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番外981 封印への対抗術式

 古文書の解読については、割と早い段階で面白い事が分かった。


『既存の古代文字の源流か、或いは意図的に変えたもの……なのかな、これは』


 最古の文字に類するのは月の民とベシュメルクの前身――エルベルーレの文字だが、それらの民族で使われていた文字とも特徴が少しずつ違う。

 両者の特徴を混ぜたような文字が多く、これらの文字がそれぞれの文字に分化していったと推測する事もできる。或いは――両方の文字に知識のある者が情報を秘匿するために組み合わせた文字を使って暗号化していった……と見る事もできるだろう。


 シェスケル達天使達は暗号なのではないかと言っていたがそう見るのも分かるような気がする。


 というわけで、そうした情報から文字一つ一つが何を意味しているのか、読み方等を類推して当て嵌めていくというわけだな。


 普通にやっていると解読には相当な時間もかかるだろうが、迷宮核なら先入観なく総当たりに近い形で可能性の高いものを探り、絞っていく事ができる。マシンパワーに物を言わせた力技とも言えるが、こういう場合に有効なのは間違いない。


 同じ文字列が続く組み合わせについては恐らく単語だろうと読み取る事ができるが、これについては既にそれらしい部分がいくつも見つかっている。

 後は文字一つ一つの意味を調べていけば、最終的に意味も通る……ようになるはずだ。この場合、創作された文字であれば月とエルベルーレの古代語が基本になるだろうし、仮に源流の文字のようなものがあるとするなら……更に2つの古代語をベースに意味を探っていく、という事になるのかな?


『ちなみにこの古文書については誰が書いたものか判明しているのかな?』


 通信機で質問を送ると、ステファニアがシェスケル達に聞いてくれた。


『はい。この古文書に関しては女王様が書いた事がはっきりしています』


 シェスケルが即座に答えてくれる。


『ですから、本来なら内容を解読せずとも、こういう事態なら女王様にお聞きできれば良かったのですが……。保全任務の意義を記した書物はプルネリウス様に預けてあるという情報はあったので、それを受けて私達もそれを回収してきた、というわけですね』


 なるほどな。保全任務の由来や意味は秘匿されているが、きちんと理由もあるし一部の者には伝えている、と。

 一般に明かせない理由はあるから伏せられてはいるが……プルネリウスに保全任務を任せて、古文書を預けてある以上は彼には知らせてあるのだろう。確かに、理由を知らずに任務に従事するというのは士気にも関わる。


 冥精達はそれでも信頼してくれるかも知れないが、神格者の場合は元が人である以上、自分が行う仕事の意味ぐらいは知っておきたい、と思うものだ。

 冥精や神格者達の信頼を集めている女王やプルネリウスが冥府の維持のために必要だと考えているからこそ皆も安心して動ける、というのもあるかな。


『古文書の解析はまだ時間がかかりそうだし、このまま昏睡を治すための術式を組んでみるかな』

『分かりました。私達はこのまま資料から情報を集めますね』

『うん。そっちはよろしくね』


 通信機でやり取りするとグレイス達はカドケウスに微笑んで応じてくれた。


 というわけで、迷宮核による古文書解析と並行し、術式の構築を進めていく。他者のかけた封印を解く術、という事になるから……これも悪用厳禁というか管理を厳重にしないといけない。特に、洞穴の奥にある施設が防衛機能として何かしらの封印をしている場合、それを無効化してしまうわけだし。


 呪法の応用で囮を作って封印の力を逸らしてやる事で、拡散させて効力を弱めていく、と。ああ。この方法なら行けそうだ。


 母さんがイシュトルムの封印を固定していた時のように、封印対象を明確に指定して術式を固定している場合はこれでは通じないが……今回は大丈夫だろう。

 呪法の応用というか、解呪術式であるとか仙術の身代わり護符に近い原理と言える。


 既に封印を受けている相手の戒めを緩めて少しずつ効力を囮に移す。制御の難しい術になるから、直接術を施す必要があるが、その分悪用もしにくくなるから、これはこれで良さそうだ。


『術式構築ができたら、また冥府に向かう事になるかな』

『では……古文書の解読作業が終わったら、テオドールに知らせますね』


 ティエーラは通信機を通してそんな風に申し出てくれたのであった。

 プルネリウスはリヴェイラを守ってくれたようだししっかり回復してもらいたいところだ。古文書の内容を知っているであろうプルネリウスが先に目覚めてしまえば解読作業に関しては意味が無くなってしまうかも知れないが。

 いずれにしても、万全を期すためにもやれる事は全てやっておくとしよう。




 昏睡の原因は封印術と似た形式である事から、解除術式については割とすぐに構築する事ができた。迷宮核内部のシミュレーションをした後で、実際に自分自身に封印術を施し、構築した解除術式を試してみる。

 左手の機能の一部――握力を一時的に封印し、それを解除術式のみで解除する事で安全性と効果を確かめるというわけだな。


 結果は――良好だ。戒めを解除すると左手に握力が戻ってくる。魔力の流れ、生命反応。共に問題なしだ。

 そんなわけでプルネリウス達を治療できる見込みも出来たところで、再び冥府を訪問する事になった。


「それじゃあ、行ってくるね」

「はい。お気をつけて」

「いってらっしゃい、テオドール」


 というわけで再度の冥府への出発という事でみんなも俺達を見送ってくれる。資料の読み込みは作戦室にいるみんなに任せて、また冥府で活動していく事になるだろう。冥精達の協力も取り付けたので今度はベリウスも連れて行ける。


「うむ。不在中のフォレスタニアの守りは任せて貰おう」


 ルベレンシアが気炎を上げるように言うと、ヴィンクルも声を上げて、ベリウスと共ににやりと笑う。ドラゴンとケルベロスが気合を入れているという事もあって魔力も迫力も相当なものではあるが。


 リヴェイラやユイ達、テスディロス達も各々見送りの挨拶を交わし……そうしてティエーラと迷宮の力を借りて、天弓神殿から冥府上層――サウズの待機している書庫へと飛ぶ。


「お待たせしました」

「ああ。これはテオドール殿。皆さんも。お戻りになりましたか」


 連絡を受けたレブルタールが、中継役のティアーズと共に書庫に戻ってきていた。挨拶するとシェスケルと共に笑顔で迎えてくれる。


『戻ってきたか。まあ、中層は一先ず落ち着いてるよ』

『おかえりなさい』


 リネットとヘスペリアも水晶板越しに俺達を迎えてくれる。素っ気なく肩を竦めるリネットと、明るく挨拶をしてくるヘスペリアである。


「お伝えした通り、昏睡から回復させるための方法が構築できましたので、再度訪問してきました」

「はい。その事についてはディバウンズ様にも連絡しておきました」

「ありがとうございます」


 レブルタールの言葉に頷く。ディバウンズとも協力体制が構築できたら調査用魔道具を預けたいとは思っているが、それはもう少し後でだな。

 切羽詰まった現場で動いている状態では、こちらも相応に実績を見せないと向こうとしても信用しようがない。いきなりやってきた相手に調査用魔道具を預けられても困るだろう。


 俺としても調査用魔道具を預けるなら顔を合わせて話をし、お互い納得した後でという方が安心できる。その点で言うと、彼らが救助した面々を昏睡から回復させるというのは信頼を得るのに足るだろう。


 そんなわけで新たに冥府に同行するベリウスを天使達に紹介しつつ、レブルタールに付き添われて、まずは昏睡している天使達の所へと向かったのであった。


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