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番外993 もう一つの古文書

「これが件の本だ」


 方針が決まってから少し話をした後で、ベル女王がもう一冊の古文書を持ってきてくれた。普段は女王の私室に隠してあるらしい。既に解析作業を進めていた古文書が禁忌の地の由来等を記した歴史書であるならば、こちらはそれらに絡んだ魔法の技術書という事だ。


「将来、何かの折に必要になる事もあるかも知れないと、あの実験や封印に関係した魔法技術を残しておいたわけだな」

「なるほど。では、これも情報を写させて頂きます」

「うむ。そして、リヴェイラよ。そなたには妾と共に儀式の手順を学んで貰おう。……と言っても、祈りを捧げ、父の好んでいた歌や曲を覚えてもらうというだけだが。この程度なら……記憶を移す必要もあるまい」

「頑張るであります!」


 気合の入った様子で答えるリヴェイラに、ベル女王は相好を崩して頷く。リヴェイラが記憶喪失であった事や保全任務に参加していた事は、既に天使達にも知られている。儀式の一環として歌を捧げる、というのは珍しいものでもないので特にリヴェイラに儀式手順を改めて伝授する事に関しては人目を避けるであるとか、誤魔化したりする必要もないだろう。


 その時々で妾に選ばれた資格のあるランパスでないと儀式ができない、という事にしておけば良いと、ベル女王もそんな風に語っていた。ランパスを保全任務に加える事についてはベル女王としても名目を考えていたわけだな。


「私は引き続き、リヴェイラちゃんの護衛かな」

「ああ。今度は女王陛下も一緒だから、レブルタールさん達も一緒に行動すると思う」

「うんっ」

「よろしく頼みますね、ユイさん、バロールさん」

「こちらこそ……!」


 レブルタールと、明るい笑顔で握手を交わすユイである。リヴェイラの護衛はバロールもついているので、レブルタールと翼で握手を交わしていた。そんなやり取りに、にこにこと嬉しそうなリヴェイラである。


『ふふ、リヴェイラさんも落ち着くところに落ち着いたという感じで、良かったです。心配していましたから』

『記憶がない事も、もう辛くないみたいだものね』


 グレイスとイルムヒルトが穏やかな笑顔でそんな言葉を交わして、フォレスタニア城のみんなも微笑む。今のリヴェイラにとっては記憶の欠片はベル女王との繋がりを示すものであったりするのだろうか。確かに思い出せなくとも、そこには意味があって。それは今の彼女にとっては祝福のようなものかも知れない。


 リヴェイラについては先程食堂でベル女王が詳しく教えてくれたが、まだ小さかった頃の一欠片から生み出した化身という事だ。身の周りにいた天使達に憧れた時期があって、軍属っぽい口調は身近にいた近衛の天使の口調を幼い女王なりに真似たものだという。なのでリヴェイラもそれが反映されてああした口調になったのだろう、との事だ。


 他者の役に立ちたいと願う性格も……そういう所から来ているのかも知れないな。ベル女王の元々の性格に近い所もあるだろうけれど。


 そんなわけでまずはベル女王から預けて貰ったもう一冊の古文書を、ウィズに映像情報として記憶してもらっていく。

 この魔法技術の書物に関しては――根源の渦に送り込まれたゴーレムについての技術も解説している。渦によって変質してしまっているから決め手になるかは分からないが、直接戦闘になった時に対策の一環にはなるかも知れない。


 とはいえ、まずは洞穴内に直接潜入するために眠りの封印結界を抜けるための手段を構築しなければならない。その辺の事が扱ってあるページもベル女王から優先的に教えてもらい……フォレスタニア城の作戦室にいるティアーズに、正確な模写を作ってもらう。


 羽根ペンを持ったティアーズが精密な模写を作り、間違いがないか何度か確認してからティエーラに預ける。


『これを迷宮核に持って行けば良いというわけですね』

「うん。ありがとう」


 先んじて解析作業を進めていくというわけだ。ティエーラは『ふふ、任せて下さい』と、微笑んでいた。高位精霊故にあまり自分では動けないから、力を使わずに……というか余所に影響を出さずに手伝いができるのは嬉しいらしい。

 そんなわけでティエーラは機嫌が良さそうだ。コルティエーラもうんうんとそんなティエーラの様子に頷いたりしているが。


 ともあれ、この後は対策用の魔道具を作って洞穴内部で保全任務のやり直しという事になる。

 下層の洞穴内部に調査魔道具を送り込んで情報収集というのも考えていたが、歴史書と技術書があるならばその過程も必要あるまい。


『ん。暗躍している輩の対策はどうする?』


 と、シーラが尋ねてくる。


「そっちについては警戒しながら動いていくしかないかな。陛下も……裏切るような輩には心当たりがないらしいんだ」


 事情を聞いていると先王を復活させるとか、そういう類の話でもないしな。何かしら女王やプルネリウスに悪意を抱いているのだとしても他にやり方などいくらでもある。

 封印されている先王の復活が目的だとするならどうか。

 その場合は動機の面が分からない。そのまま目覚めさせても制御が難しい以上は災厄を引き起こすのと同じだ。冥府の状況どころか、自分自身さえどうなるか分からない。


 或いは制御する手段があるという可能性も考えてベル女王とも話をしたが、そうした魔法研究は人材も予算も必要だ。冥精達に派閥争いのような事はないし、不透明な組織であるとか、そういうものもない、との事で。

 災厄や破滅を望む……イシュトルムのような輩がいないとは言わないが、少なくとも女王やプルネリウス達はそんな存在を把握していない。内心までは踏み込めないから絶対とは言わないまでも、表立って不満を表明するような輩はいなかったわけだ。


『仮にこの機会を待って動いたとするなら、敵も相当辛抱強いわね』

『目的が何であれ……そういう輩がいるとこちらが認識した以上は、どこかで保全任務を妨害してくる可能性が高いわ』

『確かに、状況が落ち着いた後でしっかりとした追跡調査をされたら後がないものね』


 眉根を寄せるステファニアに、ローズマリーがそう言って……クラウディアも目を閉じる。


「そうだね。対応は後手になってしまうけれど……心当たりがない、把握できないっていう事は同志が少人数……或いは個人規模で、敵の数が多くはなさそうだ。だから、次に行動を起こしたところを捕捉して、きっちり後腐れがないように叩き潰すのが重要だと思う」

「うむ。テオドール公とは気が合いそうだな」


 と、ユウが同意してくれた。カイエンやサンダリオはそんなユウに苦笑しているが。


「妾の不徳が招いた結果ではあるから、話というか……理由を聞いてみたくはあるがな」


 リヴェイラに指導をしつつも、ベル女王がそんな風に言った。


「とはいえ、対話や説得を試みずに実力手段に出た相手ですからね。対話の余地がない相手、という可能性も高いかと」

『まあ……破滅的な考えを持つような、どうしても相容れない輩ってのはいるもんさね』


 俺の言葉にリネットも肩を竦めて同意する。

 ベル女王は暫く思案していたようだが、やがて頷く。


「そうだな。妾を信じてついて来てくれた者達を大切にする事が第一義であろうな」


 そう言ってリヴェイラに更に指導をしていく。イルムヒルトが歌に合わせてリュートを奏でたり、歌いやすいようにサポートをしたりしていた。


 そうこうしている内に、コルティエーラが俺に伝えてくる。


『最初に受け取った古文書の……解析も終わった、みたい』


 では、ウィズが技術書回りの記憶を終えたら迷宮核へ向かうか。書庫には塔上層の天使達や保全部隊にいた天使達も援軍として加わっているので防備が厚くなっているし人目も多いので現世側に一度戻っても大丈夫だろう。

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