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番外998 女王出陣

 皆に見送られて天弓神殿へ。そこから冥府上層の書庫に飛んだ後で、ベル女王に広域型の魔道具を渡して、刻まれた契約魔法を発動させていく。

 机の上に置かれた首飾りに触れてもらい、俺は向かいに座る。マジックサークルを展開しながら契約魔法の文言を読み上げ、それをベル女王が承諾すれば契約魔法は成立だ。これでベル女王しか使えない魔道具、となる。


 とはいえ広域型の契約魔法の条件は登録した本人唯一人しか使えない事、だ。


「以上の事からこの魔道具は登録した者しか使えません。この魔道具の唯一人の使用者となる事を承諾しますか?」

「――承諾しよう」


 ベル女王が言うと、魔道具が燐光を帯びた。


「ふむ。これで良いのか?」

「そうですね。後は魔道具を発動させようと思えば、女王陛下を中心に球状の防壁が展開されます。ディフェンスフィールドとも相性が良いので、その魔道具も持ってきています。これも陛下に運用をお願いしたいのですが」

「良かろう。おいそれと戦闘には加われないが、魔道具であれば力の行使も容易であろうしな。共に行動する者達を助けられる、というのなら尚更だ」


 と、ベル女王は快くディフェンスフィールドの魔道具も受け取ってくれる。

 高位精霊なので影響力を考えると自身の力を振るうのは少し問題があるが、その点魔道具なら安定した効果が出せるというわけだ。


 魔道具を身に着けたベル女王が軽く腕を振るうと、ドレス姿だったベル女王が、軽く光に包まれ、ブレストプレートやガントレットを纏った戦装束に変わる。

 おお、という歓声が冥精達から漏れた。ドレスアーマーとでも言えば良いのか。黒色の金属が末端に行くに従って暗い紫色のグラデーションになっており、所々魔力のラインが走っていた。ベル女王には……良く似合うな。


「これはかつて上層で暮らしていた者達が作ってくれたものでな。力は振るえないまでも、王であれば身を守る品は必要だろうとな。魔道具自体の守りに関してはこれで大丈夫だろう」


 なるほど。鎧もベル女王の召喚に応じて装着されたようだ。何やら、相当な魔力を秘めた鎧のようだが。


「七賢者、であったか。これはそなたらの祖先が作ったもののはずだな」

「そう、なのですか?」


 俺達が驚きの表情を見せると、ベル女王は楽しそうに、けれどどこか懐かしむように笑う。


「うむ。当人達は常世の安寧よりも、生きて現世の役に立つ事を望んでいたから……ここからは去ってしまったが」


 そう、か。シルヴァトリアの前身となるベリオンドーラを建国した月の民達。魔人の盟主ベリスティオと戦って封印した俺達の先祖。

 去るといったが、渦に戻って生まれ変わった、という事になるな。そういう選択もまた、七賢者らしいかも知れない。会って話をしてみたくもあったが。


「色んな所で足跡を残しているので……七賢者の方々とは奇妙な縁を感じますね。いや、実際にご先祖様なのですが」

「ふふ。先祖とその子孫がこうして力を貸してくれているのだから、妾としても縁を感じるよ」


 俺の言葉にベル女王は肩を震わせる。ともあれ、ベル女王自身の出陣の準備はこれで整ったというわけだ。

 元々保全任務に参加していた冥精達は全員再度の同行を希望している。洞穴の構造等も知っているし、経験という面で優位に立てるので納得の人選だろう。


 個人型の魔道具を使えば簡易ではあるが敵かどうかの判別が可能だし、封印を受けて昏倒していたというのは他ならない俺自身が確認している。自分達が仕掛けた罠に敢えて引っかかり、目覚めた後即座に状況を把握してリヴェイラとプルネリウスへの襲撃を実行した、というのは些か考えにくい。俺達としても同行者として安心できる面々だと思う。


 それでも敵が身内にいるかもというのはあるので、一人一人に個人型魔道具を使用してもらう。契約魔法の内容に同意すれば発動できるというのは同じだ。だがまあ、個人型に関しては使用者を限定するわけではないので、宣誓して魔道具を起動させられるか見てから別の者に渡して同じことを繰り返していけば良い。


「僕は保全任務を成功させたいと思っています。その為にこの魔道具を活用します」


 そう言って魔道具を起動させて見せてから、ユイ達――現世組やリヴェイラにも同じようにしてもらう。まずこちらの身の証を立ててから、同行する冥精達にも同じようにしてもらう、というわけだ。


 同行を希望している冥精達は快く応じてくれた。それぞれ同じ文言を唱えて魔道具を起動させていく。魔力の流れを見て、問題がない事を確認していった。


 プルネリウス、カイエンとユウ、サンダリオとドルシアも同行を希望しているので、魔道具を起動して見せてくれた。


「留守の間の上層を預かる立場ではありますが……保全任務成功のために後方支援として頑張ります」


 レブルタールもそう前置きして魔道具を起動していた。レブルタール以下、上層を警備する天使達の主だった者も同様に魔道具の起動をしてくれる。結果としては――今回魔道具の起動に携わった全員が問題ないという結果だ。


『全員味方でいてくれて良かったです』

『仕事も手伝ってくれたし、お話もしていたものね』


 安堵したように胸を撫で下ろすエレナに、ステファニアが同意する。書庫で手伝ってくれる冥精達や、目を覚ました保全部隊の面々とも話をして交流が生まれていたからな。顔見知りになった者が実は敵だった、というのは精神衛生上よろしくない。

 冥精達は既に全員戦装束で、もう出発する準備も万端といったところだ。まずはこのまま中層に移動し、リネットと合流という事になるか。


 シーカーとハイダー、ティアーズ達に関しては上層や中層に一部を残し、中継や偵察ができるように残りを同行させるという形をとる。これにより、俺達が下層で行動している間に上層、中層で何か起こってもすぐに把握できる。


「では――参ろうか」


 ベル女王の言葉に冥精達が頷き、そうして中央の塔から出陣する事となった。

 塔の入り口に向かうと既に見送りの列が出来ていた。天使達が一糸乱れぬ隊列を組んで、跪き、道の両脇を固める。

 先んじて移動してきたのだろう。正面にレブルタールと、先程魔道具で後方支援をすると宣言した天使達が出てくる。


「我ら一同、女王陛下と客人方のお帰りをお待ちしております」

「任務中の上層の守りはお任せください」

「うむ。そなた達の高潔な想いには感謝している」

「ベルディオーネ女王陛下と、テオドール公達に武運長久を!」

「武運長久を!」


 レブルタールがそう言うと天使達も唱和し、そうして彼女達も道の脇に下がる。旗が掲げられて笛が吹き鳴らされた。そうして中層に至る道を皆で進んでいく。

 任務であって親征ではないが……危険な場所に赴く事は変わらない。そんな場所への女王の出陣となれば冥府でも滅多にない大事だろうからな。上層の面々も街中から俺達の事を拍手と歓声で見送ってくれた。


 転移門を通り、小島から中層へと飛ぶ。転移先は中層の都市部外壁だ。ここから更に下層へと向かうわけだな。

 ヘスペリアと冥精達。それからリネットも俺達の到着を待っていたようだ。


「お待ちしておりました、陛下」


 と、ヘスペリアが明るい笑顔でベル女王を迎える。


「うむ。ヘスペリア達にも心配をかけたな」

「勿体ないお言葉です」


 ベル女王とやり取りを交わしてから、ヘスペリアはこちらに顔を向ける。


「この子達をお願いします。僕達も中層の状況を見る事が出来るようになるので」


 と、シーカーとティアーズを合計3体渡しておく。既に中層の都市中央の塔も中継が出来る状態なので外部巡回に活用してもらう事になるな。


「うん。そっちは任せて」

「さて。それじゃ気張っていこうかね」


 フードで顔を隠して、レイスの姿を取ったリネットが言う。街の子供達にも暫く姿を見せないと心配されるからと少し仕事で中層を離れると伝えてきたそうだ。『何だか随分と応援されちまったがね』と肩を竦めていた。

 子供達も中層で起きた騒動の原因をリネットが解決に行くと、何となく気付いているのかも知れないな。

 では――下層に向かうとしよう。黒い怪物が出現して戦闘が続いているという報告も上がっている。あれから動きを見せない敵の事もあって油断はできないからな。リネットの言う通り、気合を入れて行くとしよう。

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