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番外937 二人の王の友誼に

 宮中の一角にその霊廟はあった。こうした霊廟は結構派手な内装をする事もあるが、柱や壁、天井の装飾は細かいまでもあまり華美にはならず、どちらかというと堅実で温かみを感じさせる造りだ。


 祭壇と香炉の向こうが一段高くなっており、そこに椅子に座る聖王カイエンと草原の王ユウの像が並んで置かれている。

 穏やかで柔和そうな表情の聖王カイエンと、豪放そうな顔つきながらも楽しそうに笑っているユウ。


 草原の王ユウについては元々軍神として祀られたりする事もあったが、鎧を纏った恐ろしげな姿ではなく、二人とも各々の民族の礼装に近い姿だ。ゆったりとした衣服を纏って手には揃いの酒杯があって……。場もしっかり整えられているので清浄な魔力に満ちている。温かみのある内装もあって和やかな雰囲気があった。


「良い雰囲気ですね」

「そう言ってもらえると嬉しいな」


 と、シュンカイ帝が笑う。


「こうして一つの霊廟で二柱を同時に祀る形だが……二人の王の友情を祝い、本来の姿を広めようという目的を持って造られたものでね」


 なるほどな。こういう形式の霊廟がメジャーかどうかは分からないが、目的ははっきりしているわけだ。

 建てられた場所としてもお参りする事で御利益を云々というよりは実際の関係を広める事で二人の王に喜んで貰おう、という意図が大きいように思う。二人の王から時代を経た今だから広められる話とも言えるし。


 それに霊廟内部に置かれた衝立には青銅の板に文言を刻んだものも掲揚されていて、そこには聖王と草原の王の関係が文字で刻まれていた。幼少期に出会って共に修業をした事等々、今まで世間に知られていなかった内容がしっかりと記してあるな。


「それじゃ、お参りをしておこうか」

「ふふ、そうですね」

「はい」

「ん」


 俺の言葉にみんなが各々頷く。話をしたい事は色々あるが、まずは霊廟という事でお参りをしてからだな。

 香炉に線香をあげて身を清めてからシュンカイ帝、セイラン王妃、リン王女、ゲンライやコウギョクに続いて、みんなで黙祷を捧げる。幻影劇によって二人の事情を知っているからか、みんなも真剣な表情で祈りを捧げているようだった。


 カイエンとユウの絆と友情か。幻影劇の為に調べていたから、二人の心情には俺も色々と思うところがある。

 敢えて最後の攻撃を外したユウ。目の前で親友を喪ったカイエン。悔恨の気持ちを抱えていた晩年の親友に姿を見せた事……。霊廟の像のように、二人で昔のように戻れたのならそれ以上はあるまい。

 そうして祈りを捧げた後、場の魔力が高まっているのが分かった。元からの穏やかなままな魔力が増して、更に清浄な雰囲気になっている。


「像の元にした姿は以前に貰った模型だね」

「それは光栄な事です」


 幻影劇のカイエンとユウに関しては、文献等を元にモデルが出来上がったところで模型を作ってホウ国側にも渡している。


 確認と許可の意味合いがあったが、その折に「この像を元にして、こちらも二人の王の話を広めたいのだけれど構わないだろうか?」とシュンカイ帝やゲンライから話を受けているのだ。勿論、俺としても歓迎だった。俺としても幻影劇の題材にする事を許可してもらっているし否やはない。


「この像については……ゴーレム作成の技術で儂が作ったものでな」


 ゲンライが言う。なるほど。造形は俺の渡した模型を参考に。作製の折に使われた技法は仙術版のゴーレム作成術というわけだ。まだホウ国に渡って日の浅い術式ではあるが、ゲンライの手にかかればこうしてかなり精密な造形も可能、というわけだな。


「テオドール公は幻影劇に落とし込むに当たって少々脚色するとは言っていたが、それも明かせない部分をぼかすための目的だったように見えるからね。あの印象は大切にしたい」

「まあ、他の部分は変える必要がないというか聖王も真実を広めたいと思っていたようですからね」

「脚色無しでも、二人の生き方は鮮烈で劇的だったものね」


 シュンカイ帝の言葉を受けて俺がそう答えると、ローズマリーが静かに頷いていた。


 文献等も参考に下調べもして……その結果として幻影劇はああした形になったが、それをホウ国の人達にも気に入ってもらえた、というのなら幸いだ。

 宝貝を作る八卦炉の事は伏せなければならないし、墓所に刻まれた文言を完全にそのままに、とはいかなかったが。秘密とは関係のない所は俺も積極的に広めたいしな。




 そうして霊廟へのお参りも終えてから俺達は宮中の部屋に戻った。

 夕食と風呂を用意してもらっているので、後はゆっくりと寛がせてもらってから明日フォレスタニアに帰るというわけだ。


 隣室は臨時のサロンというか何というか、みんなで集まって歓談できる部屋として解放してくれている。

 そこでお茶を飲みながらユラやリン王女がユイやリヴェイラに笛の吹き方を更に教えたり、反対にリュートの弾き方をイルムヒルトから習ったりと、のんびりとした時間を過ごす。

 セイラン王妃もグレイス達と刺繍についての話をして微笑みあったり、中々楽しそうだ。


 楽しそうな女性陣を傍目に眺めつつ、俺もシュンカイ帝やゲンライとお茶を飲みながら歓談して過ごす。


「冥府の調査の折、何か役に立てればと思っての」


 と、シュンカイ帝と共に作ったという護符の束を持ってきてくれるゲンライである。身代わりの護符や、遁甲札――身を隠すための術式を込めた札という話だ。

 人ならざる者から感知されにくくなるとの事で冥府調査を念頭に置いた術式を用意してくれているのが分かる。


「これは……有難いですね」


 隠蔽フィールドを維持するのも魔力を使うしな。魔力や制御のリソースを他に割けるというのは助かる。


 そんな調子でお土産を貰ったり、俺からもホウ国の役に立ちそうな術式を伝えてそれを仙術の形に落とし込んだりして、宮中での歓談の時間は過ぎて行くのであった。




 ホウ国の宮殿はショウエンが建てたものではなくその前の王朝――シュンカイ帝の祖先にあたる人物が建てたものだ。結構由緒正しい歴史を持っているらしい。

 ただ、ショウエンは質実剛健を是としていたし、シュンカイ帝もあまりごてごてと飾り付けるのが好きではない。


 そんなわけで現在のホウ国の宮殿は調度品も控え目で、派手な華美さは感じられない。元々の格式の高さが窺えて全体的に品が良い、というのが俺の印象だ。

 案内してもらった風呂にもそれは表れているな。

 広々としていて流石は宮中の風呂というか。お陰でみんなと一緒にのんびりと湯船に浸かって寛がせてもらえた。


 夕食も引き続きコウギョクが用意してくれて……ホウ国宮殿での一泊は中々寛がせて貰えたのであった。


 そうして明くる日――。

 今日は今後の冥府調査と時差の事も考え、早めに起き出して朝食をとって帰る予定であった。

 ホウ国で朝頃に帰るとフォレスタニアは夜になるが……魔道具もあるしな。時差に身体を慣らしつつ、ゆっくり休める時間を長く取る方が良い。

 ユラやアカネ達も俺達と一緒に移動してヒタカに戻るからその意味でもユラ達は時差の影響が少なくて済む。

 ゲンライとシュンカイ帝……それにセイラン王妃、リン王女、門弟達やシュウゲツと共に見送りに来てくれる。


「ではな。冥府の調査が上手くいく事を願っておるぞ」

「テオドール公ならば、きっと冥府の者達とも友誼を結べると信じている」

「ありがとうございます。冥府の状況は分かりませんが、そうなれば素晴らしいですね」


 ゲンライとシュンカイ帝の言葉にそう答えると二人も穏やかに笑って頷く。冥府の状況は分からないが、リヴェイラやデュラハン、ガシャドクロのように善良な性質の者がいるというのは分かっているから、そうなれば良いな。

 みんなもセイラン王妃やリン王女達と別れの言葉を交わし……そうして沢山の人々に見送られて俺達は転移施設からタームウィルズへと帰るのであった。

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