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番外945 都市内部へ向かって

 冥府に送る虫については……幾つかの条件を満たしておく必要がある。まず、冥府の気候を考えると寒さに強いものが望ましい。その次に、食性だな。


 そこで冬でも活動しているユキカミキリという寒さに強い虫を捕獲し、樹液や木の皮といった食用となる物品と一緒にケージに入れるといった準備をしている。

 冥府に送る植物の他にカミキリムシに専用のケージを用意するのは――まあ、送り込む植物の葉等をそのまま餌にするだけでは検証として不十分だからだ。


 持ち込んだ生体をそのまま餌として食べた場合と、生体でない餌を食べた場合。両方を検証しなければならないのでそうしたチョイスになったわけだ。

 植物を収めたケージには冬に活動する蛾の幼虫――尺取虫を一緒に入れておいた。透明な樹脂のケージに植物と尺取虫、カミキリと餌をそれぞれ入れて、四大精霊王の加護を与えてもらうというわけだ。


「これでしばらくは大丈夫だと思います」


 マールは2つのケージに手を翳していたがやがて振り返り、微笑んで言う。

 準備もできたので、迷宮核でスキャンを済ませてから、生体を収めたケージ2つを冥府へと送った。


 サウズにはそのまま冥府の様子を探りつつケージの様子を中継してもらう。虫達が餌を食べる場面が確認できたら後は周辺の状況に注視してもらって構わない。

 モニターはティアーズ達が常時監視しているし、記録媒体に録画しているのでちょっとした変化でも見逃す事はないだろう。


 後は……朝になったらケージを回収して迷宮核で各種解析するというわけだ。


「後は頼んでいいかな?」


 天弓神殿からケージを転送し、フォレスタニア城に戻ってきたところでそう伝えるとティアーズ達は心得ている、というように俺達にマニピュレーターを振ってくる。状況に変化が起きた場合に警報を鳴らす事もできるので監視役として諸々安心である。


 そうして初日の無人調査を一旦切り上げたのであった。リヴェイラに関してはユイが一緒についているとの事で。


「こういう時だからこそ、いつも通りにして備えるのが重要であります」

「うんっ、一緒に楽器を練習しよう」


 と、そう言いながらフォレスタニア城のユイの部屋に向かう二人である。そんな二人をみんなで微笑ましく見送り、俺達も城の上層――領主の居住区画へと戻った。


「テオドールも区画をあちこち飛んで……今回は現地に行く前から大変ね」

「テオドール様は、お疲れではないですか?」


 クラウディアとエレナがそんな風に言ってくる。あー。天弓神殿と迷宮核、フォレスタニア城と区画を行ったり来たりしているからな。植物園に預けておいた植物や虫を受け取りに行ったりと、迷宮区画以外にも足を運んでいるし。


「んー。俺は大丈夫だよ。みんなは疲れてない?」

「ふふ、大丈夫ですよ」

「ん。全然平気。意見を出したりぐらいだし」


 グレイスやシーラがそう言うとみんなも顔を見合わせて頷き合う。

 うん。体調が良いのならそれに越したことはない。今日の仕事は一段落というか……待たないと進まないのだ。死者の国を見つけて気が急く所は確かにあるが、リヴェイラも言っていた通り、のんびりさせてもらって冥府の調査に備えるとしよう。




 そうしてその日はみんなと循環錬気をしたりして過ごさせてもらった。それから、明けて一日。

 身支度を整えて朝食をとったらフォレスタニア城の一角――モニター等を置いている作戦室へと向かう。


 ヘルヴォルテやテスディロス達も既に作戦室に顔を見せていて。


「おはよう。実験はどうなっているかな?」


 そう尋ねると、ティアーズ達はマニピュレーターを使って食事を取るような動作をしてからサムズアップの形を示してくる。


「餌や葉もきちんと食べた、という事ね」


 ローズマリーの言葉にティアーズ達もこくんと身体を傾けるようにして頷く。

 夜通しモニターを監視していて警報が無かったという事は、サウズの周辺や実験にも異常が見られなかった、という事だ。

 水晶板モニターから送られてくる情報も平常通り。ここまでは安心だな。目に見えない変化が起きていないかも、きちんと調べる必要があるが。


「それじゃ早速、天弓神殿と迷宮核を回ってくる」

「いってらっしゃい。みんなでテオドール君が戻ってくるのを待っているわね」


 イルムヒルトが笑顔で言って、マルレーンもにこにこと見送ってくれる。うむ。

 というわけで予定通りに回収と解析を行う為にまずは天弓神殿へと向かう。


 魔道具を経由しての召喚にももう慣れたもので、ケージをこちらに戻してやる。

 中にいる植物も虫達も……見た目は普通だ。ライフディテクションで見てみても、植物や虫達の生命反応に異常はないようだ。


 何せ、回収した半霊体の花は、ライフディテクションによる生命反応感知にこれっぽっちも反応しなかったからな……。

 そういう事も起こり得るかと予想はしていたが、見た目も質感も普通の花だっただけに、実際目にしてみると中々衝撃的だった。


 ライフディテクションが反応しない、というのはこれだけに限った事ではなく冥府では結構重要な事だ。

 サンプルの花だけでなく冥府の住人――亡者達も残らずそうだという事になる。

 そうなると索敵については他の方法を考える必要が出てくるだろう。今回はシーラもイルムヒルトも同行できないし、コルリス達も俺の留守を預かる為にフォレスタニア城に残ることになっているので尚更だ。


 逆もまた然りだ。もし冥府にライフディテクションに類似する術や備えがある可能性を考えるならば、術式の探知を誤魔化す迷彩フィールドを切らさないだとか、何かしらの対応策を講じておく必要がある。


 ともあれ……それも安全な有人調査ができるようになってからの話だな。

 まずは解析だ。その結果に異常がなければ、冥府に食材を持ち込んで安全に活動できるという事になる。


 というわけで場所を移し、植物や虫達を迷宮核の解析にかけて、前日のデータと比較したり、異常がないかを確認していく。

 結果は――白だ。サウズと交代したノーズもそうだし、植物や虫にも特に問題はなく、ケージ内部の餌や土等にも通常の時間経過で起こる変化以外は見られない。


 要するに……冥府には生身で立ち入れるという事だ。冥府では食物になりそうな物でも半霊体しかないから生者は摂取できないとしても。

 こうなってくると精霊に近しい存在でなくとも立ち入れるとは思うが……。まあ方針や同行者について敢えて変える必要もないだろう。


 そうして迷宮核での作業も終わったので、フォレスタニア城に戻った。ケージの植物や虫は――経過観察も兼ねて、育成と飼育を続けても良いかも知れないな。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 迷宮の補助による転移で戻ってくるとみんなが迎えてくれる。そんなわけで腰を落ち着けて、冥府側にいるサウズに指示を出していく。

 迷彩フィールドを展開したまま、死者の国――遠景に見える外壁を目指して進んでもらう。


 今日の目標としてはサウズの都市内部への潜入だ。情報収集を行いつつ都市の住人の暮らしぶりを見て、実際に訪れて紛れ込めるように手を打っておく必要がある。都市部のセキュリティがどうなっているのかは分からないが、ノーズとの五感共有を使って直接操作をしていくのが良いだろう。


 そんなわけでノーズには俺の膝の上に乗ってもらう。頭を撫でるように軽く手を置いて――冥府側にいるサウズの動きを制御していく。


「操作感も良い感じだね。これなら色んな状況に対応できそうだ」

「ふふ。操作の仕方が見ていて楽しいですね」


 と、俺とノーズを見てグレイスは微笑んだりして。うん。まあ、改めてそう言われるとやや気恥ずかしくもあるが、このまま進めていこう。

 潤沢に魔力を使えるというわけではないが、魔力を操作して指示を出しているので、間接的な魔法行使も可能だ。セキュリティを突破するのには丁度いい。

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