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番外923 冥府探索に向けて

「転移門とは見た目も結構違うんだね」


 俺が映し出した幻影を見て、アルバートはそんな感想を漏らした。

 現世と常世間で移動する補助魔道具の姿は――箱のような四角いシルエットをしていた。まあ、実際の所は祭壇であったりするのだが。


「そうだね。転移門とは原理も違うから」


 迷宮のシステム的な補助を借りている転移門とは違う。どちらかというと召喚儀式のそれに近いかも知れない。


「幻影の中で……ハイダーさんとシーカーさんが一緒にいるのは何か理由があるのでしょうか?」


 幻影を見たエレナが首を傾げる。幻影の中では祭壇に背をもたれるようにして、ハイダーとシーカーが腰かけていたりする。その言葉に反応した工房のハイダーとシーカー達も俺を見てきたりして。


「これから作る予定の特別製なんだ。祭壇と同じく双方向移動を補強する為にいるわけだね」


 エレナにそう答える。

 現世と常世出身の者の魔石を組み込んだ……所謂特別製のハイダーとシーカーとなる予定である。

 まずどちらかの片割れを向こうに連れて行く。その後、俺達が冥府側から戻ってくる際に片割れがその場に留まる。再度冥府に向かう際に、縁のある相手という点を利用する事で、片割れを目標にその場所に移動できる、という寸法だ。


 無人での調査を行うなら冥府側に移動するのはシーカーの方が適任かも知れない。


 特別製ハイダーとシーカーは対になる予定だ。現世側に留まり、冥府側の片割れと対として縁を結ぶ事で、現世と冥府の間で映像や音声情報をやりとりできるようにする、というわけだな。


 冥府側に同行する片割れは――俺達と行動を共にするから普段の中継もできると言う寸法だな。

 それと……片割れを先に送る事で双方向移動のテストだとか、冥府での行動に際して環境的な問題がないか等の事前調査を行う事ができる。データ収集のための魔道具も一緒に送る事になるだろうけれど。


「ん。移動した場所の危険度も事前に探れる」

「そうだね。片割れのいる場所に移動できるから、危険そうな場所から離れて落ち着いた所を選んで探索開始、みたいな運用法になりそうだ」


 うんうんと頷くシーラの言葉に答える。


「それに……これがあれば、調査の合間を見て戻ってきたり、こっちで休んでから調査を再開したりといった事ができるわけですね」


 グレイスが嬉しそうな笑みを見せるとみんなも楽しそうに微笑んだ。

 そうだな。現世側に戻っても探索していた場所に再度移動ができるならば、みんなと顔を合わせに戻ったり、アルバートとオフィーリア、エリオットとカミラにも循環錬気での補強等の機会を作りやすくなる。


 というわけで魔道具については色々具体的なところまで設計や運用法を想定している。迷宮核に手伝ってもらって製図した設計図や使用する術式を書きつけたものを工房のテーブルに置く。


「情報収集機器に召喚関係の機能を組み込むのね」


 ローズマリーが設計図を見て言うと、マルレーンと共にリヴェイラも興味深そうに覗き込む。ローズマリーは頷いて「この辺だわ」と指差して説明をすると、ふんふんと揃って首を縦に振っていた。


「うん。魔石に環境魔力を吸収させて持ち帰って、その辺からの影響があるかどうかも調べようと思ってるんだ」


 そうなると向こうに送り込んだ機器を呼び戻して魔石を実際に調べる必要が出てくるので……魔道具だけを呼び戻せるように召喚術回りの技術を組み込んでおくというわけだ。実際にあっちに向かう前にできる事はしておきたいからな。


 まあ……高位精霊の加護があるから、冥府の環境回りについて俺達だけに限るならそこまで気にしなくてもいいのだけれど。だからと言って調査を怠ったり、後々の為に対策を講じないのは問題がある。


「うん……。それじゃこの魔道具類については最優先で作製を進めていこうか」


 アルバートが笑みを見せると、ビオラ達職人の面々も「頑張ります!」と気合を入れている様子だ。


「ふうむ。この分ならば、祭壇を安置する区画についても構想が進んでいそうじゃな」


 と、お祖父さんが楽しそうに笑う。


「そうですね。管理区画については――こういった感じにする予定です」


 と、俺もにやりと笑って、マルレーンのランタンを借りて区画の完成予想図をみんなに見せると「おおー」という歓声が漏れた。

 ドーム状の内壁に明るい景色が映し出された区画だ。柱に蔦の絡んだ神殿のような建物が中央に配置されている。周囲を結界で包み……高所から水を流す事で虹がかかっており……一見しただけだとかなり穏やかな景色である。


 神殿に結界を張り、外側に光の属性を持った魔法生物や迷宮魔物を配置する事で冥府の存在がやってきたとしても行動をしにくくする、というわけだな。


 更に中央の神殿地下に暗い区画を残し、闇に属する魔物を配置する事で、区画を現世と常世に見立てて概念的な距離を縮める。


「なるほどのう。構造そのものに寓意を持たせておるわけか。神殿の祭壇が現世と常世を繋ぐ境界というわけじゃな」


 幻影に合わせて構造を説明すると、お祖父さんは納得するように言う。


 そうして工房のみんなにもあれこれ説明する傍らで――ユイはレイメイの指導の下、工房の中庭に腰を落ち着け、瞑想を行っていた。


 これは鬼の通力を得るための修業だそうだ。精神修養の一環で、自身と向き合う事で魂に眠っている力を引き出す、という事らしい。

 誰しもがそうした境地に至れるわけではないらしく、目覚めた場合は覚醒魔人同様、通力も個々人で変わるそうで……色々と不確かというか、身体を鍛えたり、術を覚えたりするような、結果が見える内容ではない、中々根気のいる修業ではある。


 当然一朝一夕に仕上がるものではないが、ユイは生来の真面目さでこういった修業にも不満を言わずしっかりとこなしていた。


「まあ、ラストガーディアン候補って事や、今の力量を考えれば、明日目覚めても儂は不思議だとは思わねえがな」


 レイメイが先日口にした言葉に、ユイは屈託のない明るい笑みを見せていた。


「そうなったら、冥府の調査で役立つかも知れないね……!」


 と、いうわけだ。とはいえ、冥府の調査に関わらずユイの場合は性格上、こうした修業でも真面目に続けているだろうと思うが。


「……ユイは真面目ね。私も頑張らないと」


 そんなユイを見て気合を入れ直しているのはジオグランタだ。

 迷宮管理代行として俺がしている仕事を、不在であってもティエーラやジオグランタの手でも続けられるように迷宮核で補助システムを組んだり、操作手順や機能を学んで貰ったりしているのだ。


 始原の精霊二人相手に講義を行うというのも中々ないと思うのだが、二人は真面目に講義を受けてくれているので助かっている。


「テオドールの組んでいる補助システムは……色々分かりやすいわね。これなら何かあってもメギアストラと相談しながらなら、結構思ったようにできそうだわ」

「では、私はクラウディアと相談しながらでしょうか」


 講義を聞いて納得して頷くジオグランタと、にこにこと穏やかに微笑んでいるティエーラである。


 そうした迷宮回りでの仕事や工房での準備の他に、それ以外の事柄も並行して進めている。俺と共に何人かの面々が冥府調査で領地を空けるので連絡体制やシフトを見直したりして、留守中にも諸々円滑に進められるようにという訳だ。

 テスディロス達が同行するので領地の巡回や警備の仕事を武官達に頼んだり、ロゼッタやルシールにみんなの定期健診の事を頼んであるので、日常や実務回りで、不在の間でも問題が起こらないようにしている。


 その他にも俺自身色々と仕事を抱えているが、ざっと見回しても状況は落ち着いているからな。後進を育てるという意味でも、関係者の様子を見ながら色々仕事を任せたりしていきたいところである。

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