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番外942 冥府から回収された物は

「ん……? これは――」


 花畑の植物もサンプルとして採取して調査用魔道具の中に入れておいたのだが……気が付くと端から光る塵のように崩れて消えて、段々と無くなっていくところだった。魔力の動きも……微弱ではあるがデュラハンが冥府に向かう時と似たような反応だ。封印術を施すと、蒸発するような反応も抑える事が出来たが。


 ……ヨモツヘグイの原理に近いのかも知れないな。冥府の物を口にすると現世に帰って来れなくなる、というような。或いはこの植物自体、霊体という線もあるか。

 その辺もデュラハンに聞いてみたが、原理的な物は分からないとの事である。


『ただ、亡者達が仮初の器を持つ事があるが、それと同じかも知れない』


 と、通信機に文字を打って教えてくれる。

 確かにスピリットではなくゾンビやスケルトンのような姿の者達がいるが……本来の肉体ではなく、無意識的に精霊界の影響で構築してしまうものであるらしい。

 霊体になっても生への執着だとか生前の感覚だとか、そういったものはかくも強い、というわけだ。


 そんな亡者達が向かっている方向は全員同じだ。何かに引き寄せられるような動きだが、これは亡者――霊体に作用する力が働いている、とデュラハンは教えてくれた。

 これは一時的なもので、冥府の然るべき場所に送られたら意識も戻るという話だ。冥府で発生した身体故に、霊体に対する強制力からは逃れられないようだが。


「ちなみに、生身の場合は?」


 俺の質問に、デュラハンは手に持った首を軽く横に振る。自分達の冥精としての力はあくまでも死後の霊体にしか作用しない、との事だ。

 まあ確かに。生きている相手の魂を強制的に引き摺り出すような事ができるなら、今までの戦いの中でもやっているだろうしな。


 アンデッド相手でもその者を不死足らしめている術式や呪い、怨念等が強固なものであれば、まずそれを打ち砕かなければならないらしく、現世で作られた器や依代がある者には強制力も届かない、とデュラハンは教えてくれた。

 まあ、デュラハンは決闘して下した相手の魂には影響力を届かせる性質を持っているとの事だが。


『ん。幽霊の姿をしている人達については?』


 水晶板モニターの向こうからシーラが質問する。

 幽霊は身体の周りに人魂を纏った人型のオーラという姿だ。揺らめく中に時折生前の容姿も見て取れるな。それにもデュラハンは丁寧に通信機に文字を打って答えてくれた。


「しっかりと埋葬された者、自分の状況を受け入れている者の場合は、ああいう姿をしている傾向がある、らしい」


 通信機に入力された文字を読み上げると俺達の周りとモニターの向こうでみんなが頷く。

 強固な自我を持つ者の場合、花畑でも自分の置かれた状況に自覚的で、こうした干渉も「呼ばれていると感じる」という者もいるのだとか。まあ……自由意思で逆らう事も可能だろうな。花畑にいた所で埒が明かないというか、段々と魂が漂白されてしまうというのであれば、結局前に進む事になるのだろうけれど。


 そうやってしばらくノーズからの映像情報を検分しつつ、天弓神殿の魔力反応を探っていたが……特に怪しげな魔力の動きはないようだ。


「魔力反応も見ていたけど、どうやら今の所は大丈夫そうかな。迷宮核でも異常な反応がないかは警戒しているし、天弓神殿にティアーズ達を残して、回収した魔石を解析してくるよ」


 無人調査はもう少し続ける予定である。聞き取りをしようにも亡者達は強制力を受けているし、冥府に来たばかりでは事情も知らないだろうからな。


 ともあれ花畑の様子を見ても冥府を管理している側の姿は見て取れない。今の所は……常時詰めておかずとも問題は無さそうだ。

 天弓神殿自体にも警備兵と呼べる者達がいるし、その為に色々と整備したのだ。何かあれば迷宮核が通知してくれるし、転移で即座に駆けつけられるからな。




 そんなわけで早速迷宮核に足を運び、回収してきた魔石やサンプルを解析してもらう。

 空気の組成等には問題がない。冥府の環境魔力も特有のものが検出できた。ここから解析してシミュレーションを進めていきたいところだ。


 問題は――植物のサンプルだな。こちらはかなり不安定という事が分かった。

 名付けるなら半霊体というべき代物だ。封印術で状態を固定しているが、これでもあまり長くは持たないだろう。冥府の亡者達の器も、同じような半霊体で形成されている可能性が高い。


 というか……この辺の解析結果やそこから思いつく対策術式は、悪用すると冥府の秩序を乱す可能性が出てくる。完全に秘匿対象だな。

 魔道具化して現物が残るようにはせず、俺の知識の上だけでの術式構築に留めるのが良さそうだ。


 そうやって解析を続けていたが……なかなか興味深い事が分かった。


『迷宮核の仮想空間上での話だけど、半霊体を冥府の環境魔力下に置くと状態が安定するみたいだ』


 通信機で分かった事をみんなに伝えていく。記憶を無くしているリヴェイラは勿論の事、デュラハンやガシャドクロも直感派で理論的な所には詳しくはなかったので結構感心しているようだ。


 それと――デュラハンの霊体への干渉能力の際の魔力を環境魔力に乗せて見た所、指向性を持たせた上で、かなり遠方まで広げられるという事も判明する。


「花畑にいた亡者達も、同じような方法で干渉されているとすれば、ああいう動きをしていた事にも納得できるわね」


 ローズマリーが俺の話を聞いて言う。そうだな。今後のノーズの探索も亡者達の行く方角に向かって進めていく予定だ。


 それと――肝心の冥府の環境による生物や魔法生物に対する影響だが……今の所はどうやら大丈夫そうだ。様々な生物で試してみてもう少し長期的な影響もシミュレートしておこう。冥府も色んな場所がありそうだし、管理をしている存在とはまだ接触できていないので、場所や状況、期間等によってその辺の所が変わる可能性も否定できないし、この辺はもう少し追加調査をするという事で。




 そうして迷宮核での解析を進めてフォレスタニア城へと戻る。城の一角に水晶板モニターを並べてあり、ノーズからの映像を中継したり、天弓神殿の状況を確認できるようにしてある。モニターの様子は例によって改造ティアーズ達が常時監視してくれるので諸々安心だろう。


「おかえりなさい、テオ」

「ん。おかえり」

「無事に調査が進められそうで良かったわ」


 と、グレイスとシーラ、クラウディアが笑顔で言う。みんなも俺達が戻ってくるのを笑顔で迎えてくれた。


「うん。俺としても調査を前に進められそうで安心した」

「ふふ、ゆっくり休んで下さいね」


 少し笑って安堵の息をつくと、アシュレイが俺にお茶を淹れてくれる。


「すぐ冥府に赴かなければならないって言うわけじゃなさそうだし、私達としても少し緊張していたから嬉しいわ」


 ステファニアがそう言って微笑む。

 心配していたような状況にはならず、みんなも喜んでいるのが見て取れる。ともあれ、ここから更にノーズを動かして調査を進めていきたいところだ。

 ノーズの残存魔力についても五感共有で分かるので、サウズと交代して魔力補給するべき頃合いも分かる。


 天弓神殿に詰めているサウズはと言えば――天弓神殿の様子を中継している水晶板モニターに向かって手を振り、いつでも調査の続きができると教えてくれているようだ。


 当初危惧していた、向こうから何かがやってくるというような直接的な危険は低そうだし、フォレスタニア城から更に遠隔操作して探索していっても良いだろう。

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