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番外989 冥府の女王

「私としてもテオドール公には女王陛下と会って欲しいと願っている。洞穴の事情は冥精達にこそ伝えにくい話で……今の状況を見るに、テオドール公が力を貸してくれるならこれほど心強い事はない。どうか、重ねてお願いしたい」


 プルネリウスはそう言って丁寧に頭を下げてくる。


「元よりそのつもりでいます。冥府の問題は将来的に無縁というわけではありませんし、現世に波及しないとも限りませんから」

「……私からはまだ何も言えないが、確かに冥府の問題に無関係でいられる者はいないのかも知れないな」


 プルネリウスは俺の言葉に瞑目する。

 まずは……冥府の女王に会って話をしてからだな。リヴェイラの事も約束をしたからにはしっかりとそれを守る必要がある。


 プルネリウスの体調も仮想循環錬気で改めて見ておき、問題がない事を確認してから動いていく。


「女王陛下の謁見に行く前に……リヴェイラに封印術を施しておこうかな」

「よろしくお願いするであります」


 俺の言葉にリヴェイラは頷く。ユイと一緒に抱き合って喜び合っていたが、落ち着きを取り戻してきたようだ。

 今の内に封印術を施しておくというのは、もしかしたら会った途端にリヴェイラが女王に融合するように戻ってしまうという事も考えられるからだ。


 リヴェイラの状態については迷宮核で解析済みなので、化身が本体から離れる仕組み、戻る仕組みも何となく分かる。物理的にそうなっているというわけではないが、パズルのピースのように接合できるようになっているから、該当部分を封印術で機能停止させておけば良い、というわけだ。本体には俺からの封印術の影響も及ばないように効果も限定的なものにする、と。


 封印術を施し、封印術が解けないように手の甲に筆で紋様術式を描いておく。紋様術式が封印術を固定する役割を担ってくれる、というわけだな。紋様術式も掠れて消えたりしないように、墨そのものに状態固定の術式を施しておけば、安心だ。


「これで暫くは大丈夫。紋様も固定化の術式を解除しなければ滅多な事じゃ消えないとは思うけど、その場合はバロールに触れておけば封印術も維持できる」

「ありがとうであります……!」


 リヴェイラは掌を空に向かって掲げるようにして表情を綻ばせる。手の甲に書かれた紋様術式を眩しそうに嬉しそうに眺めるその姿に、みんなも微笑ましげな表情でリヴェイラの仕草を見ていた。


 バロールもリヴェイラの護衛につけておくというのは大事だな。

 リヴェイラが女王の化身である事を考えると、敵の狙いがプルネリウスよりリヴェイラである可能性が高まった。ユイとバロールがリヴェイラについて身辺を守っているなら、より安心できるかな。




 プルネリウスはレブルタールやヘスペリアとも言葉を交わして、事情を説明していた。冥精達に詳しい事を明かせないという点については「済まない」と謝りつつも、今回、保全部隊が昏睡状態に陥った原因についてを掻い摘んで説明し、どこかに悪意を持った敵がいる、という事について注意喚起をする。


「分かりました。警備の者達にもそのつもりで通達をしておきます」


 レブルタールは頷き、それから言葉を続ける。


「それと……下層の禁忌の地について私達に情報を伏せるのも、女王様が必要と思ったからこそ。そこには何かやむを得ない事情があるのだと、私達も理解しています」

『うん。女王様やプルネリウス様が謝る必要はないと思う』


 レブルタールとヘスペリアがそれぞれ口にする。


「冥精の皆が献身的に陛下を支えてくれる事には、陛下も私も本当に感謝している。私からも、埋め合わせは必ず」


 プルネリウスは真剣な表情でそう応じて、書庫に集まっていた冥精達はその言葉に微笑みを見せた。冥府の女王もプルネリウスも、冥精達からの信頼を受けているというのが窺えるな。


 そんなわけでプルネリウスとレブルタールに案内され、塔の最上部へと向かう事になった。ここは冥府の女王が住まう場所、という事らしい。

 現世で建築されている西方の国々の城は大体利便性の良い所に謁見の間、奥まったところに王族の住む場所があるというのは共通しているが、冥府でもそれは踏襲しているそうな。とは言っても精霊であるから冥府の女王も暮らしているというよりは普段いる場所、といった方が正確なのかも知れない。


「陛下の場合は謁見の間を活用する事はそう多くはないな。形式的な謁見というのも少ない」


 と、プルネリウスが案内しながら色々と教えてくれた。その辺は人間の国ではなく、精霊界だからという事もあるだろう。それでも建築様式等々、現世の影響が強く見られるのは冥府の亡者達が元々現世の住人だから、というのが大きい。


「ああ、プルネリウス殿……!」

「お目覚めになられたと聞いて喜んでおりました」


 女王が目覚めていないという事もあって、冥精達の警備はかなり厳重だった。要所要所に天使達が警備として立ち、巡回も多い。書庫の周りにも警備は多いが、それを上回る厳重さ、と言った雰囲気だな。


 ただ、レブルタールも先んじて警備の天使達に通達をしてくれていた。プルネリウスが目覚めた事や、俺達が女王を訪問する事も伝わっていて、態勢は厳重だが天使達の対応は柔らかなものだ。途中で引き止められる事もなく、天使達と挨拶を交わしながら塔の最上階まで通して貰えた。


 そうして――門番の天使達が守る、大きく重厚な扉の前に辿り着く。


「私は、ここまでですね。扉の外で待機しておりますので、何かありましたらお知らせ下さい」


 レブルタールはそう言って、門番達と共に部屋の前で待機する事にしたようだ。


「承知した。では、後程」


 プルネリウスは頷き、そうして扉に手をかける。ゆっくりと扉が奥に向かって開いていく。

 広々とした部屋だった。調度品や家具が置かれて上品に纏まった印象がある。


「これらは上層や中層の住人達の手によるものだな」


 プルネリウスが教えてくれる。

 冥府の女王は高位精霊なのでこうした家具類も本来ならば必要はないが、職人達としては女王へ自分の作品の献上を望む者もいるそうで……。女王もその気持ちを汲んでいる、との事だ。そうした家具、調度品の類は女王曰く「生前磨いた技術の結晶」と評価をしているそうで。


 その肝心の女王はと言えば……寝台の上に目を閉じたまま横たわっていた。

 闇のような黒い髪と青白い肌。長い髪の毛は途中からグラデーションがかかったように色が藍色に変化しており、先端はオーラのような質感になって揺らいでいる。


 眠っていても感じられる重厚で静かな魔力は……確かにティエーラやジオグランタ達にも似た、高位精霊特有のものだ。まだ事情は分からないが、高位精霊であるなら、本体が積極的に活動すると影響が多方面に出てしまうから、化身として行動するメリットというのは、それだけでもあるような気がするな。


「この方が……女王様……」


 リヴェイラは女王の姿を見ながら呟くように言った。恐らくは容姿から特定されないようにだろう。リヴェイラと女王は姿形が似ているわけではない。ただ、リヴェイラの魔力波長を強大にしていけば共通している部分もあるかも知れないな。ランパスに限らず、天使やデュラハン、ブラックドッグ等々、そうした冥精達の気配に通じるし内包しているところがある。その気になれば、化身としてあらゆる冥精を構築する事ができるのではないだろうか?


 さて。女王とリヴェイラが顔を合わせたわけだが……両者の魔力は安定しているな。顔を合わせた途端に本体に戻ってしまう、というような懸念も今の所は大丈夫なようだ。ともあれ、このまま女王とも仮想循環錬気を行っていくとしよう。

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