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番外922 生者と死者の絆

 迷宮核内部。術式の星の海にて解析したリヴェイラ――ランパスやデュラハン、ガシャドクロといった冥府出身の面々のデータを用いて双方向転移の為のシミュレーションを行う。


 現世と常世で移動するために必要なものは、両方の世界を繋ぐ縁だ。

 例えば……魔術師と使い魔、召喚師と召喚獣のような契約を取り交わした間柄は勿論のこと、力を送るだけならもっと単純に家族や恋人、親友のような人と人の縁でもいい。主君に忠誠を誓った騎士。そんな間柄でも縁は成り立つだろう。故人への想いを以って墓前に黙祷を捧げれば、その祈りは力となって冥府へ届く、というわけだ。これは双方向移動の折にも応用が利く。


『デュラハン達が言うには……死者への祈りっていうのは彼らに対して活力を与えるような効果があるらしいよ』


 と、迷宮核外部の待機所で俺の作業を見てくれているみんなに、通信機でそう伝える。


 何かの具現や化身である精霊と違って、通常の生物の場合、魂には拠り所がない。剥き出しで無力な霊魂のままでは段々力が薄れていってしまう。そこで誰かが冥福を祈れば死者の魂はその想いを拠り所に自身を保つ事ができるというわけだ。


『だから――悼まれる事のない悪人は飢える』


 これもデュラハンの言葉である。これは冥府に限った話ではなく、まだ現世に留まっている死者達もそうだ。強い恨みや執着というのは人にとって目的を成し遂げようとする原動力足りえるもので、その強い力は魂の拠り所にも成り得る。


 しかし何の対策もしていない魂の自我は段々と薄れていってしまうので、外部から想いを向けられる事が無ければ次第に我を失い、恨みや執着だけに固執するアンデッドに成り果てたりしてしまうわけだ。


「ん。地獄の亡者の場合は?」


 と、そんな話を通信機でやり取りしていると、シーラが首を傾げた。


『地獄の亡者であってもそれは同じらしいね』


 それが逆恨みであれ何であれ、生者への憎しみを募らせている。そうして恨みに囚われて自我が消えていくのを防ごうと冥府の食べ物に口を付け、より冥府に根付いてしまう、といった具合だ。元々善良でない者達が行きつく先なのだから、そうなるのも致し方なしといったところか。

 まあ……普通なら地獄に生者はいないので、生者を恨んでもそれをぶつける相手もいないのだろうが。


 反面、所謂天国に住まう事を許された者達、子孫から敬われている祖霊といった者達は、縁のある者達から慕われている者だ。祈りの形で力の供給を受けて、自我を保ち続ける。その規模が大きくなれば神格を宿したりする事もあるだろう。パルテニアラやグランティオスの慈母、それから……母さんのように。


「リサ様がイシュトルムの力の一部を封印し続けられたのも……そういう背景があったからかも知れませんね」

「テオドール様や私達だけでなく、沢山の方々に慕われていたという事ですね」


 グレイスが胸のあたりに手をやって少し遠い所を見るように目を細めると、アシュレイも目を閉じて想いを巡らすように微笑む。


『そうだね。それは――俺も嬉しい』


 旅先での人助け。死睡の王との戦い。それらの話はヴェルドガル王国では広く知られていた。きっとそれは母さんが封印を維持し続ける助けになっただろう。


 その後の事……。イシュトルムの力を抑えていた事や、奴を倒した後にアシュレイに力を貸して俺の傷を治してくれた事についても各国の王達が事情を知っているという事もあって――俺の話と同時に世間に広まっていたりする。


 何かを守るという強い意思と目的があり、慕う者達が多い。現世に留まって神格化する者にはそういう共通点があるのも見えてくるが……英霊にしろ祖霊にしろ、生者の想いが故人に力を与えている、という点は変わらないだろう。逆もまた然りだ。


 縁で繋がっているから故人の想いもまた、生者に届く。何かしらの形で助けになったり、窮地を救ったりといった影響を及ぼす事ができる。神格を得ているならご利益等と呼ばれたりもするだろう。


 生者と生者、或いは生者と精霊でも力を送る事もできるのは、月の王と月の民や、俺の身の回りでも実証されているな。


 話を少し戻すならば、現世と常世の双方向移動に関しては、そうした強い縁や絆を持った者達の間で繋がる力を利用する、という事になる。


「例えば――私達の結婚も強い縁よね」


 そうした話を説明すると、カドケウス――を通して見ている俺に向けて微笑むイルムヒルトである。


『そうだね。かなり強い結びつきがあるのもそうだし、結婚指輪が対になっているから現世と常世の間での移動をしやすくするだろうって迷宮核が分析してるよ』


 そう伝えると、みんなは左手薬指に付けたアレキサンドライトの結婚指輪に目を向けた。宝石が煌めいて……強い魔力が宿っているのが窺えるな。高位精霊の加護が込められたタブレットもそうだ。だから、縁という意味では戻ってくるのに苦労はしないだろう。


 一方で……あちら側に向かう際に最も適しているのが母さんの墓所、という結果が出ていたりする。


 リヴェイラが現世側に出現したのがあの場所だったことから、軽くではあるが縁ができているし、やはり墓地と常世というのは接点が多いので……概念的な距離、とでも言えばいいのか、常世に向かいやすく戻ってきやすい場所、というわけだ。

 だが俺としては……墓所というのは静かな場所であって欲しい。今回の事であってもそうした方法を取るのはあまり考えたくはないな。


 効率は少し落ちるが、改めて移動のための魔道具等を用意するのが良いと思う。


「確かに……そうであって欲しいわ」


 俺がそう伝えるとクラウディアが目を閉じて言った。

 月の民の墓所であった事を思い出しているのかも知れないな。その言葉に、みんなも同意するように頷く。


 では、双方向移動を補助するための魔道具作りという事で決まりだ。デュラハンが冥府へ帰還する折の魔力の動きを解析し、応用術式を構築。デュラハンやガシャドクロ、ヘルヴォルテやベリウス、リヴェイラの属性を付与した魔石を組み込んでやれば、十分に実用に堪えるだろうと迷宮核でも試算が出ている。


「転移門や境界門のようなものになるのでしたら……設置場所も考える必要がありそうですね」


 エレナが思案しながら言ってくる。それは確かにな。

 結界で覆って安全対策をした迷宮区画を用意しておけば諸々安全だ。縁や絆によって現世と常世を繋ぐ魔道具だから……成り立ちからして俺達用に調整されていて、転移門のように誰しもが利用できるというものではない。


 だとしてもこちらの想像を超えて冥府から何かが出てくる可能性はある。それに……現世――ルーンガルド側でその魔道具に対してよからぬ事を企む輩がいないとも限らないしな。


 その点、安置されるのが迷宮の奥ならば……防衛戦力をすぐさま動かす事ができて警備や監視も分厚くできる。デュラハン達に加えてユイの属性を付与した魔石を組み込んで更に増強を行っても、情報漏洩の心配が少なくなる、というのもあるか。

 魔道具開発と同時に迷宮核とシミュレーションを行って、問題がなければこちらも準備を進めていくとしよう。


 冥府調査の同行者に関しても……迷宮核で試算してみたが、どうやら問題は無さそうだ。流石に、縁で繋いで移動する関係上、術式の制御も難しいので他の面々には任せられないところがある。俺が調査に加わるというのは外せないと見ているが、行き来を簡単にする為の補助魔道具でもあるしな。

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