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番外997 魔道具と応援と

 冥府から現世。天弓神殿に飛んでからフォレスタニアへ。もう、こうした移動にも慣れてきた感があるな。

 城の一角に向かうとみんなと共にアルバートと工房の面々、それから応援の顔触れが俺達を迎えてくれた。今回は封印という時間的な制約もあるので、メルヴィン王がヴェルドガルお抱えの魔法技師達に声をかけてくれたり、七家の長老、オーレリア女王やメギアストラ女王達も応援に来てくれて、人員の質と量を増やして一気に個人携行用の魔道具を増産したわけである。


「おかえりなさい……!」

「おかえり、テオ君」

「ああ。ただいま」


 といった感じのやり取りをみんなと交わして、早速、作戦室の隣の部屋で、アルバート達が用意してくれた対策魔道具を机の上に並べて確認していく。

 まずは4つ用意された広域型魔道具からだ。広域型も個人型も首飾りの形で、防具の下に装備する形だ。肌身離さず身に着けられるようにする事で、身を守るのと同時に魔道具も守れるようにしておかなければならない。

 広域型は円形、個人型は四角の浅い掘り込みがあって、デザインで種類が区別できるようになっている。


 眠りの封印結界が展開されている空間内では、この魔道具が文字通りの命綱になる。破壊された時は自分の意識も奪われるという事を考えると、状況によっては即座に致命的な事態になるからな。


 性質上、実地試験で失敗するというのは昏倒する者が出るというのと同義だ。そこから回復させられるのが俺しかいないという現状では、実地試験は俺以外の誰かに試してもらうという事になってしまうが、上手く機能しなければ、また対策装備の調整に時間を食ってしまう。なので……しっかり機能するかどうか、運用前に刻まれている術式や魔道具の精度は確かめておく必要がある。


 魔道具は契約魔法を経なければ起動しないというセキュリティを組み込んでいるが、ウロボロスで魔力波長を合わせ、予め設定したパスワードを打ち込む事で内部術式の閲覧をしたり、メンテナンスが可能という作りにしてある。

 というわけで魔道具がきちんと機能するか、術式を閲覧し、ウィズと共にシミュレートして確認していく。


「――うん。問題ないね。術式も綺麗に刻まれてどれも完成度が高い」

「それなら良かった」


 アルバートが俺の言葉に笑みを見せる。

 工房の面々もそうだが、手伝いに来てくれた顔触れも相当なものだからな。諸々の術式がきちんと機能するのは勿論、魔力補給等もしやすいようにきっちり仕上がっている。


 続いて、個人型の方も一つ一つ手に取って調べていく。こちらも完成度は高いな。数打ちの実用品という分類になってもおかしくはないのに、刻まれた術式や意匠等において、手が抜かれているものは一つとしてない。


「この短時間でまた……随分と気合を入れて作ってくれましたね」

「まあ、魔法絡みの品は装飾もしっかり作っておくと性能が上がるからのう。アルバート殿下がお作りになった加工用魔道具の存在も大きいが」


 と、お祖父さんが俺の言葉を受けて教えてくれる。懐中時計の加工に使った魔道具だな。あれもここで活用されているようで。装飾と意匠の兼ね合いで紋様魔術を施して強度を上げたりしているが……それが相乗効果で魔道具の威力を底上げしてくれている。


「皆のお気持ちは――確かに受け取りました。ありがとうございます」


 限られた時間でここまで仕上げてくれるというのは心配してくれたからこそ、だと思う。丁寧に術式を刻んでいるのが魔道具からも見て取れるからだ。


「テオドール公には普段からお世話になっていますからね」

「うむ。魔界の迷宮のお披露目はテオドールやユイ達と共に迎えたいしな」


 礼を言うと、オーレリア女王とメギアストラ女王が明るく笑って応じる。


「お城の魔法技師の方々もとても丁寧なお仕事をしてくれたようですね」

「ふふ。その言葉は今日ここに来ていない技師達も喜ぶだろう。テオドールが様々な魔法技術を齎してくれたからな。城の魔法技師達は相当にテオドールとアルバートを尊敬している」


 そうなのか。フォレスタニア城を訪問してきている魔法技師達がメルヴィン王の言葉に合わせるようにして深々とお辞儀をして、隣のジョサイア王子が相好を崩す。

 それを見てメルヴィン王も微笑んでいたが、こちらに視線を向ける。


「必ず帰ってくるのだぞ。テオドール達と共に孫の顔を見られる事を楽しみにしているのだからな」

「それは――楽しみですね」


 そんなメルヴィン王の言葉に、お祖父さん達も目を閉じてうんうんと頷いたりしていて。俺もそんな反応に笑みが零れてしまう。


 そうして魔道具の確認を一通り終えたところで、魔法の鞄にそれらを収納していく。


「よし。こんな所かな」


 するべき作業を終えた所で顔を上げ、俺の作業が終わるのを待っていてくれたグレイス達がいる作戦室に向かうと、彼女達も微笑んで俺を迎えてくれた。シーラの場合は耳と尻尾にしか反応は出ていないし、ローズマリーは羽扇で表情を隠したりしているけれど。


「それじゃあ行ってくるよ」

「次は洞穴に突入、でしょうか」

「そうだね。まあ、下層の状況を見たり、指揮を執っているディバウンズさんに紹介して貰ったり……すぐにっていうわけではないけれど」


 とはいえ、下層に向かえば事態が加速度的に動いていく事も考えられる。そうなると事態解決までフォレスタニアに戻ってくる余裕がなくなる可能性もある。それはみんなも分かっていて、俺の言葉に頷くと立ち上がり、そっと抱擁された。みんなも気を遣って魔道具の確認も隣の部屋にしてくれたわけだしな。短い時間ではあるが、夫婦水入らずの時間だ。


「お気をつけて。私達は大丈夫ですから」

「みんなで一緒に……無事に帰ってくるのを待っていますね」


 グレイスとアシュレイが言う。代わる代わる抱擁されて髪や頬を撫でられたりして、柔らかな感触と、仄かな香りが鼻孔を擽っていく。


「いって、らっしゃい」


 抱擁した後の離れ際、マルレーンが声を聞かせてくれた。


「――うん。気合が入るな」

「ふふ。テオドール君はそう言って、いつもきちんと帰ってきてくれるものね」

「ん。でも怪我はしないで」


 と、イルムヒルトとシーラが言う。そうだな。怪我をしてみんなに心配させるのは俺としても本意ではないし。


「リヴェイラや皆と一緒に、無事に帰ってきてね」

「お帰りをお待ちしています」


 クラウディアとエレナ。離れ際に頬に軽い口付けをして……二人とも顔を赤らめている。クラウディアは目を閉じ……エレナは気恥ずかしげではあるものの、はにかんで微笑んでいたりして。


「まあ、そうね。それで気合が入るというのなら……」

「ふふ。マリーも素直じゃないわね」


 目を閉じて呟くローズマリーと、そんなローズマリーの様子を見て楽しそうに笑うステファニアである。

 そんな彼女達と抱擁し合い……冥府に向かう前に穏やかな時間を過ごさせてもらうのであった。


 そうしてみんなとの時間を過ごさせてもらった後で、ティエーラも姿を見せる。コルティエーラ、ジオグランタ、四大精霊王にフローリア、テフラといった高位精霊の面々も天弓神殿に向かう前に見送りに来てくれた。


「いってらっしゃい、テオドール。気を付けてね……!」


 元気のいいルスキニアの様子にみんなも表情を綻ばせる。グレイス達も俺と視線が合うと微笑んで頷いた。


「それじゃあ、行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいテオ。ご武運を」

「では、参りましょう」


 グレイスの言葉の後に、ティエーラもそう言って。ティエーラと共に天弓神殿へと飛んだのであった。

 まずは広域型の対策魔道具をベル女王に渡してきちんと契約魔法を起動させる所からだな。部隊編成等もあるが、それが終われば中層に向かって、リネットとも合流する事になるだろう。

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