番外978 現世からの応援を
「おかえりなさい、テオ」
「おかえり」
「うん……。ただいま」
作戦室のみんなが俺の周りに集まって抱擁してくる。お腹の子の事もあって力強くというわけにはいかないが……その代わりにそっと優しく頬や髪、背中を撫でられたりして、暖かさを感じるものだった。
アシュレイやクラウディア、マルレーンにエレナ。年少組は子供の心配もないから、俺の胸に顔を埋めるようにして、しっかりと抱き合ったりして。
「心配させたかな」
「場所が場所ですから……でも、こうして無事に帰ってきて下さって、嬉しいです」
アシュレイが言う。そんな彼女の髪を撫でたりして。手の中で滑って零れ落ちるような、さらさらとした質感の髪が心地良い。
「冥精達が生者に好意的で良かったわ。色々行動にも融通が利きそうね」
ローズマリーが羽扇で表情を隠しながら言う。声色からすると機嫌が良さそうだが、だからこそそういう時に表情を隠したりするローズマリーである。
「確かにね。まだ、重要人物全員に会ったわけではないけれど、上手い事協力関係を築けそうだ」
冥府の女王とプルネリウス、それに下層で指揮を執っているディバウンズであるとか……まだその辺りの面々と言葉を交わしたわけではないが、ヘスペリアとレブルタールを始めとした冥精達からの印象は良好だし、リネットもそうだが、カイエン、ユウといった面々も俺達に対しては友好的だ。
その辺の事を考えるとまあ、冥府の面々とは上手くやっていけそうに感じている。戻ってきたユイ達もみんなに喜んで迎えられて嬉しそうだ。
ユイもヴィンクルと手を取り合っているし、ヘルヴォルテはクラウディアや迷宮村の面々が迎え、オルディアや隠れ里の元住人達が、テスディロス達を暖かく迎えていた。
グレイス達との抱擁が終わると動物組や魔法生物組の面々も俺の所にやってくる。ラヴィーネやアルファ達の頭を撫でたり、コルリスやアンバー、ティールと握手をしたりと、中々心が和む。
「一先ずは天弓神殿から応援を送ってくるよ」
そう言うとみんなも頷く。
「では、ここに集まって下さい」
「ついてきてね」
ティエーラとコルティエーラが言うと、集められたハイダーとシーカー、改造ティアーズ達が隊列を作る。ハイダー達自身で点呼を取って、人数が合っている事を確認すると先頭の者達が手を挙げたりして。
ハイダー達を上層の書庫に送る事で、現世にいる面々も解読作業を手伝えるようにする、というわけだ。グレイス達はまあ、そんなに無理できるわけではないから負担にならない程度に、ではあるが。それでも手伝いができる事が嬉しいのか、みんなにこにこと上機嫌だ。
まあ……いずれにしても解析が重要だからすぐさま動けるというわけでも無い。少しばかり現世側での作業を進める必要があるだろう。
冥府では下層にいるディバウンズに俺達の訪問について連絡をしているところらしいが……救助作戦だけでなく全体指揮を執っているだけに、状況を考えれば早期に彼と顔を合わせて挨拶できるかどうかは微妙なところだろうか。
やはり俺達は現状、後方支援としてすべき事があるので、できる事をしっかりとした上で、その後に現場に加わって動いていく、というのが信頼関係を築く上でも良いだろう。
「もう一回、少し行ってくるよ。今度はすぐ戻ってくる予定だけどね」
「ん。いってらっしゃい」
みんなに見送られて、ティエーラと共にハイダー達を連れて再び天弓神殿に飛ぶ。
「それじゃあ、ちょっと作業してくる。中継用の魔道具を設置してくる兼ね合いもあるからね」
「はい。お気をつけて」
そうしてティエーラに見送られてサウズの待つ書庫へと続けて飛んだ。そこにはシェスケルと共に司書の天使達が、俺が戻ってくるのを待っていてくれたようだ。カイエンとユウも他に関連の書物がないか、目録を見ながら書棚を回ってくれているようで。
「応援と言っていましたが、可愛らしい子達ですね」
「それぞれ、魔法生物のハイダー、シーカー、ティアーズ達です」
俺の言葉に合わせてハイダー、シーカー、ティアーズ達が順番にお辞儀をするとシェスケル達は表情を綻ばせる。
書庫側でも受け入れ体制を整えてくれていて、シェスケルが該当する書物を大きな机の上に積んでおいてくれたようだ。水晶板や中継用魔道具の設置を手伝ったりしてくれたので、割とすぐにそれらの作業も終わる。
「そっちに声と映像は届いてるかな?」
『聞こえていますし、見えていますよ』
『個別に中継漏れがないか、調べていきますね』
水晶板モニターを覗いているフォレスタニア城の面々に尋ねると、グレイスとエレナがそんな風に答えてくれた。複数水晶板モニターを用意して、大勢で本の解読等ができるような体制を整えていくというわけだ。
具体的にはシーカーやハイダー達が本のページをめくり、水晶板モニター越しに本を読んだり探したり、といった具合だな。
ティアーズならリヴェイラの記憶を戻す補助という事で上層のあちこちを巡ったりもできるだろう。それをやるならば天使達の許可を貰って、同行してもらう方が無難だろうが。
『こっちの声は聞こえる?』
「ああ。声も映像も大丈夫」
こちらに向かって楽しそうな表情で軽く手を振るイルムヒルトである。マルレーンもにこにこしながら軽く手を叩いて、声を出さずとも映像と音声がきちんと届いているか確認作業に勤しんでくれている。
『これで最後、かしら?』
そうして作業を進めていき、首を傾げるステファニアの言葉に頷いて、全ての水晶板がきちんと動作している事を確認してからシェスケルに話しかける。
「どうやら問題はなさそうですね。解析作業もあるので、魔力補給を終えたら現世側に戻ろうと思います」
「はい。では、テオドール殿が戻るまで、水晶板の向こうにいる方々と自己紹介をしながら待っておりますね」
『よろしくお願いします』
「こちらこそよろしくお願いしますね」
モニター越しに丁寧にお辞儀しあうグレイスとシェスケルである。そんなほのぼのとした光景を眺めつつサウズへの魔力補給も終える。
「では、また後程」
「はい。また後程お会いしましょう」
シェスケルと言葉を交わし、そうして再び現世側へと戻るのであった。
とりあえず、現世に戻っている間はしっかりと寛がせてもらう。
ずっと緊張したままではいざという時にベストの状態で動けないしな。休める時にしっかりと休むというのが大事だ。そういう点ではやはり現世……我が家という部分が占めるウェイトは大きいと言えよう。帰ってきていてみんなと一緒にいるとそれだけで安心できる。
一方で冥府は油断ならない状況ではあるが様子は上層、中層共々モニターしているのでこれらの階層で異常が起こればすぐに動ける。
リネットやヘスペリアも中層の状況を見ながら水晶板を通しての解読作業に参加してくれる、との事で。リネットは魔法技術、ヘスペリアは中層の事情にそれぞれ詳しいので中々に心強い。
俺達が帰ってきたという事でマギアペンギン達もフォレスタニア城の船着き場に遊びに来ていた。
セシリア達の作った料理を船着き場に運んで貰い、そこでのんびり食事をとったり、それが済んだら魔法生物達に魔力補給をしながらマギアペンギン達と交流をしたりといった具合で寛がせてもらう。
マギアペンギンの雛達はかなり順調に成長している様子だ。身長、体重共に中々大きくなって……元々種族的に大型のペンギンなのでまだ雛ではあるのだろうが背丈は俺達に近くなってきたというか。それでいて羽毛はふかふかしているのだからシャルロッテとしてはご満悦なようではあるが。
そんな調子でイルムヒルトの奏でるリュートとセラフィナの歌声に耳を傾け、のんびりとした時間が過ぎていくのであった。