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番外1001 下層拠点にて待つ者達

 下層の拠点に進むと――出迎えの冥精達が現れて、俺達は内部へと通して貰う事ができた。

 精霊達の居場所であるため、街、という雰囲気ではないな。守りやすい構造をしているので、やはり要塞というのが正しいのかも知れない。

 内部は昇念石によって清浄な環境魔力が広がっていて、冥精にとっては居心地が良い場所であるらしく、この場所であれば待機して活力を得る事ができる、との事である。


「――逆に言うなら、あの怪物達にとっては攻め落とし難い場所であろうな」


 と、それらの事をプルネリウスが解説をしてくれた。


「とはいえ、防衛戦で消耗するのは事実。あまり長くこの事態を放置する事はできまい」

「ですが、女王陛下が目覚めて解決の為に動いていると広まり、皆の士気は上がっておりますよ」


 ベル女王の言葉に、下層の冥精が答える。

 ああ、それは何よりと言うべきだろうか。精霊達は特にそういう、士気の面は重要そうな印象があるし。


「ふっふ。妾が眠っている間も奮闘してくれていた、と聞いたぞ。そなた達の想いを嬉しく思っている」

「有りがたいお言葉。ですが、それについては――我らだけの力というわけでもありませんからな」


 と、ベル女王と鬼達がそんな会話をしながら通路を進む。通路の方向と距離を考えると……鍾乳石の内部に入っているな。


 建材は自然の石材をくり抜いた印象で滑らかな質感だ。冥精の魔力が宿っていて……見た目は似ていても普通の鍾乳石とはまた違うように見える。

 少なくともあれだけの規模の建造物を支えるだけの強度がある、というのは間違いなさそうだな。

 やがて俺達は大きな扉がある部屋の前に到着する。

 扉を開けて内部に進むと、冥精達と何人かのレイスが俺達の到着を待っていた。

 ベル女王の目覚めを喜び、それから俺達にも挨拶をしてくる冥精達である。


「ようこそいらっしゃいました。我ら一同、テオドール殿を歓迎いたしますぞ」

「ありがとうございます」


 冥精の言葉に一礼して応じる。冥府の鬼と悪魔達は笑顔で頷くと、控えているレイス達を紹介するように彼らに視線を向けた。


「彼らは、禁忌の地には向かえないという事で、下層の拠点や監獄の防衛、秩序維持に尽力してくれた者達です」

「女王陛下が共にいれば禁忌の地の同行も問題ない、との通達を受け……テオドール殿に是非協力したいと申し出てくれました」


 そうなのか。頷いてレイス達に視線を向けると、彼らは顔を覆う暗黒に手をやる。

 俺達の見ている前で暗黒が薄れていき、レイス達の顔が見えるようになっていく。そこには知っている顔があった。以前戦った高位の魔人――炎熱のゼヴィオンと舞剣のルセリアージュだ。


「ゼヴィオンとルセリアージュ、か」


 俺の言葉を受けてゼヴィオンは静かに頷き、ルセリアージュは不敵に笑う。少しばかりの緊張はあったが、二人の反応に敵意はないようだ。


「久しいな、少年」

「まさか……こんな場所までやってくるとはね」


 と、二人は俺に言った。中層には戻らず、下層の援軍として残った、か。確かに実力を考えれば、下層でそのまま防衛に動くというのも分かる気がする。


「そっちのはギルムナバルよ。貴方達とも面識があったわね。とは言ってもギルムナバルは今回同行せず、拠点の防衛として残る予定だけれどね」


 もう一人、一歩離れて後ろに控えているレイスがルセリアージュの言葉を受けて一礼する。ルセリアージュと共に精霊殿へ攻めてきた……木龍の姿を持つ魔人だったか。


「久し、ぶりだな」


 と、挨拶をしてくる。ギルムナバルの人間形態の顔を見るのは初めてだな。魔人ではなくなっているからか案外落ち着いた雰囲気の普通の男、という印象だ。ルセリアージュに忠実な印象があったが、行動を共にしているあたり、冥府に来てもそれは変わらないのかも知れない。


「よろしく頼む……で良いのかな」

「構わない。我らに、貴公を恨む気持ちはない」

「不快に思っているのなら、わざわざ協力を申し出たりはしないわね」


 ゼヴィオンとルセリアージュはそう言うと笑みを見せ、ギルムナバルも静かに頷く。

 魔人化が解けた事で物の見方等が変わっているのはゼヴィオン達も一緒らしい。


「いつぞやより更に腕を上げたようで、素晴らしい事だ。再戦を挑むには――残念ながら俺の方の釣り合いが取れないか。まだまだ研鑽が必要だな」

「こうして冥府を生きたまま訪れて、こっちの問題解決に動いているという事は……現世の問題も解決しているという事なのでしょうけれど。テスディロスやウィンベルグが一緒というのは、興味深いわね」


 なるほどな……。力を重視する魔人だからか、自分を倒した相手という事で、評価を高く受けている印象があるというのはリネットと同じだが。


「積もる話もあるだろう。物資の補給や配分、これからの事に関する指示もある。それが済むまでは話を続けて貰っていて構わぬぞ」


 ベル女王が言うと、ゼヴィオン達は頷く。そうだな……。リネットにも話をしたが、その後の顛末については伝えておく必要があるだろう。時間を作ってくれたのも、ゼヴィオンやルセリアージュと話を通して協力関係を築けるようにという事かも知れない。


 諸々の話をする前に、初対面の面々も多いので紹介をしていく。リネットを紹介する段になって、彼女に視線を送ると頷いて自ら自分の顔を覆っていた暗黒を取り払う。


「リネットだ。まあ、一応あんたらの事は知っているが」

「話には聞いていたけれど、実際に会話をするのは初めてね。ヴァルロスが高く評価していたから、気になってはいたわ」

「そうだな。確かに。よろしく頼む」


 ルセリアージュの言葉にゼヴィオンが頷き、片手を前に出す。リネットはその手を見ていたがやがて握手に応じる。リネットとしてはヴァルロス一派の魔人達とはソリが合わなかったと言っていたが……今の会話を見る限りだと、落ち着いている印象だな。

 お互い、当時とはまた感じ方や物の見方も違っている、というのもあるとは思うが、いずれにしても共闘、協力するという事で円満な関係を築こうとしてくれているようだ。


「他にも魔人達はいるのかな?」

「レイスとなっている者達は何人かいるようだな。現在は中層か下層で秩序維持の為に動いていると思われるが、全体までは把握していない」


 俺の質問にゼヴィオンがそう言うと、ルセリアージュも頷いて教えてくれた。


「下層防衛の任務の折、ガルディニス老にも会ったわ。御老体は外の騒動は知っているけれど、独房の中で大人しくしていると言っていたわね」

「そう言ったからには、あの御老体が混乱に乗じて何かする、という心配はあるまい」

「最初の世代の魔人は……私達とは少し事情が違うという事ね」


 魔人になる事を選択した最初の世代の魔人は――生まれつきそうだった魔人とは少し違う、という事か。とはいえ、ガルディニスはまあ……ゼヴィオンの言うとおり自ら口にした事を翻すような印象はないから、安心というのは確かにその通りかも知れない。


 レイスは生前の姿が分からないように配慮されているが、下層の防衛戦で能力を行使したのでゼヴィオンとルセリアージュは互いに気付いたらしい。ギルムナバルもその時にルセリアージュに気付いて合流したそうだ。


 そう、か。では折角話をする時間も貰ったし、俺の方も事情を話していこう。リネットにも伝えたが、魔人絡みの事については気になっているだろうし、ヴァルロス達との顛末やオルディアの事やオズグリーヴとの事は伝えておこう。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!


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お陰様で番外編も1000話を越え、コミック版1巻も重版となり、応援して下さっている読者の皆様には改めて感謝申し上げます!


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今後とも更新頑張りますのでよろしくお願い致します!

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