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番外936 宮中の霊廟

 孤児院の子供達も含めてみんなで移動して、宮中での食事会だ。コウギョクと宮中の料理人も集まって、気合を入れて料理を作ったとの事である。

 今回は迷宮産の食材をふんだんに使っているらしい。ヴェルドガル王国に出張しているコウギョクの研究成果というわけだな。


「ホウ国にとって大事なお客様を迎える今日という日に、こうして師と共に宮中の食事会で腕を振るう事ができた事、大変光栄に思っております」

「私も……ここ暫く西国に足を運び、様々な料理の見聞を深めて参りました。心尽くしの料理を用意したつもりでおりますので、楽しんでいって頂けたら幸いです」


 料理長に続き、師であるコウギョクも口上を述べてから丁寧に一礼する。

 挨拶の中でコウギョクとの関係性に触れていたが、ホウ国の宮廷料理長もまた、香鶴楼の出身で、コウギョクの弟子という話だ。

 まあ、それなら宮中の食事会で準備をするのも諸々スムーズだっただろうな。


 ショウエンに対する対抗戦力を集めている時からゲンライ達は香鶴楼の世話になっていたからな。宮中の台所を任せるならば信頼できる人材でなければならないし、それならば香鶴楼の人間が打ってつけだろう。


 というわけで、中皿、大皿に盛られた料理が次々運ばれてくる。

 餡かけ炒飯に油淋鶏、エビチリに麻婆豆腐、小籠包、フカヒレスープ等々……。バイキング形式で、好きな料理を食べられる。

 ホウ国の料理の他にも、チーズ等を詰めて春巻きにしたものや、串カツやロールキャベツ等々……色々と用意されているがそのどれにも迷宮産の魔物素材をふんだんに使っている。


 豆板醤の原料には例によってカノンビーンズの豆を使っているそうだ。各国の料理や食材を組み込むと共に、俺が景久の記憶からこちらに持ち込んで再現した料理も色々参考にしているとの事である。春巻きにしても中華っぽくはあるがバハルザードの料理らしいし。


 味についてはやはりというか言うまでもなくというか、どれも実に絶品だ。


 んー。特にこのエビチリは好きだな。歯応えの良い大ぶりの海老に程良く豆板醤を効かせてあって……かといって辛過ぎるという事もなく、食べている内に自然に食欲を増進させられる塩梅というか。


 そんな調子でコウギョクの料理に舌鼓を打つ。招待された子供達も料理を口に運んで目を丸くしたり、顔を見合わせあって「美味しい!」と声を上げ、笑顔になる。


「沢山作りましたからね。おかわりも自由ですよ」

「そうだね。しっかりと食べていってくれたほうが招待した身としては嬉しい」


 コウギョクが言ってシュンカイ帝が微笑みながら同意すると、子供達は喜色を露わにしておかわりを貰いに並んでいた。


「ふふ、ホウ国の子供達も元気そうで何よりですね」


 そんな様子を見てグレイスが表情を綻ばせ、クラウディアも微笑ましそうに子供達を見ながら頷いていた。


 そうして食事が一段落したら、お茶を楽しみながらまた楽器演奏の流れになる。今度は魔力楽器で色んな音色を奏でたり、子供達も一緒に歌ったりと、先程の演奏会よりも気軽な席といった印象だ。ユイやリヴェイラも貰った笛の練習をしたり、割と賑やかな時間を過ごさせてもらった。


 ジンオウが助けた子供達も招待されているようで、その子供達に抱きつかれてややリアクションに困りつつも時折穏やかな表情を浮かべているのが見えて……中々ジンオウのこれからに安心できる光景だと思う。




 食事会が終わったら少し宮中でのんびりとさせてもらう。都の中だけでなく、あちこち見回るというのも悪くはなかったが、みんなの体調を考えるとあまり遠くまで出歩くのもなんだしな。

 割り当てられた客室で循環錬気を行って体調を確認した後、また別の部屋に移動して中央にいない面々と顔を合わせに行く。


「ご無沙汰しています。皆さんのお顔を見る事ができて安心しました」

『テオドール様や奥方様達も御健康そうで何よりです』


 と、水晶板モニター越しに各地の太守達と言葉を交わす。ガクスイとオウハク、ホウシン、シガ将軍にスウタイといった面々だ。

 各地の統治で色々仕事があるので中央に結集とは行かなかったが、こうして水晶板モニター越しなら挨拶もできる。


「お初にお目にかかります」


 と、エレナやユイ、リヴェイラといった面々は初対面となるので自己紹介をしつつも、昨今の地方の状況について尋ねてみる。


『やはり、妖魔の被害は目に見えて少なくなりましたな』

「ショウエンが倒れて陰に属する精霊の活動も低下しているようですからね。皆の不安が薄れたというのも大きいのではないかと」


 シガ将軍の言葉に答えると、他の太守達も納得したというか同意するように頷いていた。

 活発に活動する精霊達も前に来た時から結構様変わりしている。陰の精霊達もいないわけではないし、別段精霊同士で仲が悪いというわけでもない。


 俺がホウ国に姿を見せたら他の精霊達と一緒に手を振ったりしてきたしな。コルティエーラの加護もあるので俺達には好意的なのだ。

 見ている限りでは主流が交替して、精霊達もそれに納得しているといった印象がある。邪精霊と呼ばれるようなものまで行くとまた違ってくるのだろうが、小さな精霊達は自分の領域でのんびり活動しているのが平常運転だからな。


『精霊達の事は我らには分かりませんが……ふむ。平和が戻ってきた事が彼らの動きに反映されているのですな』

「そうですね。まあ、総じて精霊達も楽しそうにしていますよ」

『それは何よりです』


 ガクスイやホウシン達が俺の言葉に表情を緩める。

 ともあれ、太守達の話を聞いていると中央だけでなく地方の復興も順調なようでそこは何よりである。


 軍備の再編はどこでも進んでおり、常備兵としての人数を削減する代わりに仮設住宅建造等の復興支援や農地の開墾に回し、溜め込んでいた糧食を放出して戦火で焼け出された者達の為に使う、といった対策をとっているらしい。凍えたり、飢える事がないようにというのがシュンカイ帝と太守達の共通した方針だ。


 平時の兵力を屯田兵とするというのはホウ国では昔からあったようだが、中央でゲンライの門弟達が西国のゴーレム技術を取り入れた札を用意し、それを各地の仮設住宅建造や農地開墾の為にも使ったりしているそうだ。作業等も捗ると、現場の兵士達には好評らしい。


 そんな調子で各地の太守達からも近況について聞かせてもらい、俺達の子供が生まれたらまた改めて挨拶を、という約束をして通信を切り上げた。


 今日はこのままホウ国の宮中に宿泊していく予定なので、これ以上は外を出歩いて回る予定もないが……宮中の一角に聖王と草原の王を祀る廟を建てた、との事だ。

 本当の墓所については八卦炉や宝貝の出自に関する秘密が隠されているので詳らかにはできないし、頻繁に墓参りをするわけにもいかないからな。


 その点、聖王と草原の王は元々神格化されて信仰されている上に、シュンカイ帝にとっては元を辿れば同門だ。宮中に廟を建てて気軽にお参りできる環境を整えるのは問題がないと言えるだろう。


 俺も幻影劇として題材にさせてもらったし、聖王と草原の王に関してはきちんとお参りして挨拶をしておくのが筋というものだろう。


「聖王様と草原の王様の幻影劇……格好良かった」

「あれは凄かったであります」


 と、ユイとリヴェイラが顔を見合わせて頷く。幻影劇で見た面々を祀る廟があるという事で、二人は大分喜んでいるようではあるな。

 では――みんなでお参りに行ってくるとしよう。

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