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番外934 ホウ国の状況は

 王宮の外に出て見たホウ国の街並みは――前に比べると相当に華やかなものだった。


「ああ。これは――前とは随分と印象が変わりましたね」


 建物や通りといった基本的な街並みがそこまで大きく変わったというわけではない。往来を行く人々が単純に増えている上に衣服や表情が明るい色になり、軒先や窓辺を飾る調度品、看板が明るい色になったから一見して華やかな印象になったのだ。


「まあ、一目テオドール公を見たいと訪問してきている者が多いから、そのお陰で普段よりかなり賑わっている所はあるかな。そういう意味では、普段通りの都、というわけではないかも知れない」

「それでも以前からでは考えられない変化かと。きっとシュンカイ陛下の政策に皆が安心した結果なのではないでしょうか」

「そうだとしたら嬉しいな」


 シュンカイ帝は穏やかに笑って答える。

 都の街並み自体がそこまで大きく変わらないのは……ショウエンは恐怖政治を敷いていたが、だからといって無意味に街並みを壊したりしていたわけではなかったから、というのはあるか。

 あいつはあくまで自分の考え通りにすればそれが人間達の為になるのだという……自分なりの理屈に沿うように動いていたからな。


 ショウエンは強さや質実剛健、実用性といったものを求める傾向があって、その考えが政治にも反映されていたから価値観に沿わないものは堕落や悪徳、惰弱とされた。結果として民は抑圧されて、街角から活気や色彩が失われる事に繋がっていたのだと思う。


 シュンカイ帝が統治者となったことで、そうやって抑圧される事も無くなったわけだ。沿道からフロートポッドに向かって手を振ってくる人々の笑顔は――俺達が来る事を知らされているにしても楽しそうで、シュンカイ帝の治世を喜んでいる事が窺える。

 子供達が飛び跳ねながら大きく手を振ってきて、牽引しているリンドブルムが尻尾を振って応じたり、周囲を護衛役と共に飛んでいるコルリスやティール達がそれぞれ手やフリッパーを振り返す。そうすると子供達は顔を見合わせあって嬉しそうな反応を見せていた。


「ふふ。ああした光景を見ると平和になって良かったな、と思います」

「ん。子供がはしゃいでるのを見てると平和になったって実感がわく」


 アシュレイが子供達の様子を見て表情を綻ばせると、シーラも同意する。


「うん。ああいう光景は好きだな」


 二人の言葉に俺もその光景を見ながら頷く。ウィズにとっても元を辿ればホウ国にルーツがあるからか、大分喜んでいるようだ。

 ふと見やればマルレーンやユラ、リン王女と一緒にユイとリヴェイラもにこにことしながら窓から子供達に手を振っていた。


 平和になった光景というのが、リヴェイラにとっても心強さや励みになれば良いと思うが。まあ……冥府が平和になるとしても、こうした光景とは違ったものかも知れない。

 そもそも冥府の状況が分からないので何とも言えないが、リヴェイラとしてもああいう光景は嬉しいもの、というわけだ。


 記憶がなくとも元々そういう性格であるからか。それとも記憶が戻る前の在り方が影響しているのか。それは分からないが、いずれにしてもリヴェイラが善良だというのは分かる。


 さて。そんな調子で話をしながら都の一角を目指してフロートポッドが飛んでいく。一番都で様変わりした場所だ。元々はスラムのような場所だったが、復興や改築が進んで街並みも小奇麗になっていた。

 ジンオウによればああやって荒廃した一角も、ショウエンとしては反骨精神や向上心を養えるかも知れないと、敢えて放置して様子を見ていた部分があったらしいが。


 東国版の冒険者ギルド、職業斡旋所、孤児院、静養院といった……大きめの施設が並んでいる。その内のいくつかはすぐに必要だったので俺が魔法建築を行った。侠客――シュウゲツ一家の屋敷もこの一角にあるが……あの屋敷に関しても俺が修繕したものだ。


「ああ、これはシュンカイ陛下。テオドール公も。よくいらして下さいました」

「こんにちは、シュウゲツさん。皆さんも元気そうで何よりです」


 俺達が向かうとシュウゲツ一家も揃って顔を見せてくれた。

 冒険者制度を東国でも導入していくという事で、シュウゲツ一家はヴェルドガルの冒険者ギルドで研修をしていたが、俺達の訪問に合わせてコウギョクと共に一時帰国している。


 というか、冒険者ギルド長のアウリアもシュウゲツ達の帰還に付き添い、ホウ国の実情見聞という事で訪問してきているので、シュウゲツ達と一緒に顔を見せてにっこりと笑いながら手を振ってきた。


「アウリアも元気そうで何よりだ」

「ふっふ。お陰様でのう」


 と、笑みを深めるアウリアである。

 アウリアやフォレストバードの面々からもシュウゲツ達については少し話を聞いているが、研修に来ている面々は礼儀正しく振る舞いもしっかりしていると、好印象だ。


 もうすぐ研修も終わってホウ国に戻って大丈夫だろうとの事であるが。実際受付の仕事や実務も行い、冒険者ギルドでの実際の仕事や運用の仕方についてはもうしっかりと出来ているという話だからな。冒険者ギルドのノウハウについては結構早い段階で理解したので、今は東国の実情に合わせてどう運用すべきか等を考えている段階、とのことだ。


 そんなシュウゲツ一家とアウリアに迎えられ、俺達は屋敷の中へと通される。


「その後、この近辺一角の状況はどうですか?」


 尋ねると、ホウ国側に残って留守を預かっていたシュウゲツ一家の古参の男が満足そうに頷いて答える。


「良いですな。シュンカイ陛下もゲンライ仙人の門弟の方々も、施設の運営には何かと力を貸して下さいますから」


 冒険者ギルドはまだ本格的に始動したわけではないが、職業の為の技能訓練だとか仕事の斡旋だとか、その辺は今の所上手く回っているらしい。


 ショウエン統治下の爪痕は……どちらかというと内乱によって地方の方がダメージも大きい。その為、復興のための仕事はいくらでもある。

 夜盗等に身を落とす事がないように、職業斡旋所の事は各地の太守と水晶板で情報共有がなされて、どの地方にどんな仕事があるといった具合に、結構組織的に進められているのだ。


 必要に応じて紹介状が書かれ、中央から地方、地方から中央に仕事に向かう。一つの現場が落ち着いても次の現場がある。


 情報共有に関しては孤児院も同じだ。太守達も情報共有して、内乱で親を失った子供達を庇護下に置いている。衣食住と共に基礎的な読み書き計算といった教育と、将来仕事として使える技術を学べる環境を作っているわけだな。


「中々上手く回っていますね」

「それについては少し複雑なところでね。ショウエンが軍備の為に溜め込んでいたから……当面は減税し、同時に肥え過ぎた国庫から支出をして補っている」

「将来的にもこの辺の施設については上手く回していきたいと考えているの」


 シュンカイ帝が苦笑するとセイラン王妃もそう教えてくれた。

 上手く収支のバランスが取れた所に落とし込めるように試算そのものは済ませているらしいが、その辺はある程度展望があってもやはり不安はある、との事らしい。まあ……そうだな。実際に政務をしているとそういう気持ちになるのは分かる。


 ショウエンは税を軍備に回そうと計画を立てていたようだが、その辺を見直し、治安の安定と共に軍を縮小しながら戦の為に溜め込んだ糧食等は市場に回したり孤児院の子供達の為に使ったり、現金は雇用創出や福利厚生の為に回す……と。

 その他にも国庫や宝物庫の中から必要以上の品は放出して現金に換え、実務の為の資金に転用したりしているそうだ。


 将来的に上手く収支が回るようにしなければならないとはいえ、復興の為に放出するというのは正しい使い方だとは思う。


「まあ……ショウエンが混乱させた分を社会に還元していると考えれば悪い事ではないでしょう。私利私欲で必要以上の蓄財をしたり無意味な散財をしたり、死蔵しておくよりそういった目的で使えるのであれば健全ですし、そういう選択をできる為政者こそが今は望まれているのだと思います」

「そう考えるべきなのかも知れないね。後できちんと軌道に乗せる事もそうだが、大切なのは民の暮らしだ」


 俺の言葉に、シュンカイ帝は真剣な面持ちで頷いていた。

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