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番外1010 最後に残された者

 原型を殆ど残したまま制御を乗っ取った黒い怪物を倒したという事もあり、残されたアイオーンは仮想循環錬気で十分に解析が可能だ。調べてみれば推測通り、黒い怪物による乗っ取りができるような……というより、それを目的としたような作りである事が分かった。


 上層の書庫にアイオーンの設計図も残っている。水晶板モニターで中継して設計図も見せてもらったが、やはり最初からバックドアが仕込まれていて、拡張性を残すという名目で設計者がアイオーンの直接の製造に関わらずとも、その部分が再現されるように作られていたのだ。


 設計ミスを見逃した、とは言い難い。実際に機能拡張として使用する事が可能だし、セキュリティに穴を開けられるのは、整備用のコマンドワードを知っていればという条件に限る。

 要するに……その事を詳しく知っている者でなければアイオーンにバックドアを仕込む事はできない。


「疑いようもない、か。マスティエルは――物静かではあるが真面目な性格、だと思っていたのだが。魔法に対しても才覚を見せ、様々な仕事を積極的に進めてくれていた。何故……そんな真似をしたのか」


 ベル女王が行方不明になっている冥精の名前を口にする。他の冥精達も信じられない、と驚いている様子だ。


「マスティエルの裏切りに関しては……間違いないのですか?」

「アイオーンの設計時点で組み込まれていて、それを悪用したとなると……他の者が、というのは考えにくいところがあります。開発と保全任務関連……両方に関係する者は、私とマスティエルという事になりますから、怪しいというのなら私も、という事になりますが」


 冥精の質問に、ディバウンズがそう答えるが、ベル女王は首を横に振った。


「ディバウンズの開発指揮に関しては、アイオーンの方向性と完成度に関する話を武人としての立場からマスティエルと打ち合わせをしていたと聞いているが」

「確かに。魔法生物やゴーレム関係の技術についてはディバウンズ殿の専門ではないでしょう」


 ベル女王の言葉に、プルネリウスも同意する。ディバウンズは、白だと考えているのだろう。


「そうですね。ディバウンズさんも裏切っていたのであれば、そもそも循環錬気による解析を許可したりはしないでしょう。アイオーンの性能を見せる手段なら他にもあったわけですから、その方向に話を持っていけば良かっただけの話です」


 そう言うと、ベル女王達も納得したというように頷いた。

 その後の対応を見ても暴走してしまった事に驚き、事態を収拾しようと動いていた。

 敵であるならば、例えば……俺の循環錬気で暴走してしまったという方向に誘導したり、触れていなかったもう一体のアイオーンを行動させないようにする事で、不信を呼び込む……等といった事もできたはずだ。


 だから、ディバウンズが敵と繋がっているというのはそもそも考えにくい。魔道具による確認も済んでいるというのもそのへんの推測を後押しするものではある。


 マスティエルという冥精について話を聞いてみると……総じて優秀という印象だった。人格面でも物腰が柔らかくきっちりとした仕事をしてくれるとか、亡者達に対しても思いやりがある振る舞いや言動をするとの事で、多方面から信頼を受けていたらしい。


 魔法技術関係でも頭角を現しアイオーンの開発に携わったが、そんな当人が興味を示し、参加を希望したのが保全任務なのだと言う。


 マスティエル自身は顕現してから日の浅い、若い冥精であるらしいが……そもそも冥精がそうした裏切り行為に及ぶという前例がなく、若いかどうかはそこまで重視されたりはしないらしい。だからこそベル女王達の反応としても予想もしなかった、というものになるのだろう。

 かといって、マスティエルの表向きの態度、行動を見ていても動機に繋がるようなものは見えてこないようではあるが。


 例えば……封印されている先王の影響を受けて、ベル女王や今の冥府の態勢を破壊しようと思うような冥精が顕現する事になった、とか? それならば一応説明はつくが。


『……何故、という動機の面は分からないにしても、何時からそんな事を考えていたのでしょうか?』

『設計時点から計画を練っていて今になって動き出したわけでしょう? ずっと封印が弱まる機会を窺っていたという事になるから、かなり前から準備を進めていたのではないかしら』


 グレイスが首を傾げるとローズマリーも答えながら思案を巡らせているようだった。


「確かに……。この状況を予見して周到に計画を練っていたようだし、かなり以前から目的の為に動いているような印象があるね」


 信用されるように実績を積み……平時にアイオーンに最初から仕込みをして、設計図も詳らかにしておく。それも通常であれば問題ないはずの構造にし、拡張機能と見せかけるといった偽装もしておくわけだ。


 仕込みをした上で保全部隊に加わり、自ら行方不明を装って暗躍する。

 黒い怪物達を制御できる手段を持っているにしても、それをアイオーンの乗っ取りに利用したのは……行方不明になったまま秘密裏の行動をした場合、設備の利用が難しいからか、それとも他に理由があるのか。


「昇念石の結界内部なのに、さっきのアイオーンは普通に動いていた。アイオーン内部で制御を乗っ取っているなら昇念石の影響を受けずに行動できる、と考えられる」


 つまりは冥府側の手札に対策をした戦力を洞穴内部に呼び込む事ができる上に……保全部隊が再度現れても、アイオーン部隊の乗っ取りを知らなければ、その場で奇襲を仕掛けられる。


 ……いずれにしても封印が弱まった時の事を想定して、一貫した行動をしているな。

 となれば、このまま洞穴内部に進めば、必ずアイオーン部隊を保全任務の妨害に動かしてくるだろう。マスティエル当人も……そこで遭遇できるかも知れない。裏切りがバレてしまった以上、もうここで勝負を賭けなければ逃げ場はないだろう。


「昇念石で減衰できない……。マスティエル本人もだが、ここに来て厄介な敵が増えてしまったものだ」


 ベル女王がかぶりを振った。そうだな。マスティエルも話に聞いていると魔法技術に長けた冥精だというし。


「それも含めて、作戦を練る必要がありますね。封印については周辺施設を敵に抑えられていると仮定して……その場合は大丈夫なのでしょうか?」

「根幹となる封印については直接破るという事はできぬ、はずだ。負荷をかける事で封印の減衰を早める事は可能かも知れないが……いや、だからこそ近年になって封印の劣化が早まっていたのか?」


 ベル女王が顎に手をやる。マスティエルの仕業とすると、色々な事に説明がついてしまうか。


「原因、理由はともかく、いずれにしても……成すべき事は変わらない、か。妾の不徳が招いたものだとしても、今は事態を解決するために前に進まねばならない」


 やがてベル女王は意を決したというように顔を上げる。


「そうですね。対策の必要があるものは増えてしまいましたが、知らずに突入するよりは状況が良くなったかと」


 俺がそう言うと、リヴェイラやユイ達も真剣な表情で頷いた。

 ポジティブに考えるのなら……要救助者を装ったマスティエルや、味方だと思っていたアイオーンによる奇襲を受ける、という事もこれでなくなった。戦闘は元々想定していたので、敵の性質を事前に知る事ができたのはプラスだと考える。洞穴突入直前なので、本当にギリギリの看破ではあるが。


「出払っているアイオーンの装備についても伝えておく必要がありますな」


 ディバウンズが言う。その辺が分かっていれば対策もしやすくなるな。素体の構造部分の脆い場所についても、残骸が残っているのだからそれを元に俺からも解説できそうだ。

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