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番外963 冥府の底にて

「さて。それじゃあ――あたし自身が見たもの聞いたものをそのまま話していくってのが良いか」


 リネットはそう前置きしてから続ける。


「少し前に冥精達に集められてな。最初にこれから伝える事は街の亡者達に伝えてはいけないと念を押された。元々、仕事の内容は亡者達に話さないようにって言う決まり事になっているんだが、こうやって念を押されるのは初めての事だった」


 少し前という時期については大体俺達とリヴェイラが会った後ぐらいという事らしい。街中の情報収集でもレイス達が街から少なくなっていた時期については分かっている。


「そのまま、あたし達は冥精達についていき、下層――地獄に向かった。あっちは罪の重さによって幾つかの層に分かれているらしいんだが……幾つかの門を潜り、誰もいない荒野を抜けて……あたし達が向かった先は暗闇で先の見通せない、大きな洞穴のような場所だったよ」

「洞穴……?」

「地の底に続いているような、な。下には降りるなと言われた。準備ができるまで、洞穴の入り口に防衛線を構築するってのが冥精達から伝えられたあたし達の仕事だった。まあ、レイス……というか亡者は、その気になれば休息も食事も眠りもいらない。すぐさまかき集めて警戒や防衛網を構築するには都合が良いってのは分かる」


 確かにな。すぐさま集められる戦力でもある。

 ともかく冥精達も山程昇念石を持ち込んだり、どこかから資材を持ち寄ってきて、防衛線の構築をしたそうだ。


「洞穴か。底から何が出てきても一か所で迎え撃てるなら……そこに防衛線を構築するってのは有効かも知れないな」

「そうだな。冥精達もそのつもりで資材まで用意していたし、結界を構築していた。だがまあ、冥精達も洞窟の底に関しては分からないって話だったよ」

「……冥精達も命令を受けて結集したって事かな?」

「多分な」


 上層か下層か。冥精達の上役に命令を受けたという事らしい。そうしてブラックドッグ達が急ピッチで建築をしている間に……それは起きた。


「お前もさっき巻き込まれたから分かると思うが……あの、鳴動だ。洞窟の中からじゃなく、あちらこちらから化物共が湧いて出た。黒い靄のような姿で……街中じゃ飛行型だけだったが、色んな形の奴らがいたよ」


 人型や四足で駆けまわる獣型、俺も交戦した、あの頭蓋の飛行型……。かなりの大群だったそうで、先程のように第一波を凌いだからと言って打ち止めになるというわけでもなかったそうだ。


「そういう意味じゃさっきの鳴動は……先触れみたいなものか」

「ああ。質も量も違う。それでも冥精達が昇念石を持ち込んでたから十分戦えたがな。そして、あたし達の方にも援軍がやってきた」

「援軍、か」

「指揮官は分かりやすく言や、天使とオーガみたいな奴だな。だがあいつらも冥精の一種だろうな」


 天使、というのは何となく分かる。ヘルヴォルテもそうした姿に近いし、オーガというのも地獄の獄卒――鬼という事になるだろう。冥精である、というのならまあ、分かる気がする。


「上層と下層からの援軍か」

「多分、な。だがそれよりも……ゴーレムのようなものを兵力として主力にするつもりのようだったのがあたしとしては気になっている」

「ゴーレム?」

「冥精達にはアイオーンって呼ばれてたな。入口の安全を確保したら、アイオーン達を洞穴の奥へ進行させる予定らしい。まあ、恐らくそれの準備に時間がかかったんだろう」


 ……なるほどな。


「……安全策を取ったか。それとも洞穴の奥にある何かが、冥精や亡者にとって相性が悪いか、ってところかな」

「かもな。死者の国の冥精達も詳しい事までは知らないらしいが、他の階層の冥精となれば事情を知っている可能性は十分にある」


 アイオーン……ゴーレムでなければならない理由があるとしたらその辺だろう。ともかく、その援軍が到着した後でリネット達は撤退するという事が決定したそうだ。

 出現した化物が他の区画でも出現する可能性を否定できない、というのがその理由だ。要するに洞穴前の戦力は充実したので他の所が手薄にならないようにしたわけだ。その危険性も現実のものになったようだが。……塔の冥精達の話では事態もまだ進展がないというような事を言っていたが、さて。


「誰かを探しているとか……そんな話は出なかったかな?」


 例えば、リヴェイラに繋がるような何か、とか。


「冥精達からは……もし洞穴から出てくる者がいても味方かも知れないから自分達に知らせて、すぐに攻撃は仕掛けないように、とは言われたな。あたし達がその場にいて、確認できた範囲内では、洞穴から出てきた者はいなかったが」


 ……なるほどな。


「プルネリウスっていう名前に心当たりは? この辺はあまり大きな声じゃ言えないが、調査中に冥精達が話題に出しているのを聞いたんだ」

「詳しくは知らないが……上層の冥精達が名前を出しているのは聞いた」


 事態の解決に当たるために指揮を執っているという可能性はあるな。或いは、リヴェイラの記憶の断片で一緒にいた誰か、という可能性もある。

 リヴェイラの記憶のあった建物……白い光の爆発現場――あれが洞穴の奥にある、という可能性もあるな。


 リヴェイラが受けたダメージは……結界の破壊による衝撃のようなものだ。例えば、何かの封印が破壊され、それに連動して鬼火達が活性化して顕現するようになった。有りそうな話だ。


 リネットの話を聞いている限りでも、上層と下層の冥精達はその事態をある程度予期していたし対応を考えていた節が見られるな。問題が起こる前に洞穴前に戦力を結集させて準備をしていたあたりなどを考えるとな。


 リヴェイラと同行者が先行して何か……例えば結界や封印の維持などを行おうとして、想定外の事態が起きて立ち入りに慎重にならざるを得なくなった、というのは有り得る。

 仮にリヴェイラと同行者が破壊工作をしようとしていたとするなら、ギリギリまでその場に留まっていたというのは逆に考えにくい。

 リヴェイラの善良さを考えても、冥精側に敵対的だったというのは可能性として低いように思う。


 しかしまあ、そうなるとやはり、リネットにも事情を話した上で、今後の方針を相談する必要があるかな。


「生者が冥府にやって来た場合っていうのはどういう扱いになるんだ?」

「分からんね。何分聞いた事もない話だ。当然、冥精達もわざわざ生者に警戒しろなんて話はしない。敵対的でないなら手を結ぶ余地はある、とは思うが、冥精達がどう思うかは予想がつかない」


 リネットは顎に手をやり、思案しながら言う。


「まあ、そっちの詳しい事情をあたしに伝えるかどうかは任せる。約束があると冥精達に言えば、無理に聞き出すような事もしてこないだろうよ。何せ……そもそも重視する理由がないからねぇ」

「現世から冥府の事態を調べに来た者がいるなんて、思いもしないか」

「そういう事だな。必要なら冥府での生者の扱いについて探りを入れて来ても良い」


 と、肩を竦めるリネットである。水晶板モニターの向こうでは、リヴェイラが画面を見て頷いていた。そうか……。


「……分かった。こっちの事情も話そう。それで何か気が付く事も有るかも知れない」


 少し思案してから話をしていく。母さんの墓参り中にリヴェイラという名前の冥精が流されてきた事、記憶の断片に関する話や、冥府の調査の為に色々動いていた事をリネットに伝えていく。


 それにしても……地獄の洞穴に、アイオーン、鳴動に連動した鬼火達か。あまり良くない事態が進行しているというのは確かなようだな。

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