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番外986 同行の理由は

「襲撃の時のユイの動きは良かったね」

『ん。訓練もしっかりしてるだけの事はある』

「ほんと? 嬉しいなあ」


 俺とシーラがそう言うと、ユイは嬉しそうな表情を浮かべた。俺の到着に合わせて動きを変えていたからな。


『初手で数を減らしにかかった所も良かったですね。多勢に無勢でもありましたから』


 グレイスが言うといつもユイと一緒に訓練しているヴィンクルも声を上げてどこか誇らしげに頷いていた。水晶板モニターの向こうでも、食事をしながら昼間の感想戦といったところだ。


『その若さで仙気を使えるとは末恐ろしい事ですな』


 と、カイエンが笑うとユウも顎に手をやって頷いていた。ゲンライやレイメイとの訓練で仙気を練って放出する事を覚えたユイであるが……ゲンライ達もユイの成長ぶりに驚いていたな。


「まだ瞬間的な放出ぐらいしかできないけど、最近どうにかその技だけは覚えたの」


 苦笑してカイエンに答えるユイである。最終的には練って纏い、攻防に用いる事ができるようにするというのが理想形であるらしいが。


「あの威力なら十分だと思うよ。ただ、連中に見せた手札はギリギリの状況で奥の手にしないようにね。あれを通して見ていた可能性があるから」

「うんっ」


 俺がそう言うと真剣な表情のユイが、こくんと首を縦に振る。

 あの場でユイが見せたのは仙気による瞬間的な衝撃波と、薙刀の変形斬撃か。奥の手として見せかけて逆に誘いとして使うとか、そういう方向での活用は寧ろ有りだから、ユイにはそのあたりの事も伝えておこう。

 そんな調子で雑談しながらみんなと共に食事を取る。今日は白米に揚げ物、野菜スープにサラダといったメニューだな。


 書庫の周りに寝泊まりできるように、簡易の竈や風呂、トイレやらの生活用設備の魔道具を再配置したわけだ。


 厨房と食卓については書庫に近い部屋を丸々貸してもらえる事になった。上層に敵が紛れ込んでいる可能性も出てきた事から、結界を張って許可の無い者の立ち入りを禁じるなどの対策を講じている。レブルタールも協力して通達してくれているので有難い。


 誰かが許可なく踏み込んだら呪法により疑似的なアラームが鳴るといった対策を練ってあったりするのだ。


 それでも半霊体を食物に混入された場合は――魔力波長を見れば判別がつく。魔力波長に違いが出るという事は、それをもっと厳密に検知する事も可能なわけだ。

 半霊体が混入している場合、料理が光ると言ったような検知術式も組んでみた。竈で作った料理をそのまま傍らの食卓に運んで、食べる直前に術式で調べれば諸々安心、というわけだな。


『現世の料理は彩りが豊かで良いですね』


 レブルタールが言うとヘスペリア、シェスケルといった面々も水晶板モニター越しにこちらの様子を見て笑顔で頷いたりしていた。


 そんな調子で食事をして、風呂に入って就寝するまで資料を読み込んだり、書庫から関係していそうな書物を発掘したりといった作業をこなす。


 風呂に関してもやはり書庫近くの部屋を借りて浴槽や魔道具を設置したりと……少しばかり部屋に改造を施させてもらっている。男湯、女湯に分かれているが……同行している女性陣はやや人数が少なめなので、入浴中は天使達も警備について襲撃対策をする等、冥精達も色々と協力してくれている。そんなわけで、上層での襲撃があったばかりではあるが、割と安心して過ごす事が出来たのであった。




 封印の解除術式を受けた保全部隊の天使が目を覚ましたのは……明くる日の事であった。

 昏睡していた天使達は全員がすぐ察知できるように書庫近くの一角に運び込まれていたが、経過を見ていた天使が書庫に駆け込んできて、一人が目を覚ましたと嬉しそうに教えてくれたのだ。


「私は……一体どうして上層に……? 確かあの時――光が迫ってきて……」


 顔を見に行くと大分混乱している様子ではあったがレブルタールから状況の説明を受けて落ち着いてきたのか、静かに頷いて話を聞いていた。


 保全部隊の仲間達が寝かされていたり、プルネリウスやリヴェイラが無事との情報を聞かされて、一先ず安心したところがあるのだろう。まだ……1人は行方不明ではあるのだが。


 俺達がリヴェイラを連れて冥府にやって来たという事情を聞いて驚いていたようではあるが、レブルタールに俺達の事を紹介してもらいつつ、体調が悪くなければ何があったのか聞かせて欲しいと言うと頷いて話をしてくれた。


「私達は、プルネリウス様と共に定期的な保全任務に加わっておりました。私は――3回目になりますね。注意すべき事もありましたが、慣れてきたので油断もあったかと思います」


 と、護衛の天使は眉根を寄せる。もっとやりようがあったのではないかと悔やんでいる様子であるが。


「リヴェイラの事も知っているのですか?」

「今回の任務で初めてお会いしました。以前の保全任務でも、プルネリウス様は毎回違うランパスの方を連れてきておりました。施設の奥まで我らは同行できないのですが、保全作業中に閉所での作業があったり、開錠にランパスの力を借りる必要があるのでその時に手伝ってもらうのだとか」


 口調からリヴェイラは宮仕えだと思っていたんだがな。レブルタールに確認をしてもらったが、他の天使達もリヴェイラの事は知らないようだ。

 ランパスは上層でもいるし、塔でも働いていたりもするから、プルネリウスがどこかのランパスに手伝いを頼んだ、という事は有り得る、か?

 冥精達は冥府維持の為なら協力的だし、秘密を伏せておいて欲しいと言えば伏せていてくれるだろうが……。


 毎回違うランパスを連れて行った、というのもな。セキュリティ回りでランパスを変えなければならないとか。そういう事だろうか? ランパスは天使達同様、冥精として亡者や冥府の事を思い遣る性質がある。そうした性質を持っているからこそ、協力を求めて応じて貰えるという事が重要……だとか?

 或いは……特定の条件を満たしたランパスが選ばれる、という事もあるか。


 プルネリウスの行動というか、リヴェイラの同行に関しては色々と疑問は湧くが、当人はまだ目覚めていないしリヴェイラの記憶もない。

 ランパスの同行については、保全任務の記録でも触れられていない。


 プルネリウスはあの白い光からリヴェイラを守ったようだし、伝え聞いている話からしても何らかの儀式において使い捨てにするとか、そういう非道な意図を持っていた、というわけでもなさそうだ。


 念のために聞いてみたが、今まで同行していたランパスについては、保全作業が終わった後で一緒に帰ってきたと天使は証言してくれた。


「んー。護衛の面々が同行できないところまでリヴェイラが一緒について行ったわけだし、こうなると、ランパスが保全作業で重要な位置にある可能性は高くなったかな」


 記録を見てもランパスについては触れていない、というのが逆に不自然というか。全ての資料に目を通したわけではないが、何か重要なポジションにあるから敢えて触れていないというのは、傾向から考えると有り得る話だ。


『プルネリウスさんが目を覚ませば、その辺も聞けるのかな』


 イルムヒルトが思案しながら言う。そうだな。俺としてもその辺を期待したいところではあるが、今回の事態の解決やリヴェイラの記憶回復に直接関係がない、というのであれば無理に聞きだす必要もないかな。興味がないわけではないが、重要な点はそこではないのだし。

 いずれにせよ、事ここに至ってはプルネリウスが目覚めるのを待つしかあるまい。

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