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番外1007 洞穴への突入に向けて

 ハイダー達を配置して、外の状況を水晶板で確認可能にしてから、話し合いだ。前線基地は簡素な造りだ。利用しているのも冥精達だから当然人が使うような設備は最初からないが、話し合いを行う為の会議室や、指揮を行う為の発令所のようなものは造られていた。

 机と椅子も建材がそのまま盛り上がったような一体成型の造りではあるが、腰を落ち着けて話をするには丁度良い場所だ。


 マジックポーションを同行してきた保全部隊の面々に渡して魔力補給等を並行して行いながら会議室で話し合いだ。


「――こうして、妾も昏睡から回復する事ができた」

「解析から治療まで可能になったという事は、対策にも繋がる。テオドール公に改めて助力をお願いした、というわけだ」

「一旦現世に戻り、そのまま魔道具の準備まで進めてきました」

「おお。その魔道具があれば有人で洞穴内部に進む事も可能、というわけですな」


 ベル女王とプルネリウス、そして俺からの説明に、ディバウンズは納得したように頷く。ディバウンズは保全部隊に何かあった時の支援を行う為に、ある程度事情の説明を受けているらしい。

 但し、リヴェイラの正体や封印されているものが先王という事までは知らなかったそうで……その辺の事情を聞くと結構な驚きを露わにしていた。


「実際に、内部に潜入して効果を確かめる必要もありますが」

「効果が間違いなければ、妾達はそのまま保全任務を今度こそ完遂するつもりでいる。……秘匿していたのは紛れもなく冥府の為ではあるが……今日の事態は妾の不徳で不信を招いた結果かも知れぬな。ディバウンズにも苦労をかけてしまった」


 ベル女王が少し表情を曇らせると、ディバウンズは目を閉じて首を横に振った。


「いえ。そういった事情なら確かに情報の秘匿は必要でしょうな。もし信用のおける神格者であれば知らせて良いという規則であれば……逆に冥精達の立場がありますまい。陛下の他に背景を知る者が最古参のプルネリウス殿だけだからこそ、それだけの事情があるのだと私や皆も納得していたのですから」


 冥精達に気持ちの上で納得してもらう為にも、事情を知る者はごくごく限られている必要があったと、そうディバウンズは考えているわけだ。そうしてベル女王やプルネリウスは他にも詳しい事情を説明していく。


「どこからか情報が漏れている……のでしょうな」


 それらの説明が終わると、眉根を寄せてディバウンズが言った。


「状況から考えるとそうなります。対策の魔道具に関しても、上層での襲撃があったから契約魔法を組み込んでいます」

「承知しました。洞穴内部に同行する者、基地に残って後方支援する者に限らず、全員に対策魔道具での確認を行いましょう。無論、私も含めてです」


 ディバウンズは迷う事なくそう答えた。内部に敵がいるかいないかの確認の意味合いもあるが、後方支援担当も必要になったら洞穴内部に入る事ができるようにしておいた方が、対応の幅も広がるし、全員でというのは必要な措置だろうな。


「勿論、内部に犯人がいない可能性もあります。あの黒い怪物達を使役したり制御できる術があるとか、僕達が気付かない方法で遠隔の物事を察知する方法があるとか。上層に刺客を送ってきたのなら、魔法生物やゴーレム作製、召喚術等の魔法に通じている可能性も高いですね」

「人知れず密偵を行うのも、それらの技術を持っていれば、確かに可能ですな」


 ディバウンズは顎に手をやって思案を巡らせているようだ。


「そうですね。今回動きを把握されていた事にしても、この場所に至るまでの経路は一つしかなく、そこに何らかの方法で動きを察知する方法を仕込む事は不可能ではありません。実際、昏睡させられたのは設備の守りを悪用されたわけですから」


 情報に触れる機会は過去にもあったかも知れない。冥府は概ね平常通りだったから、今に至るまでに発覚せず、準備をする時間もあったはずだ。だから今の状況だけを見て犯人を特定する事は難しい気もするし、その為に現場の不和や不信を引き起こしていては本末転倒だ。

 その辺の事を説明するとディバウンズは真剣な面持ちで「それについては念頭に置いておきましょう」と答えていた。

 こちらの説明が終わったところで、ディバウンズも前線基地の状況を説明してくれる。


「プルネリウス殿達が戻らず、事態が発覚してからは決められていた手順通りに行動しておりましたが……洞穴内部に潜入した者達から、ある領域から踏み込むと昏倒してしまうという報告があり、そこで足止めを受けました」


 保全任務が滞った状態が続くと黒い怪物の出現も予見されていた、というのはディバウンズ達も承知していた。

 そこで一刻も早く全員を救助し態勢を立て直す事を念頭に、他の階層からの援軍を募り、洞穴の入り口を固めつつアイオーンを送り込む準備を進めたそうだ。その辺の話は、リネットから聞いたのと同じだな。


 その後は黒い怪物達と戦いながらアイオーンを洞窟内部に送り込んで人員の捜索や救出を続けていた、という事らしい。

 話を聞いてみれば、前線基地付近では消耗を狙うように怪物達の攻撃も続いていたし、下層でもあちこちで出現が起こって冥精達は対応に追われていたそうだ。だが……ここ数日になっていきなり黒い怪物の出現頻度が下がった、との事である。


 聞いてみれば……それはリヴェイラとプルネリウスが上層で襲撃を受けた頃合いと一致している。


「そちらの事情を窺ってからだと……大規模な攻撃の前に戦力を温存していた、というように聞こえますな。実際、怪物達があれほどの規模で動いているのを見たのは……指揮を執ってから初めてです」

「ディバウンズさんは、あの怪物達をどう思いますか? 単なる暴れ回る怪物というには、些か動きや出現の仕方が戦略じみているように感じるのですが」

「――戦い方に何者かの意図が介在している。或いは出現の仕方を制御されている、というのは有りそうな気がしますな。暫くの間襲撃を受けていて、こちらの精神を削るように動いているというのは感じました」


 指揮官としてここまで対応してきた、ディバウンズから見てもそう、という事になるか。


「だとするならば当然――妾達が洞穴の内部に向かおうとする事や、保全任務を完遂しようとする事を、妨害してくるであろうな」


 ベル女王の言葉に、一同が神妙な面持ちで頷く。そう、だな。それは当然予想される。犯人の動機と最終的な目的は不明だが、行動だけを見ればこちらの妨害という点で一貫している。敵の想定している最終防衛ラインがどこにあるのかは分からないが……怪物達の妨害を潜り抜けて封印の儀式を成立させる必要があるだろう。


「突入の際は……保全任務の手順を踏まえた上で、しっかりと作戦を練る必要がありますね」


 俺達の下層到着まで温存していたわけだから、洞穴内部でもそうならば相当な激戦になるのが予想されるが。


 だが、明るい材料もある。儀式の間、ベル女王とリヴェイラの安全確保をやり遂げれば、それで目的の達成だけでなく帰りの安全まである程度確保される、という点だ。


 仮に……あの黒い怪物達の中にそう見せかけた魔法生物が混ざっていたとしても、現在出現している大多数が先王の目覚め……封印の状態に連動しているのは明らかで、その問題が解決すればそれらも消えるから、帰り道の危険度はかなり下がる、という事になる。


 まあ、その為にも俺達と保全部隊、それから前線基地の面々の持つ能力、戦力等は可能な限り把握しておくべきだな。ディバウンズ達の意思を契約魔法で確かめたら、アイオーン等も見せて貰うとしよう。

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