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番外921 冥府調査に向けて

 冥精や亡者からの情報収集。前者はともかく後者からは何かしら方法を考える必要があるが、宮仕えであったならば人の口に戸は立てられないものだ。それは冥府でも同じだろうが、どちらにせよ現地での情報収集が必須となってくる。


「……調査を行う前に、冥府と現世を安全且つ自由に行き来する手段だとか、双方向で通信する方法は確立しておきたいな」


 しっかりと術式を確立すれば、魔道具化もできる。それで冥府の亡者がこちらに来られるようになっては本末転倒なので、安全対策もしっかりとしなくてはならない。

 その点、移動に際して精霊に近しい性質を利用するというのはメリットが大きい。現世との繋がりや場を整えてやる事で精霊なら移動できる、という事なら、今までと変わらないわけだし……こちらとあちらで繋がりを強くするための方法も幾つか思いついている。


「そうね。何時ものように、みんなで一緒に、とはいかないのが中々歯痒いけれど」

「流石に今は……方法があったとしても同行が難しいですからね」


 ステファニアが少し眉根を寄せるとグレイスも少し残念そうに頷く。


「けれど、行き来と通信ができるなら……いつものように相談事や作戦会議では役に立てそうね」

「うん。俺としてもなるべくみんなの傍にいたいし、みんなが力になりたいって思ってくれているのは、その……嬉しいし、気合が入る」

「ん……そうね」


 俺としても正直な所を口にすると、ローズマリーは羽扇で表情を隠して明後日の方向を向きつつ応じていた。みんなも、かえって気合が入ったといった様子で頷いていたりするが。


「なるべく戦力を厚くするなら……私も一緒に行けないかな?」


 と、そう言ってきたのはユイだ。みんなの視線が集まると、真剣な表情で胸のあたりに手をやって言う。


「その……鬼は冥府の獄卒だって言うし、精霊に近い性質もあるから。私はまだまだ修業中だし、ラストガーディアンを目指す立場なのも分かっているつもりだけど、まだそうなっていない今だからこそ、力になれるかなって思ったりしたの。場所が特殊っていうのもあるし」


 なるほどな。戦い方や能力が完成していないが、だからこそラストガーディアンになる頃には、今の情報では参考にならないぐらいに成長すればいい、というわけだ。

 場所が特殊というのは……向かう場所が冥府であるから、精霊や一部の例外を除いて現世に直接的な介入ができないという意味だろう。情報漏洩の危険性も低いと……ユイとしてもしっかりと考えた上での発言だというのが窺える。


 色々な所に関わってきそうな話なので各国の首脳陣も水晶板モニターでやり取りを見ているが……ジオグランタのスレイブユニットと、モニター越しのメギアストラ女王は俺を見ると静かに頷いた。


「そこまで考えての事なら、私はその選択を尊重するわ」

『彼女の事を……頼めるだろうか』

「勿論、教導役でもありますから」


 そんなやり取りにユイが表情を明るくする。


「但し、調査した上で必要と判断した場合は、支援に徹したり、大人しく撤退するって、約束する事」

「うんっ。約束する」


 俺の目を真っ直ぐ見てしっかりと頷くユイである。

 冥府への同行も、ラストガーディアンを目指す上で、成長に繋がるかも知れない。鬼族であるから特にそれは言える。


「精霊に近しいというのなら、俺達も同行できそうな気がするな」

「確かにそうですな。フォレスタニアの防衛戦力との兼ね合いを考えねばなりませんが」


 テスディロスの言葉にオズグリーヴも顎に手をやりつつ頷く。

 そうだな……。魔人達はそうかも知れない。デュラハンやガシャドクロも魔力反応からして気炎を上げているというか、やる気を見せているが。


「冥府という事でしたら……私達も同行できると思います」


 ヘルヴォルテが言うとベリウスも頷いた。ワルキューレとケルベロスか。

 二人は迷宮出身ではあるが、種族としての出自を言うなら冥府だからな。デュラハンのように冥府から召喚された同種を参考に迷宮核が構築した、という事になるのだろうか。同様に気合を入れているアルファも……精霊化しているから移動が可能だとは思う。


「ふむ。霊体という事なら妾も可能かとは思うが……中々ままならない物だな」


 パルテニアラが眉根を寄せて目を閉じる。境界門の事もあるしな。パルテニアラは残った方が良いだろう。


「同行が難しいという事でしたら、タームウィルズやフォレスタニアの守りは任せて下さい」

「うん! 頑張るね!」

「任せて……」


 シオン達がそう言って、カルセドネとシトリアも気合の入った表情で頷いていた。そうだな。心強い話である。


「その……ご迷惑をおかけしているであります」


 そんなやり取りを見ていたリヴェイラが、申し訳なさそうな表情で、深々と頭を下げてくる。


「冥府の事については――誰しもが他人事じゃないからね。それに、問題が起こっているなら、リヴェイラのお陰で察知できたとも言える。問題の解決に力を貸してくれると嬉しい」


 そう言うと、リヴェイラは少し目を見開いてから、また深々とお辞儀をしてくる。


「勿論であります。精いっぱい頑張るであります……!」


 うん。リヴェイラは真面目そうで良い事だ。そうなると、すぐに動けるわけではないというのがこちらとしてもやや心苦しいが……調査に関しては万全を期すべきだろう。

 同行者についても……もう少し詰める必要があるだろうか。いずれにしてもリヴェイラの魔力資質等も情報収集させてもらい、移動のための安全性、確実性の強化も含めて迷宮核で諸々の試算を行ってみるとしよう。




 あちこちに通信機や水晶モニターで通達が行き……冥府の調査については各国が協力して動く、という事になった。必要な資材や情報の提供等は惜しまないと各国とも快く約束してくれて、ありがたい話だ。


 調査に向けての準備を整える為に、リヴェイラも早速協力をしてくれた。

 迷宮核にまでは連れて行けないが、浅い階層でも魔法陣を組んでその中に入ってもらい、情報収集と解析を手伝ってもらうというわけだ。中枢部ではないが、こうして準備をすれば迷宮内で情報収集ができる。


 魔法陣の中に入ったリヴェイラは少し緊張していたようだが、危険はないし痛み等もないと伝えると素直に頷く。魔法陣が起動すると青白い光の柱が立ち昇り、ランパスの情報収集と解析を進めていく。やがて光の柱も収まって行き……リヴェイラは魔法陣の中心で目を瞬かせる。


「――もう大丈夫だよ」

「終わったでありますか?」


 と、不思議そうに首を傾げるリヴェイラに、こちらも少し笑って頷く。迷宮核側では映像情報で先程の解析結果を知らせてくれて……ティエーラと共に迷宮核側で待機していたカドケウスが、それを見て、五感リンクを通して俺に教えてくれる。


 デュラハンやランパス、ガシャドクロといった面々に関するデータを元に現世と常世の安全な双方向移動の方法を構築していくわけだ。


 解析された情報の特記事項として気になるのは――リヴェイラの負ったダメージというか……傷跡のようなものがまだ彼女に残っている事、だろう。精霊力というか魔力や容態も回復したものの、あの白い光に由来すると思われる傷痕のようなものはまだ残っていて……記憶喪失もこの辺の傷が関係していると思われる。


 この辺についてはこのまま分析してもらおう。記憶と共に回復する手段があるならば儲けものだ。特殊なダメージを受けた事が原因ならば、それに合わせた回復方法を講じてやる必要がある。それに、解析でダメージを与えた原因……あの白い光についても何か判明するかも知れないからな。

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