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番外956 昇念石と冥精と

「おかえりなさい……!」

「テオドール公の交渉術は凄かったであります!」


 と、近くの路地まで行ってみんなと合流すると、ユイとリヴェイラが迎えてくれた。幻影に包まれてはいるが、ユイとリヴェイラは表情も分かりやすく、明るい笑顔なのが分かる。ユイは幽霊風だし、リヴェイラは元の姿を少し変えた冥精の姿だからな。

 その様子を水晶板モニターの向こうで見ていたグレイス達もにこにこと微笑ましそうにしていた。


「いやまあ……交渉術って言うほどのものではないけれどね」


 リヴェイラの言葉に小さく笑って返す。世間話の中に混ぜ込んだという程度のものだからな。露天商は結構地に足を付けた真っ当な人物に感じたが、それもあるだろう。俺の年齢から警戒を解いていたし、何より置物を気に入ってそこに商品価値を見出していた事等が良い方向に作用したのだろうと思う。


「ふむ。他の亡者が同様とは限りませんが、あの人物は中々のやり手の商人と見受けられます。知己を得る事が出来たのは良い事ではないでしょうか」

「確かにね」


 ウィンベルグの言葉に頷く。繋ぎを構築しようとする判断までが早かったしな。

 そうしたやり手の商人であれば、他の亡者に顔が利いたりするかも知れない。


 聞き込みの情報的には――レイス達は冥精から任される仕事について守秘義務のようなものを負っているという事が分かった。

 それから、レイス達が街から消えた具体的な時期についても情報を得る事ができている。俺達がリヴェイラと合流した後のようだ。実際無人調査では子供達がレイスの女性が戻ってきたのを喜んでいたし、本当に最近の出来事、という事になるな。


『まとめると……リヴェイラが記憶を失う事になった事故、或いは事件を受けて、何らかの事態が別の階層で推移中。死者の国のレイスが呼ばれたのは――その事態に対応するまでの間を繋ぐ臨時の応援……というところかしらね。あくまで推論ではあるけれど』


 ローズマリーは羽扇の向こうで目を閉じながら言った。風魔法で一定距離以上に広がらないようにしているが、フォレスタニア城作戦室のみんなの音声は冥府側にも聞こえている。確かに、状況から導いた推論ではあるけれど、俺もローズマリーの意見に賛成だ。


「という事は、別の階層にはレイス以外の戦力なり人員なりがある、という事になるかな」

『別の階層の事態に対応するための態勢が整ったから戻した、というわけね』


 ステファニアが思案しながら言った。そうだな。今まで得た一連の情報が全て繋がっているなら、と仮定した場合ではあるが、何かしらの問題が解決していないという事も冥精の会話から分かっているからな。

 問題がまだあるのならレイス達を残していても良いと思うが……別の階層でレイスを活動させる事自体イレギュラーなので避けたいとか、体勢を整えたならレイスがいなくても問題ないとか、色々理由は考えられる。兵站の維持については……まあ亡者達だと冥精達が補給を担当するという事を考えたらレイスが多すぎても問題があるのか。


「ともあれ、昇念石も手に入ったし、これを元手に他の商人の所で買い物ついでに聞き込みをしたりもできるかな」


 先程の露天商の所で布につける飾り……ブローチ等をいくつか買ったりしたが、中サイズの昇念石が3個程残っているので、買い物に関してはまだ問題ない。


「恐らく本職の者達が作っているのだろうな。飾りも装飾が細かくて綺麗な物だ」


 テスディロスが買ってきた細工物を見て感心するように頷いていた。そうだな。ブローチは意外にも色鮮やかだ。


「材料は冥精が調達したりもしてくれるらしいよ。染料は地下から採掘した石を磨り潰して練り込んだり、そのまま形を整えて飾りに使ったりするらしい」


 原材料の買い付けに昇念石を使ったり、という事もあるわけだ。色彩鮮やかな石というのも冥府特有のものであるらしく、ブラックドッグ達が建材の確保のついでに採掘していたりするとか。


 一部の石は照明の代わりにもなるそうで……街角や軒先でぼんやりと輝く光はその石を利用したもの、という話であった。

 亡者の細工物は……まあ、半霊体ではなく普通の物質なのでこれまでの調べものの結果からすると安全、という事になるのかな。


「ブラックドッグ達は墓守だけでなくそんな活動もしているのですな」

「何だか、穴掘りとか土いじりが好きらしいよ。冥精の括りではあるけど、土属性って事になるのかな」


 ウィンベルグの言葉に答えると、水晶板モニターの向こうでコルリスとアンバーが興味深そうにこくこくと頷いていた。土属性繋がりだからブラックドッグの仕事が気になるのかも知れない。

 亡者達も希望すればブラックドッグ達と一緒に作業をしたりもできるらしい。生前の職業が鉱夫だったり石工の亡者はそうする者もいるとの事で……まあ仕事が大変かどうかよりも同職の者達と交流があると安心するという事なのだろう。


 ともあれ、常世の技術力というのは現世のそれが反映されるものだ。亡者達が色々と技術や知識を持ち込んだりもしているようだし、特殊な技術者は冥精に仕事を頼まれたりという事もあるから、土魔法で色々できるなら冥精達に技能を活かした手伝いがないか尋ねてみるのも良いと露天商には勧められた。


「昇念石は通貨代わりにもなりますが……冥精達には別の利用法もあるという話でしたな」


 と、オズグリーヴが尋ねてくる。


「そうだね。確かに独特の魔力を感じる」


 半霊体ではないようなので、そこはまあ、生者である俺達としては持ち歩くにしても安心だ。

 祈りの時に高まる魔力に似ているというか……昇華された想いが込められているのだろう。確かに……冥精達なら魔石のように利用する事も可能というのも納得だ。


「何ていうか、感じの良い魔力だね。光っていて綺麗」


 ユイが微笑んで言うと、リヴェイラもこくんと頷く。


「そうだね。成り立ちも誰かの悩みが解決した想いの結晶だからかな」


 昇念石についてはまあ……扱いは大事にしたいところだな。通貨代わりではあるが成り立ちを考えると扱いは粗末にできないというか。冥精や亡者達にしてみるともっと日常的な物なのかも知れないが。


 さて。昇念石や現状等も確認したところで、状況確認をして動いていこう。


「特に問題がないならまた聞き込みや現地調査を進めていこうか。冥府は生者用の施設がないから、休憩なんかも納骨堂を中心にしなきゃいけなかったりして少し面倒だけど」


 休憩にしても水分摂取や喫食等々、人目を避けなければならないからな。その辺は早めに意識しておく必要があるな。生活魔法や魔道具もあるからその辺も活用していきたいところだ。


『もしリヴェイラに追手をかけているとか、我らの繋がりが発覚しているという状況でないなら、塔に潜入して情報を集めてくるという手も取れると思う』


 と、デュラハンがそんな風に提案してくれる。今はガシャドクロと一緒に小さく目立たない姿になっているが、そうなると元の姿に戻って、という事になる。

 非常事態であるなら、デュラハンに声がかけられ、冥精から事態を説明してくれる、という事も有り得るが……まあその方法を取るとしたら、慎重になりたいところだ。

 リヴェイラの扱いがどうなっているのかとか、その辺に状況にある程度予想がついてからというのが望ましいが。


 そもそもリヴェイラが追われているわけではない、と判明した場合は素直に協力を申し出れば良い話か。生者が冥府に入り込むというのがどういう扱いになるのか、前例がないのでちょっと分からないが……その辺も調べられるなら調べておきたいところだな。

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