番外971 天使達の会議
『――そうですね。私もリヴェイラの記憶を戻す事、テオドール殿に助力をお願いする事、それぞれに賛成です』
『同じく。テオドール殿の評判は冥府にも鳴り響いている。人格的にも能力的にも問題ないと思う』
『魔人に関しても呪いを解いたり、特性を抑えているという話ですからね』
『素晴らしい行いです』
と、冥精達の話し合いはそれぞれの意見や見解を聞いて今後の方針を決定していくという段階だが……妙に俺に対する冥精達からの評価が高いというか……。冥府でどんな噂になっているのか気になるところだ。
それに、呪いが解けた時の魔人達についても……かなり信用されている印象がある。レイスとして過去に実績を積んでいるからだろうか。
ヘスペリアもリネットの言葉を信用するからこそ、俺が本人に違いないと判断したのだろうしな。
『上層の冥精さん達とも仲良く出来そうなのは安心ですね』
「うんっ」
グレイス達やユイ達もそんな冥精の反応に俺を見てにこにこしていたりして。俺としては些か気恥ずかしさを感じてしまうが。
まあ、なんだ。良い方向で話が進んでいるようで、俺としては一安心である。ヘスペリアもそれは同様なのか、息をついて胸を撫で下ろすような仕草を見せていた。
そうして冥精達は改めて問題点等がないか意見を求めた上で方針を取りまとめる。
『では――協力を求めると共に、上層までお招きする、という事でよろしいですか?』
『そう致しましょう。その、上層の環境魔力に問題がなければ、ですが』
という事で無事に話は纏まったようだ。ヘスペリアは迎えに行ってくると他の冥精達に伝えていた。
俺達が中層の環境魔力が生者に影響しないか調べた、というのもヘスペリアには話の中で伝えてある。
ブラックドッグのマデリネにはまた移動するかも知れないと伝える。
「この場所は何時でも使えるように椅子と机、……それから、寝台等はそのままにしておきます。全て引き払って移動では大変でしょうし」
と、マデリネからはそんな返答があった。
「それは……ありがとうございます。レイスの彼女もここに残りますし、一部の持ち込んだ備品等もそのままにさせて貰っても良いでしょうか?」
「勿論です。生きている方には必要な設備も多いでしょうし」
有難い話だ。亡者が冥府に来て不必要になる設備に関しては色々あると思うが、そういうものは冥精達も亡者から話を聞いているから把握しているのだろう。マデリネも分かっているからか話が早い。
拠点を移すならリネット用以外の水晶板モニター等は回収しておく必要があるが、簡易の竈等、生活に必要なものは複数箇所に拠点構築できるように予備も持ち込んでいるので、その辺の備品はそのまま預かっておいてもらおう。
納骨堂の場合は流石に何か残しておくわけにもいかないから全て引き払う必要があったけれど、この後はどういう展開になるか分からないしな。暫くの間は中層にも拠点が残っていた方が便利だ。
そんなわけで一部の魔道具を魔法の鞄に回収したりして、移動のための準備を整えて待っているとヘスペリアが戻ってくる。
「ただいま。みんなも賛同してくれたよ。早速上層に来て貰えたら嬉しいって」
と、結果を教えてくれる。
「ありがとうございます。僕達もすぐ動けるように準備は完了していますよ」
ヘスペリアは中継機で状況を把握している事を知っているので頷いて応じる。
「それじゃあまあ、あたしはここで待ってる。中層で何かまた騒動があったら中継機で連絡するって事で」
行ってくるといい、と軽く手を振るリネットである。
「ああ。また後で」
「あいよ」
というわけで、全員で偽装を施して中層から上層への移動を開始する。
「あの場所に集まった方々の他に、重要な方はいるのですか?」
トラブルを避ける意味でも上層を取り纏めている者がいるのなら挨拶をしておいた方が良い、と思うのだが。
「んー。私はそこまで上層の事情に詳しいわけじゃないんだけど……それに関しては上層も今大変みたい。話に出ていたプルネリウス様も意識が戻っていないし、もう一人――冥府で一番偉いお方も目を覚まさないから私達の判断で動くしかなくて……。その方々を除いて今上層で一番偉いってなると私が会ってきた子達っていう事になるね。今は、下層の方にも同じぐらいの立場の人が1人降りていて、今連絡を回してくれてるところかな」
ヘスペリアからはそんな答えが返ってきた。もう一人、目を覚まさない人物か。これまでの冥精の話でも何度か出ているな。
「その方も高位の冥精、という事になりますか?」
オズグリーヴが尋ねると、ヘスペリアは真剣な……というよりは心配そうな表情で首肯する。
「冥府の、女王様だよ。多分……その話も上層でして貰えると思う。私はあの方の今の状態をよく分からないから、適当な事は言えない、かな」
その言葉に、デュラハンやガシャドクロも反応していた。
冥府の女王……か。今この時期に目覚めないというのは、この事件と何か関係があるのだろうか? それとも別の理由があるのか。
心配しているヘスペリアやデュラハンの反応からも、冥府の女王が尊敬されているのは分かる。
話をしている内に、上層へ向かうゲートへと到着する。まずは封印術の応用で防護フィールドを纏い、俺とヘスペリアだけで先にゲートを潜ると、そこはもう上層だった。先程モニターで見た光景がそのまま広がっていた。当然、そこにはゲートを警備している小天使達もいて。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「ヘスちゃんから話は聞いてるよ。テオドール様だよね」
「生きてる人見るの、初めて。しかもそれが噂のテオドール様なんて」
と、小天使達が俺に挨拶を返してくれる。握手を求めてきたりと、明るく歓迎してくれる小天使である。冥府に昼夜はないが、上層は明るいので何となくこういう挨拶になってしまったが。
握手に応えつつ、その傍らでこのままこの場所で調査作業をしていいかヘスペリアに許可を貰い、調査用魔道具を用いて空気の組成等を確認したり環境魔力を収集していく。冥府の環境魔力については、迷宮核で分析した情報の集積もあるので、ウィズと共にそれらを参考に分析すれば生命への影響を調べられるが……うん。どうやら問題はなさそうだな。
中層よりも清浄な魔力という印象があるが……より現世に近い場所であるからか、馴染みのある環境魔力にも感じる。草木に関してはやはり半霊体か。生命反応がないから引き続き、食事関係には気を遣わねばなるまい。
封印術の防御フィールドを解きつつ様子を見て、異常がないことを確認したところで中層のみんなにも連絡を入れると、すぐに転移ゲートを越えてユイ達も上層へ移動してくる。
「こんにちは」
「こんにちは!」
と、ユイ達も明るく小天使達と挨拶をする。子供の姿をした小天使達と、ユイの様子を見て、フォレスタニア城の面々も和んでいる様子だ。
「こ、こんにちはであります」
「ええ。こんにちは」
「こんにちは。あなたがリヴェイラちゃんだね」
小天使達はリヴェイラとも明るく言葉を交わす。やや緊張している様子のリヴェイラであったが、小天使達がフレンドリーな態度なので結構安心したようだ。
「えっと。この子に見覚えがあったり、面識があったりしない?」
「うん。前にプルネリウス様達と下に降りてくのを見たよ」
「そうだね。面識はないけれど」
ヘスペリアの問いかけに小天使は頷いてそう答えた。そうなると、プルネリウスを含め、一緒に行動していた誰かが記憶の断片で見た人物という可能性は高いな。それに……上層の都に行けばリヴェイラと面識がある、という者も出てくるかも知れない。