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番外996 冥精の歌

 リヴェイラの澄んだ歌声が書庫に響く。胸の前で両手を組んで祈るように歌う。リヴェイラの歌声は優しげな印象で、聞いていて心地が良い。

 モニター越しにイルムヒルトがリュートを演奏し、セラフィナも一緒に歌声を響かせて……書庫は中々に賑やかな事になっていた。それを聞いている冥精達も表情を綻ばせている。


 冥府の先王が好んでいた曲ではあるが、元々歌だけの曲ではないそうだ。間奏をシュン――ツチブエで演奏する練習もしていた。


 素朴な音色に乗せてゆったりとした穏やかな旋律が流れてくる。

 歌詞の内容もいつか苦しみや悲しみは終わり、大切な人達が待つ穏やかな日々に帰るという内容で、この曲を好んでいたという先王の人柄にも触れられたような気がする。

 そしてこの歌を……先王に聴かせてきたベル女王の心境は如何ばかり、だろうか。


「もっと、冥府で広く馴染みのある楽器の方が良いでありましょうか?」


 歌い切り、最後まで曲を吹き終えたリヴェイラが尋ねると、ベル女王は首を横に振る。


「いや。大事なのは込められた想いだ。そなたが現世の者達から受け取った絆であれば、そこに込められた想いも強いものとなろう。そして妾もそなたの歌や演奏に力を乗せて想いを届けよう」


 そんなベル女王の言葉に、リヴェイラはこくんと頷く。


「お二方には練習のお付き合いをもっとお願いしても良いでありましょうか?」

『ええ。勿論』

『うんっ、いくらでも』


 やる気を見せているリヴェイラにイルムヒルトとセラフィナは笑顔で応じる。そうしていると、ドミニクとユスティアもフォレスタニア城を訪れてきて。

 紙に起こした楽譜を確認すると一緒にハープを鳴らしたりリヴェイラの歌声にコーラスを合わせたりして、練習に協力してくれていた。


「何だか、皆さんと一緒だと凄く歌いやすいであります」


 と、リヴェイラもにこにこだ。動物組や魔法生物組もリズムに合わせて身体を揺らしたりしていて、真剣な練習ではあるが和やかな雰囲気があった。


 先王への祈りも有効だろうとは思うが……信仰を得る為に広く知らせるわけにもいかないというのが中々難しい所だ。少なくとも事情を知る俺達は、儀式に合わせて先王への祈りを捧げられるか。みんなで歌を練習したりしておくのも無駄にはなるまい。


「ふむ。リヴェイラの歌の練習についてはこのまま習熟して貰えば大丈夫そうだな」

「では、対策魔道具の仕様や使い方についてお話をしますか。突入の際の作戦も詰める事ができると思いますので」

「うむ」


 頷くベル女王に、魔道具の仕様を説明していく。

 まず、眠りの封印結界の広域無効化の魔道具。これは装備者を中心にドーム状のフィールドを展開する、というものだ。魔石への魔力供給型なので保有する魔力量に優れる者、或いは護衛対象や指揮官、或いは治癒役等……その人物を中心に行動する必要のある者が装備をすると周囲の者達も行動しやすくなる。自分で魔力消費を請け負えばフィールドの展開距離を広げる事も可能だ。


「ですので、これについては女王陛下に装備して頂ければ僕達としても動きやすくなるかなと。ディフェンスフィールドの魔道具を同時展開すれば、部隊全体での防御力も上がると思われます」

「なるほどな」

「一方で個人携行型はプロテクションの魔法のように使用者の体表に纏う事で魔力消費量を抑えて封印結界内部での身軽な行動を可能にする、というものです。単独行動の多くなる斥候や突出して行動する遊撃を担う者に装備してもらうのが良いかと」

「だとするなら、リヴェイラにはそれが良さそうだな」

「そうですね。リヴェイラの護衛としてユイも一緒に行動していますし、僕も魔法に他者を巻き込まないように離れていた方が動きやすいので、僕やユイもその装備の方が良いでしょう」


 テスディロス、ウィンベルグ、それにヘルヴォルテも、機動戦を得意とする性質上個人携行型の方が良いだろう。オズグリーヴは――後方から臨機応変に動ける都合から必須、というわけではないが、本体に煙を圧縮して纏えば単独戦闘で本領を発揮する性質があったりする。


 そんな調子で誰にどちらの装備が良いか、等を考えたりしていく。まあ、いずれにしても広域結界型はあまり数を用意していないので、どちらかと言えば誰が広域型を装備するのが良いのか、という所に帰結していくのだが。


「それと、これらの魔道具には悪用を防止する為、契約魔法と解析、複製防止の為の術式を組み込む予定です。広域結界型は使用者を契約魔法で定める事。個人携行型は保全任務の成功を目的として使用する事……というのが組み込まれる契約魔法の予定になります」


 結構重要な内容なのでやや小声で伝えると、ベル女王は納得したと言うように頷いた。


「つまり、個人携行型は敵味方の判別にも使える、というわけか」

「簡易ではありますが、保全部隊に敵が紛れ込むのを防ぐ方法にはなりますね」


 現地で救出したり合流したりした相手に使って貰う事で試す、という事も可能かな。まあ魔道具の容量的な問題、準備の為の時間的な制約もあって、条件をいくつも付加できないから、契約魔法をすり抜けるための穴を完全に埋めているとまでは思わないが。


「そう言えば陛下が前に出る事で可能になる事がある、と仰っていましたが、それについてはこの場で伺っても大丈夫な内容なのでしょうか?」

「うむ。冥府の王は冥精達に。そして冥精は亡者に干渉する能力を持つが、妾が同行すればそれらを相殺し、無効化する事が可能だ。冥府に現女王としているのは妾であるからな」


 今暮らしている冥精達に対し、より強い影響力を持つ、と。となると、リネットやレイスも保全任務に同行できる、という事になるかな。


 レイス達に関しては資格の関係上で上層に立ち入れないし、今回のリヴェイラとプルネリウスへの襲撃に直接的には携わっていないというのは分かる。契約魔法の判別もあるが、冥精から干渉できるので身の潔白を立てやすいと言うのを考えると、保全任務に加わってもらうのは有効かも知れない。どちらにしても施設の最奥までは踏み込めないというのは冥精も同じだしな。


 その辺の事を伝えると、ベル女王は静かに頷く。


「個別に人柄を見ていけば寧ろ良いかも知れぬな。能力の幅が我ら冥精よりも大きく、敵方も対策を取りにくいであろうし」


 部隊の人員を特化させるよりは相手をする側としては対策が難しくなるというのは有るだろう。敵の規模が大きくないだろう、という事を考えれば様々な手札への対策を全て取るのは難しくなるだろうから尚更だ。


 そんな調子で俺達は再度の保全任務に向けて、部隊編成や動き方等を作戦として詰めていくのであった。




 書庫回りの警備を継続しつつ、交代で食事を取ったり眠りに付いたりと魔道具が出来あがってくるまでの時間を過ごしていく。

 冥精達はこの場所がホームグラウンドで冥府そのものから力を供給されているところがあるから、長時間活動できるというのもあって警備は厚い。俺達も交代で警備を続けているので穴は無いようにしているが。


 そんな調子で下層からの報告を受けつつ一日、二日と警備に力を入れながら冥府で過ごしていると、現世のアルバートから通信機に連絡が入った。


『広域型は予定されていた数。個人携行型はここまでの時間内に完成させられるだけ用意したつもりだ。すぐ突入するかはともかく、状況が変わってもすぐ動けるように一先ずの引き渡しを考えているんだけど、どうだろう?』


 という内容だった。確かに。更に数を追加するかどうかはともかく、まずは魔道具を受け取って行動できる状況を整えるのが大事だろう。まずは現世に赴き、魔道具を受け取ってくるとしよう。

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