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番外950 塔の冥精達

 レイスに関しては体格や声、纏っている布の色や装飾の違い、持っている武器等で個体の識別がつくようだ。冥精としてもその辺の個体識別ができた方が良いという事だろうか。レイスの隠された顔等も、知っている冥精はいそうな気がするが。


 ともあれ、子供達の住む区画付近を警備しているレイスに関してはあの近辺の担当のようだし、何かの事情で冥精から別の場所に呼ばれている、というのが分かっている。

 布の装飾等も覚えたし、今なら当人をレイス達の中から見分けられる。他のレイス達の見分けや事情が分からないという事もあるから、可能であるなら聞き込みをしたい対象ではあるかな。


「まあ……警備役でもあるレイスと直接接触するのは、それなりに危険性があるから、そうしなくても良いなら避けるつもりではいるんだけどね」


 サウズやその他の聞き込みによってその必要がなくなればレイスへの接触は避けるべきだろう。上手く話題を振るにしても冥府の亡者達の日常を把握し、不自然ではないようにする必要があるし、亡者達に接触するのと違って中々難しいというのも確かだ。


「あのレイスさんに関しては、子供達から親しみを持たれているようでしたし、そういう意味では信用ができそうな気がしますね」


 グレイスが先程の映像を思い出すように思案しながら言う。


「まあね。バレた場合も場合によっては協力してくれる可能性はある。そうなったとしても、冥精達が亡者に干渉できることを考えると、あまり当てにし過ぎるのも良くないけど」


 レイス個々人の人格はともかく、亡者の立場を考えると冥精側との関係が悪くなるような真似をさせるのは酷というものだ。その辺はこちらとしても気を遣うべきだろう。


 とはいえ、リヴェイラの事情が分からない以上、冥精達と俺達の関係もどう転ぶかも分からない。どちらに転んでも大丈夫なように、というのが基本だな。


 引き続き都のマップの立体図を構築しつつ中央の塔を目指して移動していく。そうして中央の塔に到着する。正面の大きな門は分厚く頑丈そうな印象だ。ランパスが出入りしている窓は高所にあり、都の中心部の施設という事で防衛の面でも中々しっかりしている印象がある。


「魔力の動きを見る限りでは結界の常時展開はしていないみたいだけど……建材と同化しての侵入は待った方が良いかな」

「同化が引き金になって結界が発動しないとも限らないものね。同化による内部侵入は難しいかしら」


 ローズマリーが羽扇を手で弄びながら言う。地面と同化できる外ならともかく、屋内では建材と同化できないと目立ちやすい。ランパス達が飛べるから天井付近に潜むというのもやや不安がある。


「そうだね。ここは間接制御で風魔法による情報収集かな。必要な魔力も少ない術式だからね」


 風魔法で音を集め、窓のある部屋から情報を得るというわけだな。防音の魔法を使われていない限りは有効だから、本当に内密の話をされる時に警戒されていると役に立たないが……普段からどこまで警戒しているのか、という話になるな。


 ノーズを通してサウズの魔力操作を行い、塔内部の会話を拾っていく。術式を同じ高さの窓に合わせたまま、塔の外を回りながら会話をしている部屋を探して移動していくわけだ。

 同時に――レイス達の巡回の有無にも気を付けておきたい。警戒されていない内はこうやって情報収集を進めていけば良いだろう。



『ただいま』

『おかえり。プルネリウス様の一件はどうなったの?』


 ランパスやブラックドッグといった面々の世間話や業務報告を聞きながら情報収集をしている内に……サウズが捉えたのはそんな会話だった。

 冥精同士名前を呼んだり、誰かの固有名詞が出たりという事は今までの話の中でもあった。ただ、そのプルネリウスという名前を出した時は声のトーンが違ったのだ。


『……報告と連絡ついでに聞いてみたけど、準備は進んでるけど、状況の進展はないみたい。あの方もお目覚めにならないし……』

『そうなのか……。我らが心配してもどうにもならないのは分かってはいるが……』

『私達は……私達の仕事をちゃんとしないとね』

『うん。こっちが安定してれば、向こうの仕事もしやすくなって、きっとみんなの助けにもなるはずだもの』

『そうだよね……!』


 と、冥精達はそんな会話を交わした後で日常業務の話題に戻っていく。


「プルネリウスか。名前に聞き覚えは?」

『別の階層にそういう名の者がいると聞いた事がある。生憎、他の階層の事には詳しくないから……何をしているかまでは分からない。その辺に関しては……他の大多数の冥精達も同じだと思うが……塔のランパス達は何か聞かされているようだな』


 尋ねると、デュラハンがそう答える。なるほどな。その辺は精霊故に、普段は自分の領域外の事にはあまり興味が向いていかないという事なのだろう。それでも他の階層の話題が出るという事は、何かしらの事態が起こっている事で、呼び出しを受けたか報告に行った折に死者の国の冥精達も事態を知った、という事になるのかも知れない。

 冥精はそもそもの成り立ちや在り様から冥府の維持、管理にはほとんどの者が協力的な印象があるから、それでも仕事は回るだろうし。


 それにしても、プルネリウスね。冥精達の口ぶりからすると、ランパスやブラックドッグ達の上に来るような高位存在という事になるだろうか?


 他にも色々と気になる内容はあるが――リヴェイラは少し考え込んでいる様子で、額のあたりに手をやっていたが……やがておずおずと口を開く。


「プルネリウスという名前には……何だか、聞き覚えがある……ような気がするであります。名前を聞かされた時にどきっとした、と言えば良いのでありましょうか?」


 リヴェイラは更に思い出そうとしているのか、目を閉じてこめかみのあたりに手をやって眉根を寄せていたが――やがてかぶりを振って残念そうに言う。


「やはり……思い出せないようであります」


 プルネリウスという名前自体には何か反応があっても……良い印象なのか、悪い印象なのか、自分でもよく分からないという事らしいが。


「でも、リヴェイラちゃんの何かに反応したっていうのは進展だと思う」

「ふふ、ユイ殿は優しいでありますな」


 力強く頷くユイに、リヴェイラは笑顔を見せる。


「確かに……。今の会話だけでも、気になる情報がいくつかあったからね」

「目覚めないあの方……というのは、会話の流れからするとプルネリウスさんという方とは別人、という印象に聞こえたわ」


 イルムヒルトが言うとみんなも同意見なのか頷いた。


「プルネリウス様の一件、という言葉からすると指揮を執っているのがその人物、という事も有り得るわね」

「確かに、そういう言い回しになるっていうのはありそうだ」


 ステファニアの言葉を受けて思案を巡らせながら答える。

 それに……何かしらの事態が進行しているのは別の階層という事になるだろう。死者の国で何かが起こっているならああしたやり取りにはならないし、塔の冥精達ももっと状況に詳しいだろうからな。

 準備は進んでいるけれど進展はないというのは、その事態に対するものか。応援として一時的にレイスに増援を頼んだという事なら、街中での会話とも繋がってくるな。


 それらの話がリヴェイラと繋がるという確証はまだないが、色々と気になる情報が得られたのは確かだ。冥府の亡者達の出で立ちや建築様式、暮らしぶりについても情報が集まっているし、幻影魔道具をそれに合わせて調整すれば、現地で直接の調査活動する事もできるだろう。

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