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番外968 冥精達の歓迎

「他の行方不明者についてはどうなんですか?」

「アイオーンが潜入して捜索をしてるよ。まだ所在が分からない子が2人いて――その内の1人がリヴェイラだったんだ」


 先程教えてもらった行方不明者については事故当時のもので……今現在の行方不明者は後1人、という事らしい。


「対策無しで潜入できるかどうか分からない以上は……アイオーンに捜索を任せる形になるか」


 リネットが言う。まず二重遭難を避けるというのは基本だろうな。アイオーンを見ていないから何とも言えないが、現世側の魔法技術も導入されている事を考えると性能も高いのだろうし。


「協力態勢を構築できるなら、お役に立てる事があるように思います」

「ほう」

「ふふ、心強いな」

『ん。調査魔道具の活用?』


 俺の言葉にリネットやヘスペリアがそう言って、シーラも水晶板モニターの向こうで言う。

 俺達が立ち入って良い場所かどうか等々、現時点では分からない事が多いが、ノーズやサウズを潜入させられずともアイオーンに調査魔道具だけ持ち込んでもらう、という手もある。

 文献での情報収集と合わせれば、対策も練る事ができるのではないだろうか。


「冥府に生身で立ち入れるか調べる為に使った魔道具があるので、それを活用するのがいいのではないかと。許可が貰えるなら、の話ですが」

「分かった。それは私から話をしてみるね」


 にっこりと笑うヘスペリアの言葉に頷く。納骨堂のみんなを紹介する必要があるが……その前に、ヘスペリアにも色々と俺達の事情を話す必要があるかな。




「――そうだったんだ。魔人との和解と共存……」


 納骨堂の地下区画から撤収する準備をしてもらいつつ、魔人との経緯について話をすると、ヘスペリアは色々と目を閉じて感じ入っている様子であった。


「魔人のみんなはね、呪いが解けると自分の生前の行動を気にする人が多いから……だから、レイスとしての立場は寧ろ進んでっていう場合が多いんだ」

「そうだったんですか……」


 手にかけて来た者の痛みや恨み、辛み、憎しみを和らげ、生前の行いの償いになるなら、という事か。


「そう考えると、生前から魔人の特性を抑えたり、魔人化を解除できるってすごい事だと思うの。うん。そのテスディロスさんやオズグリーヴさんを、私は信じるよ。魔人化を解けた時の世界の見え方の違いを知っている人やその後の行動を、私達は見て来たから」


 ヘスペリアは力強くそう断言して。リネット、テスディロスやウィンベルグ、オズグリーヴはその言葉に目を閉じたり遠くを見るような目になったりと、それぞれに反応していた。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、ヘスペリアは首を横に振って笑う。


「ふふ、テオドールさん達の奮闘も知ってるよ。あちこちで囚われてた魂を解放したりもしてるもんね。それで冥府のみんなも、テオドールさんには一目置いてるんだ」

「それは何というか……ありがとうございます」


 ドラフデニアの悪霊だとか、テンペスタス達の解放だとか……心当たりはあるが、あの辺が冥府でも知られているという事か。

 何と反応したらいいのか困るが、苦笑してお礼を言うとヘスペリアはにこにこと笑って頷いていた。生者だから冥府に立ち入って拒絶されるのかとも予想していたが、意外にも冥精達自体が好意的なような気がするというか。


 そうやって話をしている内に納骨堂地下の撤収準備もできたようなので、みんなと合流してヘスペリアと引き合わせるとしよう。


「ヘルヴォルテさん達とも会うの、楽しみだな」


 迷宮生まれのワルキューレという事で、ヘスペリアは興味を抱いているようだ。まあ、しっかりとした器があるのでヘルヴォルテは冥精達とは少し違うのだが。


 そうしてリネット、ヘスペリアと塔の外に出て待っているとみんなもやって来た。


「凄いなあ……。みんなほんとに冥府の子にしか見えない」


 ヘスペリアは変装したみんなをまじまじと眺めてそんな感想を漏らす。

 俺達が話をしたり撤収準備を進めている間に他の冥精達にも話が通されている。亡者達に知られて騒ぎにしたくはないという事で、塔の一階部分の中でみんなの姿を一目見ようと他の冥精達も待っていたようだ。


「は、初めまして。リヴェイラであります」

「初めまして、リヴェイラ。ヘスペリアだよ」


 リヴェイラがおずおずと挨拶をすると、ヘスペリアは笑顔で応じる。

 というわけで各々自己紹介をしていく。ユイがにこにこと挨拶をするとヘスペリアも応じる。フランクな性格同士、ユイとヘスペリアは相性が良さそうな気もするが。


 リネットもテスディロス達と挨拶をしているようだ。


「テスディロスとウィンベルグか。まあ、覚えてるよ。大して話はしなかったが、魔人にしちゃ真面目な奴だって話は聞いた」


 そんな風に語るリネットは、レイスとしての姿なので表情は見えないものの、穏やかな声色に聞こえる。

 そうしてヘスペリアが「よろしくね」と手を差し出しみんなと握手を交わす。ユイやヘルヴォルテも微笑んでヘスペリアの手を取ったりしていた。

 デュラハンはと言えば、ヘスペリアも面識があるのか、にこにこと挨拶をしたりして。元気そうで良かったというヘスペリアの言葉に首を縦に振ったりしていた。


 通信機ではなく、魔力文字で『最近は地上にいたので出遅れてしまったが、手伝わせて欲しい』とそんな風にデュラハンが伝える。


「うん。ありがとう!」


 ヘスペリアはそう言って微笑み、塔の奥へと案内してくれる。ヘスペリアについていくと、4階にある少し広い部屋に通された。ブラックドッグ達がやってくると大きなテーブルを運び出してすぐにもう少し小さいテーブルや人数分の椅子を持ってきてくれた。元々会議室か何かとして使われているような部屋なのかも知れない。


「臨時の間に合わせではあるけれど、この部屋を使ってくれるかな? 納骨堂の地下じゃ色々大変だったでしょう?」

「ありがとうございます」


 というわけで部屋に隠蔽結界を展開したところで、みんなも変装を解いて素顔をヘスペリア達に見せていく。


「改めて、初めまして!」

「これが変装を解いた姿なんだね。よろしく、ユイちゃん」


 ユイが明るい笑顔を見せるとヘスペリアもにこにことしながら応じる。


「生きてる人、初めて見た」

「幽霊が一番生前の姿に近いって言ってたけど、ほんとなんだね」

「あの人がテオドール様?」


 と、ランパスやブラックドッグ達は俺達に興味津々といった様子だ。生者がいる事は亡者達に伏せた方が良いが、冥精達に限ってはヘスペリアと話がついているだけに、皆友好的である。


「ごめんね。実は私も同じような感想だったりして」


 と、ヘスペリアが少し悪戯っぽく笑う。


「賑やかで楽しいですよ。みんなも良い意味で興味を持ってくれているようですし」

『ふふ、冥精さん達は友好的ですね』

『死者の国とは言っても、元々人と関わりが深い精霊だものね』


 フォレスタニアの作戦室でもグレイスやイルムヒルトがそんな風に言って微笑み合っていた。そうだな。冥精達というのはそういう性格なのだろう。


「それで、これからの事なのですが」

「うん。一先ず、私から話をしてくるね。もし上層のみんなと話がつかなかったら……またその時は方法を考える」


 そう言ってから、ヘスペリアは俺を見てくる。


「私達は歓迎なんだけど、そうじゃない子もいるかも知れない。危険がないように連絡が取れたらいいんだけど」


 と、尋ねてきた。なるほどな。それならヘスペリアに中継機を持っていって貰って、映像や音声を伝わるようにしておく、というのが良いのかも知れない。

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