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番外940 冥府への備え

 リヴェイラ達の待っているフォレスタニア城へと戻る前に炎熱城砦と鏡像回廊の接続部分を確認しにいく。ここは――大勢の兵を配置できる広間だ。

 大人数での攻略ができないように隘路から要塞の広間に出る。

 正面に高く分厚い壁。壁に銃眼というか狭間というか、射手用の覗き窓を付けて弓兵や魔術師を配置できるようにしてある。スロープ状の両翼にもやはり射手を置き、更に様々な状況に対応するための歩兵、及び飛行型の戦力を配置できるようになっている。


 3方向から大火力を集中させられる紛う事なきキルゾーンであるが、広間に繋がる直前の通路に兵力を溜めたりして待機できないようにしておいた。

 区画移動の門を抜けた長い通路は――炎熱城砦の広間を横切るように続いている。


 通路城砦側の壁が一斉に下方にスライドしていきなり消失させる事で、通路にいる連中を、いきなり大兵力が待ち受けるキルゾーンに晒す事ができるようになっている。最後にして最大の罠だな。罠が作動すると最初に区画移動の門も一時的に封鎖されるので撤退や情報伝達も許さない。当然、心構えや準備もできない。


「とまあ、ああして壁がいきなり開いて、通路の中身が丸見えになる。そこに向かって一斉に飛び道具が撃たれるわけだ」


 炎熱城砦の銃眼側から罠の動作確認を行っておく。横に伸びた通路が開いてリビングアーマー達が隊長鎧の号令に合わせ、一斉に炎や光の属性を付与された矢を放つ素振りを見せていた。あくまで模擬の為の動作確認ではあるが、息も合っていて中々心強いな。銃眼に配置された各々の射手が通路のどの辺を狙うか等、細かく担当も決めてあるので万遍なく攻撃を加える事ができる。


「これは凶悪」

「やられる方はたまらないわね」


 とはシーラの評だ。ローズマリーも羽扇で口元を隠していたが、にやりとした笑みを浮かべているようだ。

 仮にこれを抜けられるような強敵が出現したとしてもそのまま炎熱城砦内部に突入する事になるだけなので、迎撃のための時間は大分稼げるだろうと見ている。


 炎熱城砦から鏡像回廊側に向かおうとした場合でも同じような構造を用意してある。但しこちらは通路からキルゾーンが見えるようになっているので、鏡像回廊に向かう事自体を抑止する意味合いがある。天弓神殿の魔道具を活用するには専用の術式が必要だし、侵入する気を削げればそれで良いのだ。


 そうして俺達は確認作業を終えて、予定通りにリヴェイラ達が待っているフォレスタニア城へと移動した。冥府に移動する為の祭壇等々、必要な魔道具は既に天弓神殿に移してあるので、後は冥府調査に移るだけだ。


「おかえりなさいであります」


 俺達の姿を認めると、リヴェイラが言ってくる。


「ただいま。接続区画や炎熱城砦と繋がる部分も確認してきたよ」

「かなりすごい仕掛けだと思います」


 俺が言うとエレナが苦笑しながら言った。


「ほほう。それ程の出来か」


 と、パルテニアラも興味を示したのでマルレーンからランタンを借りて工房で待っていた面々に見せて説明をすると「これはえげつない」とアルバートやオフィーリアも苦笑していた。それから、天弓神殿と鏡像回廊という新しい名称もみんなに伝えた。


「これで冥府の調査に移れるかな。リヴェイラには待たせちゃって心配をかけたと思うけど……」


 冥府の状況は未だ分からないが、警備と迎撃に関しては現時点でやれるだけの事をやった。今後の管理体制にも関わる事なのでやり過ぎという事はないはずだ。後は冥府の状況に合わせて追加の対策が必要になるようだったら迎撃設備もバージョンアップしていけば良い。


「いえ。ここまでして下さった事に感謝しているであります。それにテオドール公の対応は、記憶がなくとも迅速と理解しているであります!」


 リヴェイラは力強くそんな風に言ってくれた。必要な魔道具が揃ってすぐさま調査と行かずに少し遠回りになってしまったが、理解を示してくれるのはありがたい。


「それじゃあ、今日はこのまま冥府の調査かな?」

「そうだね。リヴェイラとノーズ、サウズを連れて天弓神殿に向かう。可能な範囲での探索と、魔道具を戻しての分析が必要になるから、いきなり冥府に突入するっていう事はないとは思うけど」


 冥府の状況が一目瞭然で緊急性を有するとなれば、いきなりの突入も絶対にない、とまでは言い切れない。というか、そこまでいきなり調査が進む方が楽観的な考えかも知れないな。


 天弓神殿に向かうのは俺と冥府に同行する面々だけだ。冥府からいきなり何かが現れるというのも……やはり可能性は少ないにしても想定はしておくべきだからな。グレイス達には城でこのまま待機してもらう。

 代わりに、水晶板モニターで中継し、こちらの状況は逐一伝えられるように手筈を整えてある。


 他に伝えておくべき事、やっておくべき事を先に確認しておこう。有事になってからでは確認の時間も作れない可能性があるし。


「即突入の可能性は低いし、そうなった場合でも一旦戻ってくるけど、グレイスの封印についてはよろしくね」

「ええ。任せて頂戴」


 俺の言葉にクラウディアがしっかり俺の目を見て頷く。俺が不在の折にグレイスの身に危険が迫った場合、封印状態だと自分の力で身が守れない。かといって解放したままだと日常生活に差し障りがある。そういった理由から封印の指輪の権限は、俺が不在の間クラウディアに任せる事になっている。


「私も無理せずに大人しくしていますね」


 護衛というのは守られる側の意識も重要だからな。その辺、グレイスもよく分かっているのでそう言って、俺に穏やかな笑みを向けてくれる。


「ん……。早めに解決できるように気合を入れるよ」

「ふふ」


 俺の返答にグレイスは嬉しそうに肩を震わせる。


「それから、執務に関してだけど」

「ええ。無理せず仕事を振り分けて、名代として進めておくわ。何か大きな判断が必要な事柄なら通信機で伝えるという事で」


 ステファニアが安心して欲しいというように笑みを見せる。ゲオルグや文官達は元々ステファニアの配下でもあったから、この辺は大丈夫だろう。


「助かるよ。でも、ステフも無理しないようにね」

「ええ。その辺も含めて任せておいて」


 と、自信ありげに応じるステファニアである。


「いってらっしゃい」

「今日の無人調査は大丈夫だと思うけれど……気を付けてね」

「ああ。行ってくる」


 みんなと言葉を交わし、マルレーンも俺を真っ直ぐに見て頷く。

 動物組や魔法生物組も手を振ったり声を上げたりと、俺を見送ってくれる。

 うん。では、魔道具を冥府に送り込むために動いていくとしよう。


「では、送りますね」

「うん。よろしく」


 管理者であるティエーラからサポートしてもらい、迷宮側の力を借りて転移を行う。同行する予定の面々と共に光に包まれ――それが収まると俺達は天弓神殿へと移動していた。


 同行する面々が揃っているか。必要な魔道具が揃っているかを確認してから神殿内部に向かって移動する。


「無人調査……。いよいよ、でありますね」


 リヴェイラが胸のあたりに手をやって、静かに目を閉じる。ユイはリヴェイラを守ろうとするように、そっと後ろに寄り添うような位置取りをしている。薙刀で武装して気合も十分といった様子である。


「冥府か。どんな場所なのやら」

「何が出るやらといったところですな。生身でも影響がないと良いのですが」


 テスディロスとオズグリーヴが言う。そうだな。特別な対策が無くても調査活動ができると良いのだが。何はともあれ、ノーズと同化させた石の魔道具を向こうに送り込む事からだな。

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