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番外995 書庫と警備体制

「魔道具が出来上がって、それを受け取ったら洞穴に突入という流れになりそうだね」

「では、その前にもう一度フォレスタニアに帰ってきてから、という事になりますか」


 と、グレイスが尋ねてくる。そういう事になるな。

 俺が頷くとイルムヒルトが微笑みをむけてきた。


「それなら……突入前に応援の意味で、何か用意しておくのも良いかも知れないわね」

「ん。それは良い」


 シーラがそう言って頷くと、マルレーンも一緒にうんうんと頷いていた。出陣前に気合を入れて鋭気を養う、ような催しを、といったところだろうか。


「まあ、あまり無理はしないようにね」

「ふふ、そうね。でもまあ、みんなで少しずつ料理をするぐらいなら大丈夫だと思うわ」

「私達は自由が利くから任せておいて」


 身体の事もあるからそう言うと、ステファニアが小さく笑って、クラウディアが応じる。みんなもその言葉に賛成していた。


 というわけでみんなもやる気だ。今回は留守番でできる事を何かしたい、という想いが大きいのだろう。前回の俺の誕生日も、無理しないように誕生日プレゼントを用意してくれたし。


 冥府の問題が発覚して少し駆け足気味にフォレスタニアに戻ってきたが、誕生日の贈り物については毎年恒例になっているからか、衰弱していたリヴェイラの治療が終わって、状況が落ち着いた後にしっかりと受け取っていたりする。


 今年のみんなからのプレゼントは――ミスリル銀の懐中時計だ。アルバート達工房の面々と一緒に作製を進めてくれていた物という事で、内部構造や部品についてはビオラやコマチ、エルハーム姫が手掛けた物ではあるが、表蓋と裏蓋に細かな細工が施してあり、みんなはその部分のデザインと加工を受け持ったそうだ。


 身体の事もあってあまり無理は出来なかったから、細工の部分は専用の魔道具で魔法的に加工したそうだ。

 これはゴーレム方式でミスリル銀等、金属を細かく変形させるという、細工専用の魔道具だそうで。これを作ったのはアルバートである。流石に銀細工は習得に時間もかかるから、こうした方法を使う事にしたそうだ。


 みんなもこれまでの訓練や戦いの中で魔道具の使い方や加減には習熟しているからな。表蓋、裏蓋、側面共に……意匠はかなり細かな見事なものに仕上がっていた。

 月と星々の輝く草原。風に舞う花びらと妖精達、といったデザインがなされている。


 一つ一つのモチーフをみんなで手分けして加工したらしいが、全体で見ると統一感もしっかりあって、工芸品、美術品と言った方がしっくりくる。


 リューズの部分に魔石が嵌め込んであり、ほんのわずかに持ち主の魔力から供給を受けて自動でネジを巻いてくれるから、日常的に所持している限り特に意識せずとも止まる事のない優れものだ。


 ヘルフリート王子の持っている懐中時計もそうだが……ミスリル銀の時計は魔法の触媒としてかなり優秀だ。特にみんなが加工の為に魔力を注いでいるし、時計というモチーフ自体、俺の覚醒能力と相性が良いのは間違いない。勿論、精度が高いので普通の時計として見た場合も非常に出来の良いものである。


 気合を入れて加工してくれた事が見て取れたので、ありがとうと率直にお礼を言ったらみんなも嬉しそうに笑っていた。

 まあ、そんなこんなでみんなもあまり派手には動けないが、それならそれで無理をしないように何かをしてあげたいと思ってくれているようだから、そういう好意は有りがたく受け取っておこう。


「ん。それじゃあ楽しみにしてる」


 と答えると、みんなも嬉しそうに微笑んで応じるのであった。




 眠りの封印結界対策の魔道具が完成し、こちらから洞穴に赴くまでは守りの時間だ。

 ベル女王とリヴェイラ、プルネリウスを主な護衛対象として守りながら保全任務に備える必要がある。なので一旦の現世への帰還も程々に、みんなに見送られながらまた冥府に向かう事となった。


 シオン達やカルセドネやシトリア……年少組の面々も「留守の間は任せてください」と、冥府で俺が戻ってくるのを待っている面々と同様に気合を入れている様子が見て取れて、俺としても破顔してしまう。


 そうして天弓神殿からサウズの待機している冥府上層の書庫に移動すると……ユイ達や冥精達が「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれた。


「ただいま。何か変わった事は無かった?」


 外していたのは古文書関係の仕事をしている間だけだったので然程時間は経っていないが、敵が紛れ込んでいるなら些細な変化も注視しておく必要があるからな。


「報告は小さな事でも集めるようにしていますが……今の所は敵と思われる動きはありませんね」

「疑心暗鬼になっても拙いからな。対応をどうするか、女王陛下と協議中だ」

『中層も今の所は動きがないようだね。あれを一度撃退して魔力が清浄になっているから、出現する余地もないのかも知れないが』


 レブルタールとプルネリウス。それに中層のリネットからそれぞれ返事があった。


「敵が紛れている可能性を考慮すると、警備の中に我らの手の者を混ぜる、という手もありますな」


 と、オズグリーヴが提案してくる。


「それはありかもね。資料の読み込みも一段落してみんなも手が空いているわけだし、連れてきたシーカー、ハイダーとティアーズ達も活用できる」

「命令系統を別にして巡回する事で敵に動きを読ませず、協力体制にある事を伝えつつも報告部分は共有する、というのはどうでしょうか。敵方として見たら、かなりやりにくいと思います」


 俺がそう答えると、レブルタールも頷いて応じる。なるほどな。


「冥精の方々が不信に思わないように注意する必要はありますが、確かに有効そうですね」

「うむ。妾としても問題はない。許可しよう」

『では、僕達もシーカー達を動かしていきますね』


 ベル女王が快諾すると、作戦室のシオンがそう言って応じる。


「うん。よろしく頼む。監視の目の配置、巡回路も少し練ろうか」

「塔内部の見取り図ならここに」


 と司書のシェスケルが資料を持ってきてくれる。塔の内部の見取り図を見せてもらいながら、俺達は俺達で独自の警備網を構築するというわけだ。


『ん。この辺、普通に巡回したら死角になるから定点で配置すると良さそう』


 シーラも見取り図をモニター越しに確かめてアドバイスをくれる。そういう場所にはハイダーを置くのが良いだろうという具合に警備体制案も纏まっていく。


「私も能力を使って防衛戦力を配備しておきましょう。能力の基本そのままだと敵と誤認させてしまう可能性がありますが、煙の色や質感を変えれば問題はないはずですからな」


 オズグリーヴが言う。書庫内部の警備に軍煙――オズグリーヴの能力を活用する、というわけだ。

 椅子や机に擬態させて書庫に配置しておき、敵が現れた時に展開していた能力で防衛を行うというわけだ。

 オズグリーヴは煙の兵隊を作る事もできるが、確かに能力をそのまま使った場合は黒い怪物達との見分けが難しくなる。よって、今後冥府で能力を使う時は意図して白い煙にするとの事だ。

 黒い煙の兵隊を使って敵側に誤認させるという手もあるが……。まあ、普段は味方同士で警戒や同士討ちの心配がないように配慮しておく方が良いという事で。


 そんな調子で警備体制も纏まり、図書館や作戦室のみんなもハイダーやシーカーを配置につかせたり、レブルタールが通達をしたりと、状況が動き出した。

 ベル女王としても、仮に敵が計画的に動いているなら自室にいるより別の場所に居座っている方が寧ろ安全だろうと、書庫に留まる事にしたようだ。


 確かに、塔上層の私室にいるベル女王に対する襲撃計画のような物を敵方が考えていたとするなら、その計画が練り直しになるからな。保全任務の再開まで身を守る時間を稼いで凌ぐという意味では、身を置く場所を変えるというのは有効だろう。

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