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番外958 次なる方針は

 そうして納骨堂の地下区画に戻り、みんなで休憩をしてから今後の方針について相談する、という事になった。

 魔法の鞄から食糧と水の入った樽を取り出し、簡単に調理をしてから空気のクッションを展開する敷布の上に腰かけて、みんなで食事を取ったり魔力補給をしたりといった具合だ。


 魔法で簡単に火を通して調味料で味付けをするだけの、本当に簡単な料理ではあるが。調理時のにおい等は風魔法で巻き込み閉じ込めてから消臭といった具合だ。消臭術式の仕上がり具合についてはコルリスやラヴィーネも大丈夫、と手を振ったり尻尾を振ったりして答えてくれていたので中々の物だと思う。


 調査用魔道具を活用すれば空気の組成も調べて状態を俺達が拠点として使う前の時と比較して確かめる事が出来るので、自分達で気付かないにおいが残る、という事もあるまい。


「おお。これは良い感触ですな」


 と、敷布の上に腰かけたウィンベルグが笑顔になる。


「柔らか過ぎず堅過ぎずで、良い塩梅に仕上がったと思うよ」


 というわけでサンドイッチにベーコンエッグ。温め直した唐揚げといったメニューを運んでいく。ヘルヴォルテもお茶を淹れてくれて、それをみんなで食べていく。


「美味しい……!」


 と、ベーコンエッグを口にしたユイが笑顔になった。


「ベーコンはグレイスの作ってくれた自家製だからね」

『ふふ』


 と、作戦室でにこにこと微笑むグレイスである。

 街中ではないので水晶板モニターも普通に出して並べてあるので、食事休憩は人数が一気に増えて和気藹々とした雰囲気だ。向こうでもお茶を出してのんびりしている様子であった。


「焼き菓子を鞄にも入れて来たから、食後にお茶と一緒にって事で」


 焼き立ての香ばしさはないが、まあ潜入任務中なので仕方がないという事で。

 俺の言葉にみんなも小さく笑って頷く。


「傭兵時代の経験から言うと、任務中に温かい食事が食べられるのはかなり恵まれていると理解している」

「ふっふ。こういう場所ではありますが、中々に楽しいものですな」


 テスディロスとウィンベルグがそう言って笑い、オズグリーヴも口元に小さく笑みを浮かべて頷いていた。


「リヴェイラはどう? 体調は悪くない?」

「こっちに戻ってきてから、調子は良いであります。残念ながら、記憶は戻ってこないようでありますが」


 そう言ってから、リヴェイラは言葉を付け加える。


「仮に記憶が戻らなくても、私としては問題が解決すればそれで良いのであります。寧ろ記憶が戻らない事で、迷惑をかけないかが心配であります」

「……そっか。――うん。問題が起こっているのは別の階層みたいだからね。そっちに行かないと、何かピンと来るものも無いのかも知れない。一緒に着実に調査を進めていこう」


 そう言うとリヴェイラはにっこりと笑って頷き、みんなも静かに目を閉じたりしていた。そんな風に言えるリヴェイラだからこそ力になりたいと、みんなも思うのだろう。失った記憶が良いものだとは限らないけれど、どうなるにせよ、どんな記憶であれリヴェイラ自身の立場や行く先も良いものになるように注力したいところだ。




 食事を終えて、得られた情報を纏めたり、これからの方針について話をしていく。


「一般の亡者達から得られる情報としては、これ以上のものっていうのは中々難しくなっていきそうだね」


 世間話の範疇では済まない、中々に踏み込んだ話をしなくてはならない。そうなると信頼関係の構築ができている相手だとか、利害が一致している相手だとか、そういう相手が必要になってくるからな。


『そうなるとやはり冥精と繋がりのあるレイスに話を聞いたり、ブラックドッグやランパスと話をしていくという事になるのかしらね』


 クラウディアが思案しながら言う。


「そうだね。レイスに関しては立ち位置が公的でも亡者ではあるから、これまでの亡者達の対応からすると察知されたり疑われる可能性は低くなっていると思う。勿論、レイスなら他の探知手段で分かってしまうとか、ブラックドッグやランパスならまた感知能力の違いで亡者ではないって察知してくるって事は有り得るけれど」


 それならそれで集団としての俺達は見せないとか、現世に撤退、変装し直してから再潜入とか色々手立ては考えられる。


 ともあれ、今後の方針としては……敵対関係になるような行動は控えつつ、まずはレイス、続いて冥精に順次接触していく、というのが良いだろう。

 こちらの変装がレイスと冥精達に通じる事が確認できたら、やはり彼らとの世間話の中から情報収集を行う。その過程の中で有用な情報やリヴェイラと俺達の安全に繋がる情報が得られないなら、別の階層への潜入も視野に入れる事になる。


『ん。そうなると接触するレイスも自ずと限られてくる』

「やっぱり、あの子供達と話をしていたレイスが接触する対象になるかな」


 シーラの言葉に頷く。あのレイスは冥精に仕事を頼まれて街中から姿を消していたという事が判明している。ある程度の事情を知っていそうだし、子供から懐かれている事を考えても接触の機会を作りやすい。

 世間話の中から情報を得たり反応から背景を探ったりという程度ならば、俺達と冥精達との関係がどう転ぶにしても、あのレイスの立場が悪くなるという事も避けられるだろう。

 そういった話をするとみんなも頷く。


「接触して察知された場合の事を考えるなら……地下納骨堂でレイスとの接触に対しての安全性が確保できるまで待機するのが良いのかな」

「テオドール公個人なら追手がかかった場合でも、天弓神殿に撤退できるというわけですな」


 オズグリーヴが顎に手をやり納得したというように頷きながら言った。


「そうだね。遁甲札を使ってこっちの使った術式を偽装して撤退。バロールに術行使させれば俺と別行動していても納骨堂のみんなを天弓神殿側に戻す事もできるかな。同行者がいると気付かせなければ、その後も動きやすくなる」


 そうすれば変装の見た目を変えて、察知された理由を分析、再度対策を練って再潜入という流れも作れるだろう。


「なるほど。レイスや冥精との最初の接触時は、単独行動の方が危険性を抑えやすいと」

「そういう事になるね。みんなには心配をかけるかも知れないけれど」


 変装がこうした面々と直で接した時にも有効であるとはっきりすれば団体行動もしやすくなるとは思う。いずれにしてもどこかの段階で実証して確かめる必要があるのだから。


 方針が決まったところで魔力補給と消臭を終えたサウズに、街中の偵察へと行ってもらう。俺達はここで待機しつつ情報を集めるというわけだ。


 レイスに関しては四六時中任務というわけではなく、定期的に持ち場を交代するのも分かっている。冥精に協力する立場ではあるが、オフの時間がきちんと存在しているというのは冥精達の優しさかも知れないな。非番の折に他の亡者達と交流する時間を取ったりしているようで、街中でもそういう光景が見受けられた。


 いずれにしてもあのレイスが担当している時間を見計らった上で、子供達が住んでいる区画に訪問して情報収集をする必要がある。交代要員が警備についているなら、その間、俺達もしっかり休ませてもらうというわけだ。


 地下納骨堂からサウズを派遣し、件の子供達が住んでいる区画に移動させる。


「どうやら、あのレイスは今休憩中のようですな」

「うん。待っていたらその内戻ってくるかも知れない」


 と、ウィンベルグ。区画警備のレイスを発見したが、どうやら前に子供達と話をしていたレイスとは別人のようだ。後はサウズに今いるレイスの動向を見守ってもらっておけば良いだろう。交代要員が来たり、区画からいなくなればすぐに分かるからな。交代を待って接触してみるとしよう。

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