表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1725/2811

番外954 死者達の国へ

 地下納骨堂の一角に敷設した魔道具は、誰も通路の奥にいないように見せかける幻影と迷彩フィールド、人払いの術を複合したものだ。視覚、聴覚、嗅覚と魔法的な反応を消す事ができるというもので……まあ、しばらくは地下納骨堂のこの通路を拠点に動いていく事になる。簡易の魔道具等を設置して拠点にできるようにする、といった方向になるか。


 因みに――ノーズとサウズの視覚と聴覚……水晶板モニターの映像と音声は中継の術式を使ってウィズに受信させる事で、水晶板モニターを使わずとも俺の視界内に表示させる事が可能だ。街中で姿を現したままでは水晶板モニターを出してやり取りはできないからな。


 現時点でも通路の長さもそこそこで、魔道具も設置しているから……納骨堂という事に目を瞑ればパーソナルスペースも広く取れて居心地自体は悪くない。拠点にすると付随してにおいも出てしまうが、そこは魔道具による風のフィールドで空気ごと封じているし、浄化や消臭の魔道具も用意したからな。


「さて。どうしたものですかな」


 オズグリーヴが尋ねてくる。


「先ずは――拠点部分を最低限整えてから、迷彩フィールドを纏って外に出る事からだね。下調べで姿を現したり消したりできる地点に目星をつけているから、外に出たらそこを目指していこうか」


 サウズを肩に乗せて魔力補給をしながら答える。迷彩フィールドを展開して俺と同行者を覆う。必然的に固まって移動する事になるな。姿を隠しての移動中は人ごみに注意が必要だ。レイス以外の亡者達は基本的に歩いて活動しているようなので、空を飛んでレイスやランパスに気を遣えば、比較的安全に移動する事ができるだろう。


 というわけで、早速拠点作りを開始する。通路の奥に拠点として必要最低限の物品を配置させてもらう。材料を魔法の鞄から取り出し、組み立てていく。あくまで臨時のものなので強度と作りさえしっかりしていれば簡易で良い。


 というか……生活に必要な施設の幾つかは生物のいない冥府には必要がないからな。街中に良さげな拠点を確保できればそこに移設した方が良いが。綺麗に使うし撤収する時にきちんと片付ける、という事で冥精達には許してもらいたいところである。

 しばらく作業をして拠点を整えたら出来上がりだ。人払いの結界を張っておけば、行き止まりの通路の奥まで来る者はいないだろう。


「良し……。それじゃ今度はいよいよ外だね」


 と言うと、変装している面々は真剣な面持ちで頷いていた。アンデッド風にしているが、ある程度表情が分かる。スケルトンに模しているテスディロスはやや分かりにくいが、感情表現はストレートだし、本人も真面目だからな。何となく雰囲気で察する事もできる。

 というわけで通路を通って外に向かうまでの間に、ブラックドッグに鉢合わせしないように気を付けながら地下納骨堂内部を移動する。


 古い区画を移動して通路の先をバロールに確認してもらいながら進んでいく。階段を上り、扉を開ければそこが納骨堂の地上部分に通じている。


 戸口の隙間からサウズに地下潜航させて納骨堂内部の様子を見に行く。ノーズとの五感共有により、本来は現世と中継するはずの水晶板モニターにもサウズからの映像を映し出す事ができる。色々と便利だ。


 祭壇に祈りに来ている冥精や、拡張工事を行っているブラックドッグは……見当たらないな。今の内に扉を開いて外に出るとしよう。


 そうしてみんなで少し急いで地下区画に繋がる扉から出て……誰もやって来ない内に納骨堂から抜け出す。


「――ここが死者の国……」


 リヴェイラが街中を見回して声を上げた。薄暗い空と荒い土。冬のようなやや肌寒い空気。古めかしい石造りの建物と、そこを行き交う亡者達と冥精達。現世とは異なる環境魔力……。


 嘆きの門が近いために外に出ると亡者達の嗚咽も聞こえてくる。やや殺風景な環境と相まって、雰囲気は良くはないだろう。亡者達が嘆きの門付近から距離を置きたがる、というのも分かる気がする。


 緑がない。生えている植物と言えば枯れ木のようなものばかりでそれも半霊体だ。常時冬のような冷涼な気候なのは、冬が一時的な死の象徴でもあるからだ。だから大地は不毛だし、自然物の色彩も少ない。

 とはいえ、亡者達はそんな雰囲気に飲まれてばかりというわけではない。亡者達同士、或いは冥精達との交流で結構賑わいを見せていたりもするのだ。


 ともあれ、一先ずはこのまま、予定していた場所に移動するとしよう。


「高度はこのぐらいで良いかな。一定の速度で移動するから離れ過ぎないようについてきて。止まる場合は、片手でこう――合図を出すから」

「承知した」


 テスディロスが言って、同行者の面々もこくんと頷く。

 というわけで少し上空を飛び、周囲を警戒しながら目的の場所を目指す。バロールとウィズにも俺が注視している方向とは別の方向を警戒してもらって、空を移動しているランパスやレイスの動線が俺達一団とぶつかり合わないようにする。


 到着した場所はやや入り組んだ路地だ。窓がなく、上空から以外は目撃されにくい。俺達としては警備で巡回しているレイスや街中を割と自由に動いているランパスに警戒しつつ迷彩フィールドを解けばいい、というわけだ。


 誰も来ない事、路地を誰も覗いていない事等を確認して迷彩フィールドの一部を解除する。風魔法のフィールドで生者の臭いが外に漏れるのを防ぎつつ、生命反応、魔力反応から正体を探られないように隠蔽術の応用術式も維持している。


「何か非常事態になった場合は、それぞれ遁甲札を使うように。別々に逃げる必要はないけれど、はぐれてしまった場合は納骨堂地下を目指す。監視の目があって移動がままならない時は通信機で連絡を取る事」


 と、みんなに注意事項と行動指針を伝えておく。迷彩フィールドに組み込んでいる隠蔽術は相手の意識を逸らしたりする意味合いが強く、既に意識されてしまっている場合は効果が薄いが、その点遁甲札は元から相手からの逃走等を主眼に置いているため、意識されている相手の感覚や探知を誤魔化す事ができるというわけだ。


「うんっ、分かった」


 真剣な表情で素直に頷くユイである。

 路地から出るタイミングを窺う為にサウズをまず通りに出してみる。

 ――そこに死者の国の日常が広がっていた。細工物を売ったりしている者もいて。昇念石での売り買いもしているようだ。俺達は冥府では無一文に近い。亡者達のように自分で石を生み出すのも無理だ。


 冥府の物質を素材にアクセサリー等を作って売れば昇念石を確保する事もできるだろう。というわけで路地から少々土を集めてそれを加工し、細工物を作ってみる。魔力の残滓で気付かれる可能性もあるから、環境魔力を体外操作して土をこねて、成形してから石化させる。


 一先ず造り上げたのは精巧な石の造花と、小鳥の置物だ。これを元手に露天商の亡者に売り込んでみる、というわけだ。


 まあ、俺達は必要な物を現世から持ち込めばいいので現地で売買する必要は現時点では薄いのだが……目的は昇念石ではなく、聞き込みのとっかかりを作る事だな。値段がつかずに売れずとも、世間話に紛れさせて会話ができればそれでいいのである。露天商であるならば理性や自我がきちんと残っていて安全度が高い、という目算もある。


「――造花や小鳥の置物にしたのは……まあ、冥府があまりにも殺風景だからだね。こうした小物にも需要があるかなって」


 そういった内容を説明すると、ユイとリヴェイラが感動したと言うように、こくこくと大きく頷いていた。ウィズとリンクさせたノーズの視界でも、グレイス達はそんなユイとリヴェイラの反応に微笑ましそうにしている。


「流石はテオドール公ですな」


 と、オズグリーヴも感心したような口調で顎に手をやっていた。では――露天商に少しばかり声をかけてみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ