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番外931 ヒタカの都観光へ

「楽しかったであります……!」

「うんっ! 少しだけどちゃんとした音も出たもんね」


 と、鬼の里からマヨイガに戻ってきたところでリヴェイラとユイが顔を見合わせて微笑み合う。

 リン王女とシホの指導が良かったのか、それとも二人が思った以上に器用なのか。笛の正しい持ち方、息の吹き込み方といった基本を習って、少しではあるが音を出せるようになっていたようだ。


 音階ごとの指の置き方、運び方。息の吹き込み方で抑揚と共に音階を更に上げたり下げたりできるといった知識も習って、後は練習あるのみ、といったところだろうか。その抑揚や角度をつけた息の吹き込み方で音をコントロールするというのがかなり難しいらしいのだが。

 折角なので許可を貰い、ヒタカやホウ国の曲を色々演奏してもらって、それを記録し、楽譜として起こしてみた。


「西方の楽譜は初めて見ましたが……面白いものですね」


 と、ユラ、リン王女やシホは西方の楽譜を見て感心したように頷いていた。

 以前、ヴァルロスに対抗するための準備に動いていた頃の話だが、呪歌、呪曲に絡んで楽譜を用意する必要があって、皆にも馴染みのあるものをとペレスフォード学舎の資料で楽譜に関する知識も調べたのだが、ヴェルドガル王国やその近隣国では、地球で言う五線譜に相当するような譜面の書き方が既に出来上がっていて、それが普及していたりする。


 五線譜以外のものとしては――楽器に応じた奏法を記号や文字で記した所謂タブラチュア譜と言われるものだ。迷宮村ではタブラチュア譜を使っていたが、クラウディアが目覚めて俺達と行動を共にするようになってからは今の時代に合わせて五線譜の楽譜の読み方を覚えたりしていたらしい。


 もっと時代を遡れば、音階と休符に文字や数字を割り当てた文字譜、数字譜というのもある。

 音の高低を文字で注釈をつけられていたりするものなど、暗記できるぐらいまで読み込まないと演奏が難しい印象の楽譜もあったが……調べていて色々な形式のものを見る事ができて中々興味深かった。


 俺にとって五線譜は馴染みがあるので分かりやすいが、迷宮村の住人達から聞いたところによると、タブラチュア譜は奏法を具体的に示しているので個別の楽器の習得や演奏をするのには便利との事だ。


 ユラの場合は――伝統的な譜面に触れる事が多いので「巫女寮ではこんな楽譜を使っていますよ」と、マルレーンのランタンで具体的な譜を見せてくれたりした。


 ユラが教えてくれたのは音階に文字を割り当て、側面にある注釈で音の長短を見るという譜面だな。


 そんな事もあって、マヨイガに戻ってきてからもイルムヒルト達や、ユラ、リン王女にシホ達、楽器演奏を得意とする妖怪達が楽しそうに各々の楽器を演奏し合ったり交換して演奏したり……演奏した曲を五線譜にして幻影として映し出してみたり、或いは別の形式の楽譜に変換したりと、そんな調子で盛り上がっているようだ。


 ユイとリヴェイラもそこに混ざって……まだ楽器は演奏できないものの一緒に歌を歌ったりして、楽しそうにしていた。


「まあ、当初の目的は大成功ってところか」


 と、それを見たレイメイが満足そうに笑って言う。ユイとリヴェイラの事だろう。


「そうですね。リヴェイラは口には出さないまでも色々と思い悩んでいるようでしたから」


 今はユイと一緒に笑顔で歌っていたりするな。ユイも篠笛を気に入ったようだし、東国の面々との交流も楽しそうで何よりといったところである。グレイス達もそんな様子を見てうんうんと頷く。


 さてさて。マヨイガによると風呂や寝床の準備も出来ているとのことだ。このまま交代で風呂に入ったりして、眠くなるまでのんびりと過ごさせてもらおう。

 寝床を用意した部屋までは演奏や歌声が届かないようにしてあるそうなので、みんなも心行くまで楽しめるだろう。




 ――マヨイガに宿泊し……そして一夜が明ける。マヨイガの用意してくれる寝床はふかふかとしていて温かく、実に寝心地の良いものだった。

 時差があるので普段より少し早めに床に就く感覚ではあったが、魔道具で就寝と起床の補助をしてやれば時差は大して苦にならない。寝心地の良さも相まって、みんなすっきりと休む事ができたようだ。


「沢山の方が泊まりに来て下さったので、実に力が湧いてきます」


 というのはマヨイガの弁である。マヨイガにしてみると宿泊した者が心地良いと思ったり満足感を覚えるとマヨイガの力も高まるそうだ。沢山の客を歓待して満足してもらえたというのは当人にしてみると嬉しいことなのだろう。


「であれば妖怪達への理解を深めたり、修業を行う為にも時々マヨイガに宿泊させてもらうというのも良いのかも知れないな」


 と、ヨウキ帝はそんな風に言って、マヨイガは「歓迎します」と頷いていた。




「いやあ、楽しかった。また遊びに来てくれ」


 河童が上機嫌そうに言うと、ろくろ首や雪女も笑顔で頷く。


「ああ。また遊びに来るって約束する」


 マヨイガで朝食をとった後、少し休んで循環錬気を行い、みんなや子供の体調に問題がない事を確認した。

 そうしてヒタカの都に移動する頃合いとなったが、移動の前に見送りにきてくれた妖怪達と挨拶をしているのだ。

 次にまたヒタカに来るときは冥府の問題が解決し、子供が生まれて状況が落ち着いたらだろうか。こうやって遊びに来る時間も作りやすくなるだろう。


「楽器の腕前もだが、ユイとは次に会う時が楽しみよな」

「そうさな。きっとより成長して我らを驚かせてくれるのだろう」


 御前とオリエがそんな風に言うと、ユイは元気よく「頑張るね……!」と応じていた。二人としてはそんなユイの性格が気に入っているのだろう。子蜘蛛達もユイやリヴェイラと握手を交わして再会を約束する。


 その横ではコルリスとケウケゲンが手を取り合って別れを惜しんでいたりする。ケウケゲンだけでなく、スネコスリ、サトリといった面々と動物組は仲が良いのだ。動物的な見た目で親近感が湧くのかも知れないな。


「リヴェイラも、ここが辛抱どころだな」

「テオドール様と一緒なら安心だと思う」


 と、ジンやツバキもリヴェイラと言葉を交わし、冥府調査に向かって動いていく事になるであろうリヴェイラを励ましている。宴の間にヒタカやホウ国で起こった事件を聞かされているので、リヴェイラも「足を引っ張らないように頑張るであります」と気合を入れている様子であった。


 そうして北東に住まう妖怪達としんみりとした、というよりは賑やかな空気の中でお互い別れの挨拶を交わす。マヨイガからお土産としてお弁当をもらって……俺達は転移門を通ってヒタカの都へと向かったのであった。


「それでは――ここからは私達が案内役をしますね」

「私達が護衛役をしますので、安心してフロートポッドでの移動をして下さい」


 と、ユラが俺達を見やって言う。アカネを部隊長としてイチエモン達と共にフロートポッドの護衛をしてくれるそうだ。アカネ達が護衛についていればヨウキ帝やユラの客人と一目で分かるのでフロートポッドを飛ばしても安心、というわけだな。

 まあ、イチエモンやその部下は変装しているので本来の護衛役としての側面が強いけれど。


 都の観光という事でどの場所に行きたいかという希望も事前に聞かれている。

 みんなと話し合ってみたが、服や装飾品を扱っている店を見たり、鍛冶場や絡繰り技師の工房等の技術的な場所を見たい、という意見が出た。

 買い物や技術回りでなく、風光明媚な場所も勿論嬉しいといった内容を伝えると「では、幾つか心当たりがあるので回って行きましょうか」とユラは快く対応してくれた。


 観光案内役という事で事前に店や鍛冶場等にも連絡を入れて手筈も万端整えてくれたらしい。フロートポッドで横付けするので向こうも話を通していないと驚くだろうし、技術関係の場所は見せても構わないものとそうでないものがあるだろうからな。


 ヒタカの都で観光した後は、ホウ国の都も観光する予定だ。ホウ国の復興も順調という事で都も地方も活気が戻ってきているという話だし、前との違いも含めて楽しんでいきたいところである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地球で言う五線譜に相当するような譜面の書き方が既に出来上がっていて、それが広く普及していたりする。 「普及」には「広く行き渡る・行き渡らせる」という意味があるので、「広く」は余分です…
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