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番外994 暗号と古文書と

 そうしてウィズに映像情報を記憶してもらった所でその場は一旦みんなに任せ、冥府から現世に移動する事となった。


「留守の間の事は任せておけ」


 テスディロスが言うと、ウィンベルグやオズグリーヴ、ヘルヴォルテも頷いて……各々大分気合を入れている様子であった。


「いってらっしゃい」

「リヴェイラへの儀式手順の伝達は進めておく」

「私も頑張るであります……!」


 ユイやリヴェイラもそんな風に言って、俺を見送ってくれる。この分なら大丈夫そうだと、俺も頷いて迷宮の天弓神殿へと飛んだ。


「おかえりなさい、テオドール」


 そう言って迎えてくれたのはティエーラだ。


「ただいま。まずは――そうだね。迷宮核に行こうか」


 冥府の状況は現状、俺達の対策待ちというところがある。

 過去の事例から封印はまだ保つだろうとベル女王は見ているようだが、対応も早ければ早い程良いというのは間違いない。

 まず迷宮核に飛んで、眠りの結界の対策術式を構築。そこからアルバートに対策術式を魔道具化してもらう、と。


 封印を取り巻く状況を考えればできる準備には限りがあるが、どちらにしても対策装備がないと直接踏み込む事はできないからな。妨害者が眠りの封印結界にまで対策をしているかは分からないが、内部で戦闘になる可能性も想定しておかないといけない。

 範囲型を一つと個人携行型を複数用意するのが、色んな状況に対応できて良いのではないだろうか。


 ティエーラの権限で迷宮の補助を受けて中枢部に移動する。ヴィンクルも同行してきて、俺が迷宮核内部で作業中に俺の身体を守ってくれるらしい。


「それじゃ、暫く作業をしてくるね」

「わかりました。カドケウスを連れて、フォレスタニア城の皆さんの所に行っていますね」

「ん。ありがとう。また後で」


 作戦室にカドケウスがいれば迷宮核での作業中も通信機等でのやり取りが簡単になるからな。冥府の状況を把握する事にも繋がるしティエーラの申し出は有難い。

 ティエーラに黒猫の形を取ったカドケウスを引き渡し、俺自身は迷宮核内部での作業に移る。


 ウィズと五感リンクを行い、ベル女王に見せてもらったもう一つの古文書の内容を迷宮核に伝えていく。

 暗号解読は終わっているので、後はそれを分かりやすい表記にするだけなのだが……魔法技術関連に関してはそれでも古代語による表記となる点に注意が必要だ。

 まあ……洞穴の由来等を記した内容と違って術式になるので口語で分かりやすい翻訳というわけにもいかないな。


 とは言っても、変換された後は月の民が使っていた古い時代の言語なので既にデータは出揃っている。眠りの封印結界に関してはすぐに対策を考える段階までいけるはずだ。


 というわけで魔法技術書の暗号変換作業をしている間に、最初の古文書の内容を確認していく。基本的な内容としては――ベル女王の言っていた事の再確認となるだろうか。

 だがまあ保全任務の資料に対応しており、何時どんなことがあったという、一般公開されている資料には書かれていない部分が明記してあって分かりやすい。ベル女王は封印の状態が大丈夫かどうかに言及していたが、それも過去の事例を受けて目安を立てているというのが分かるな。


『おかえりなさい、テオドール様』


 ティエーラもフォレスタニアの作戦室に到着したようで、カドケウスを撫でているアシュレイやマルレーンの姿が五感リンクで確認できた。


『ただいま。作業が一段落したらそっちに顔を出すよ』

『はい。待っていますね』

『アルバートにも通信機で連絡を入れてあるから、後で合流できると思うわ』


 通信機の文言に目を通したグレイスがカドケウスに微笑み、ローズマリーもそう教えてくれた。礼を言ってから俺も作業に集中する。

 眠りの封印結界の術式を迷宮核内部のシミュレーションで調べていく。どうやら対冥精や対亡者に効果を強化した術式のようだ。とは言っても生身で受けても十分効果はあるが。


 術式の構成を調べて、無効化するための術式を構築していくわけだ。

 使用時の安全性は第一に考えるとして……利便性とセキュリティも可能な限り高めておきたいところだ。

 魔道具に関しては悪用できないように使用者を厳密に契約魔法で決めておき、解析しようとしたら自壊するとか呪法が発動するとか、しっかりしたセキュリティを組み込んでおきたい。


 その他、古文書に載っている内容は可能な限り頭に叩き込む。先王が封印に至った経緯、この事件に絡んだ魔法技術……それらは覚えておけばどこかで役に立つかもしれない。

 眠りの封印結界対策は最低限必要という部類のものだ。準備を万端にして臨む時間がない以上は細かな変化にも気付けるようにして、現場での対応力を上げるしかないからな。


『女王陛下の暗号の作り方の時点で分かっていたけど、過去の冥府には月の民の技術とエルベルーレの技術の両方があったみたいだね』

『エルベルーレは確かに問題を起こしたし、当時の王のやり方に同調する者達もいたが……反面、国の上層部のやり方を憂う者も多かったからな。例の災害の原因となった技術を行使した者達は罪人として裁かれたから、禁忌の術に関しては冥府からも失われている。その点に関しては安心してもらって良い』


 モニター越しに通信機の文字を読んだプルネリウスが教えてくれた。

 なるほどな。冥府の上層や中層に迎えられたエルベルーレの魔術師達は冥府の力になれるように技術を残したというわけだ。


 冥府の王の事件に関しては……魔力嵐よりももっと昔の出来事のようだ。

 冥精とて間違いを犯してしまうのならば、自分達には他者の罪を裁く資格があるのかと、ベル女王も古文書の中で葛藤している様子が見られるが……それでも冥府がその役割を担う以上、前に進まなければならないのだろうと決意を固めていた。今の体制に変化していった経緯も古文書から分かるな。


 古文書の後半――。追記部分はその後の封印に関する事か。

 封印の弱まる周期が少し早まって対応が遅れた時の事が記してあった。洞穴内部で黒い怪物達と戦闘になった経緯、そうなった場合の対策も色々と記されている。俺達が冥府で見聞きしてきた状況と一致する内容ではあるな。対策と実際の状況に沿って冥府が動いているのも見て取れた。




 迷宮核内部の仮想空間で眠りの封印結界の対策術式を構築。シミュレーションで無効化の精度や安全性を確かめ、セキュリティ回りまで構築。諸々、古文書の内容をしっかり頭に叩き込んだところで一先ず作業は完了だ。後はプリントアウトだな。術式を書きつけた紙を迷宮核に構築してもらおう。

 仮想空間から外部に意識が戻ってくると、ヴィンクルが俺の隣に寝そべるようにして待っていてくれた。


「ありがとう、ヴィンクル」


 と、傍らのヴィンクルに礼を言うと、口の端から牙を見せて笑って頷く。先程構築した紙はヴィンクルが持っていた。手渡してもらって内容に間違いがないか確認していると、すぐにティエーラが迎えに来てくれて……ヴィンクルと共にフォレスタニア城へと向かった。


「ん。おかえり」

「おかえりなさい、テオドール様」


 シーラやエレナが俺の到着に気付いて笑顔で迎えてくれた。みんなもこちらを見て挨拶をしてくれる。俺も「ただいま」とみんなに笑って応じる。


「お帰り、テオ君」

「ああ。ただいま、アル」


 アルバート達も既にフォレスタニア城に到着していたようだ。すぐに作業に移れるようにフォレスタニア城にも工房と同様の設備を用意したそうで。早速術式を書きつけた紙を渡して、魔道具を作ってもらう事にしよう。


「これで頼めるかな? 無効化する範囲結界型と、個人携行型の二種があって……個人携行型に関しては複数作りやすいように組んである」

「確かに受け取った。魔石や材料も持ち込んであるから、僕達もこのまま作業に移るよ」

「ああ。いつもありがとう」


 そう言うと、アルバートは明るく笑って「僕の方こそ」と応じるのであった。

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