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番外987 書庫での目覚め

 保全部隊……護衛役の天使達はその後、一人一人目を覚ましていった。やはり同胞が心配だったのか、塔の冥精達も喜びに沸いている様子だ。


「ああ。良かった……!」

「私達の治療では目を覚まさなかったですから……やはりテオドール殿の治療が功を奏したのでしょうね」

「これは改めてお礼を言わなければならないな……!」


 と、目を覚ましたばかりで戸惑っている天使達に抱きついたり、手を取り合って喜びあったりしていた。

 リヴェイラやユイ、モニターの向こうのマルレーンも、そんな天使達の様子ににこにことしているが。


「どうやら御心配をおかけしてしまったようで……我らが護衛としてついていながら面目ない限りです」


 と、護衛役の天使が頭を下げると、レブルタールは首を横に振った。


「良いのですよ。それよりも体調はどうですか?」

「体調も思考も良好――だと思います」

「同じく。随分と充実している気がする」


 目を覚ました天使達は頷き合う。体調不良を訴える者もおらず、予後は良好といったところか。


「目を覚ましたばかりで体調がいいのは、やはり魔法陣による治療があったからかなと。あれがなければ意識の回復にせよ、目を覚ました後の体調回復にせよ、もっと時間が必要になっていたかも知れませんね」

「そう言って頂けると嬉しいですね」


 封印の影響が残っていないか、仮想循環錬気を用いて調べていくが……天使達の、体調が良いという自己申告は本当のようだ。


 他の冥精達と比較しても異常な反応は見られない。魔力が一時的に増強されているのも魔法陣による治療の影響だ。

 情報を伏せている事や、封印状態になった原因が防衛機能に由来する可能性を考えると……洞穴の奥にあるものを知る事で悪影響がある、という線も考えたが……仮想循環錬気で診断した場合もそういう類の異常は見られなかったからな。情報汚染は呪法の分野だから、判別も感知も対策もできる。


 そういうケースには身代わりの護符が相当有効に働くし、知っている事で継続的に呪法が作用するというのなら縁が繋がっているという事だから、ザナエルクと戦った時のようにこちらから呪法攻撃を仕掛けるといった事もできる。まあ……人を呪わば穴二つ、という奴だな。


 ともあれ、体調が良いという自己申告は本当のようだし、呪法を受けて妙な縁が構築されたりもしていないので、俺達としても安心だ。そのまま目を覚ました天使達から話を聞いて、情報収集を行う事になった。




 状況の推移としては順調ではあるが……情報収集してみたものの、最初に目を覚ました天使から聞いた以上の真新しい情報というものは出てこなかった。

 まあ、それに関しては複数の相手から裏付けが取れて確度が高くなった、とも言えるのだから問題はあるまい。


 ただ――記憶に関しては喪失している者がいない。それはつまり、リヴェイラの記憶喪失は封印に起因していない、という事だ。

 最初の膨張する白い光――起動時の爆発を受けてのものか、それとも咄嗟の転移による影響か。事故によって受けた魔法的なダメージが影響したもの、という事になるか。だが、上層の光景に刺激を受けるという事は記憶が戻る見込みも十分にあると見ている。


 そうして資料調査を継続して行っていると……プルネリウスの様子を見ていたリヴェイラが立ち上がって、真剣な表情で言った。


「プルネリウス殿が、少し声を上げたであります……!」


 その言葉に、書庫にいる者達の視線がプルネリウスとリヴェイラに注がれる。俺やレブルタールも頷いて、寝かされているプルネリウスの枕元に向かう。


「う……」


 様子を見ているとプルネリウスは小さく呻き声を上げて、それから周囲から注目されて何かしらの気配を感じ取ったのか、薄く目蓋を開いた。深い、青色の目。


「……これは……私は、一体……?」


 そう言って額に手をやって上体を起こし周囲に視線を巡らせ――リヴェイラの姿を目に留めると、安堵したかのように息を吐いたのだ。それはつまり、プルネリウスにもきちんと記憶があるという事で。そして、あの表情はリヴェイラに対しての悪意や害意もない、という事を意味している。プルネリウスは味方だと、そう信じて良いだろうか?


「誰か――この状況を説明してくれないか?」

「では、私が」


 レブルタールが胸に手をやって一歩前に出る。


「ですが、説明する前にプルネリウス様のお加減は如何でしょうか? どこかに違和感や不調はありませんか?」


 レブルタールの言葉にプルネリウスは自分の手を握ったり開いたり、掌に魔力を込めたりと、自分の体調を確かめていたようだったが、やがて力強く頷く。


「どうやら問題はなさそうだ」

「それは何よりです。では――」


 そう前置きして、レブルタールはプルネリウスと保全部隊の天使達が意識を失ってからの顛末を話していく。

 連絡を絶った保全部隊。上層からの指示で中層と下層の冥精達が洞穴の入り口を確保した事。出現した黒い怪物達。ディバウンズ達のアイオーンを用いた救助活動。それから俺達が現世で記憶を失っていたリヴェイラを保護し、冥府にやって来た事。状態を確認して昏睡から回復するための術式を使った事。リヴェイラとプルネリウスに対する襲撃……。


 それら諸々の話を聞いても、プルネリウスはできるだけ感情を出さないように努めているようだった。反応があったのはリヴェイラの記憶が失われた、という部分に話が差しかかった時だろうか。表情に変化が生じそうになったが、それも一瞬の事。


 全ての話をレブルタールが終えるとプルネリウスは目を閉じて少しの間思案を巡らせていたようだが、やがて顔を上げて言う。


「先ずは――。リヴェイラを助け、危険を承知で冥府まで駆けつけてくれた事、我らの意識を取り戻してくれた事……。その上、襲撃から守ってもらったようだ。テオドール殿達には深く感謝を述べたい」


 プルネリウスは立ち上がり、俺達に丁寧に一礼する。それからレブルタールを見やり、彼女達にも言葉を続ける。


「それから……君達には随分と心配をかけた。意識を失っていた間に事態が進行しているようだが……こうして目を覚ました以上は問題解決の為に尽力していきたいと思う」


 その言葉に、レブルタールやヘスペリア達は静かに頷いた。プルネリウスはリヴェイラに一瞬視線を送ってからこちらに向き直ると更に言葉を続ける。


「ついては事情を説明しなければならないか……。まずは……テオドール殿達……現世から参られた方々と、リヴェイラにのみ伝えたい事があるのだ。もう少し人の少ない場所で話をしたいのだが、構わないだろうか?」

「勿論です」


 俺達に話が出来ても、冥精達には伏せなければならない内容、という事だろうか。保全任務についても分からない事が多いからそれは歓迎ではあるのだが。


「レブルタール達にはまだ事情を話せず、少し気を揉ませてしまうかも知れないが」

「大丈夫です。資料を見ていて思いましたが、情報を伏せるのも、それがきっと必要な事だからそうしているのだと思いますし」

「すまないな」


 レブルタールの返答に、プルネリウスは目を閉じて静かに頷く。


「では――簡易で作った食堂に行きますか。書庫近くの一角で警備も厚く、結界も構築してありますし、余人が立ち入れないようになっていますから」


 腰を落ち着けて話をする分にはあの場所で良いだろう。「簡易の食堂……。なるほど。現世の方々には必要か」と、プルネリウスは納得したように頷く。

 というわけでまずは俺達とリヴェイラだけでプルネリウスと話をするという事になったのであった。


 食堂の扉を締めて、防音の魔法を施す。そうしてお互い腰を落ち着けて一呼吸置いたところで、俺達の視線を受けたプルネリウスは事情を話し出すのであった。

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