど。実際に排除したら環境魔力も浄化されたからね。戦力を自由に出せるなら、温存する必要もない、か。楽観視しすぎるのも問題だから、戦力は出せても無駄にはできない、ぐらいに考えておくのが良いのかも知れない」


 俺が答えるとユイもこくこくと頷く。基地を出撃する瞬間を見逃さないようにしているというのなら、相手に察知させずに洞穴内部を進めれば最善であるのかも知れないが、さて。

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