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番外974 記憶の中の人物は

 レブルタールやヘスペリア、ユイやリヴェイラ、ガシャドクロと共にプルネリウスの眠っている部屋へと向かう。

 プルネリウスは自分の塔があって普段はそこに住んでいるらしいが、意識を失った今の状態だと看護を行うために中央の塔の上層に保護されているという事だそうな。


「中央の塔の方が交通の便も良く、魔道具や設備も充実していますから。他の意識不明者と共に中央の塔で容態を調べたりしている状態なのです」

「揃って意識が戻らないとなると……やはり何らかの呪法や魔法の作用を考えてしまいますね」

「はい。私達も二次被害、三次被害を懸念していますし、ディバウンズ様がアイオーンを派遣なさったのもその辺りが理由でしょう」

「ディバウンズさん、ですか」


 尋ねるとレブルタールは頷いて説明してくれる。


「はい。ディバウンズ様は今現在、下層で洞穴からの救出作戦の指揮を執っているお方です。プルネリウス様と同じく神格を有しており……アイオーンの開発を担当した方でもありますね」


 ……なるほどな。開発者なら運用における細かな注意点も把握しているだろうし、指揮を執るにも適任、か。プルネリウスと同じく結構特殊な立ち位置にある人物なのだろうと思うが。


「アイオーンも可能なら現物を見ておきたいところですね」

「今は――下層に出払っていますのでアイオーンは上層には残っていません」


 そうか。まあ、現時点では下層が一番大変だろうしな。上層には天使がいる事を考えれば、アイオーンの配置は下層優先になるのは当然だろう。


「少し話は変わりますが……古参で禁忌の地の事情を知っている冥精、という方はいないのですか?」


 精霊達であれば禁忌の地について知っている者がもっといてもおかしくは無さそうだが。


「私達は――精霊ですが現世の同胞とは違うところがあります」

「亡者との交流や、昇念石に込められた想いと日常的に触れているけれど……だからかな。人生っていうのがとても魅力的に見えるんだ。眩しくて、綺麗で……。だから生まれ変わる事を望む子も多いんだ」

「これもまた冥精としての性分、なのかも知れませんね。だからこそ、冥精達で冥府が溢れかえるという事もありませんから、それが自然の流れとも言えるでしょうか」


 レブルタールとヘスペリアはそう言って目を閉じたり、頷いたりしていた。

 そう、か。冥精達は元々亡者に好意的で、日常的に昇華された想いに触れ合ったりしているから。何というか、長く生きた魔人達が生きる事に飽きて、摩耗してしまうのとは逆の印象があるように思う。生というものが眩しくて綺麗、だと感じるから、自分もそうありたいと願って、憧れてしまうというわけか。


 ともあれ、そうした新生をせずに遥か昔からずっと留まっているのは最高位の冥精である冥府の女王ぐらいのものなのだとか。


 そうやって話をしながら塔の上階へと進んでいき、やがて俺達はその一角に案内された。


「プルネリウス様です」


 と、レブルタールが紹介してくれる。

 部屋の中には――ゆったりとした貫頭衣を纏った白髪の男が寝台の上に横たえられていた。

 半霊体の身体と、そこに蓄えられた清浄な魔力。神格を有する、というのは間違いなさそうだ。

 生命反応はないし、生者ではないので呼吸はしていない。生きている亡者というのもおかしな表現だが、そこに魂があるかどうかは魔力反応やデュラハンの能力ぐらいでしか見分ける手段がないな。


 しかし……その姿には俺達は見覚えがある。フォレスタニアの作戦室でもグレイス達が頷いたりしていて。


「……リヴェイラちゃん、どう?」

「ああ――。多分、知っている方であります」


 ユイの質問にリヴェイラは胸のあたりに手をやりながら答えた。そうだな。恐らく間違いない。リヴェイラの記憶の断片で見た後ろ姿は、そして彼女の名前を呼んだのは……この人物だろう。


 折角再会できた相手だというのに意識が戻らないというのは……リヴェイラとしてもショックが大きいかも知れない。ユイとガシャドクロはリヴェイラに寄り添うようにしていて、心配しているのが分かる。


「胸の奥がざわつくというのでありましょうか。もどかしい感じがあるのに……まだ……何も思い出せずにいるであります。この御仁が助けてくれたのだとしたら……申し訳なくて……」

「単純に衝撃を受けて記憶を失ったのかもって考えてたけど、あの白い光の影響だとしたら、記憶が戻らないのもその辺が理由って事も有り得るかな。はっきりした事は分からないけれど、あまり自分を責めない方が良い」


 リヴェイラも現世に飛ばされてきた時は意識を失っていたし。白い光に晒される時間が短かったからすぐに意識を取り戻す事ができた、と考える事もできる。

 いずれにしてもあまり気に病まない方が良い。今は……そういう想いを無駄にしないためにもやるべき事を見定めて、一つ一つこなしていく、というのが良いと思う。


 そうした考えを伝えると、ユイもうんうんと真剣な表情で頷く。そんなユイの様子にリヴェイラは少し笑ってからまた真剣な表情に戻して俺を見てくる。


「まずは……そうだね。このまま診察して情報収集。そうしたら他の……意識を失っている面々の診察や、戻ってきた護衛と話をしたりしてみよう」


 そう言って、みんなの見守る中、プルネリウスの所に近付く。

 と言っても、相手が半霊体だと循環錬気はできない。半霊体の相手との循環錬気についてはそうする事も予想していたので対応策は既に考えてあるが。


 ウロボロスの石突で軽く床を突き、複数のマジックサークルを展開。体内で練り上げた魔力を放出してそれを操作していく。

 体外に放出した魔力を操作して外部に仮想の感覚器を造り、その仮想感覚器と五感リンクを行う事で、相手と直接魔力のやり取りをせずに魔力や器、魂の状態を調べる、というわけだな。まあ……通常の循環錬気のように施術者の魔力も同時に増強される、という事はないが、相手に対しては同じような効果を与えたり、情報収集をする事ができるだろう。


「……何と言いますか、相当高度な術式を同時展開しながら複雑な魔力操作をしているように見える、のですが」

「もっとすごい時もあったよ……!」


 レブルタールとヘスペリアが目を丸くしているところで、ユイがそんな風に言ってにっこり笑う。ユイには対話をした折に記憶を見せて色々伝えているからな。フォレスタニア城や冥府中層の塔ではみんながそんなユイの様子に微笑んでいたり、コルリスとティールがそろって頷いていたり、リネットがさもありなん、といった表情を浮かべていたりと、各々様々な反応を見せているが。


 魔力で形作られた人型のようなもの――仮想感覚器でプルネリウスの手を取ると……五感リンクを通して俺の感覚にもフィードバックがある。

 うん。どうやら問題無さそうだ。俺自身と魔力が混じりあう事もなく、半霊体との循環錬気が問題なくできている。通常のものとはやや異なるので、仮想循環錬気……と名付けて区別しておくか。

 状態を見て並行してデータ収集もしていくが……一つ問題があるな。


「半霊体の器、且つ神格を持つ方の通常の状態が分からないと、比較検討して正常な状態に持っていくのが難しそうですね。誰か、協力者を募りたいところなのですが」

「分かりました。それについては私達の方で神格を持つ方に声をかけてみましょう」


 良し……。それなら治療の目途も立ちそうだ。では、このままリヴェイラを連れて護衛達の見舞いをしたり、魔力の状態等の情報収集を進めていくとしよう。

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