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番外918 精霊達の見守る中で

「むう。冥府の精霊とは……。折角のテオの誕生日だというのにな」

「僕の事なら問題はありません。祝ってくれる人達には申し訳ない気もしますが」


 父さんの言葉に苦笑して応える。

 母さんの家から手早く荷物を回収し、戸締りや火の後始末といった諸々を確認してから結界を構築。それから父さんの家に戻ってきていた。


 誕生日を祝ってくれたみんなには、申し訳ない気持ちもあるが……それを理由に無視できる事件でもないからな。グレイス達を見ると、微笑んで頷き返してくれる。俺の選択を後押ししてくれる、というわけだ。そういう反応は心強くて、嬉しくもある。


 そんなわけで、父さん達と顔を合わせて連絡と注意喚起を行っているところだ。


 こうした対応には小さな精霊一体で大袈裟な、と思う者もいるのかも知れないが、普通ならば現世で見る事のない冥府の精霊だ。ランパスを保護して意識が戻ればそれで良いというものでもない。

 俺も普段精霊達に世話になっているというのもあるしな。状況が分かるまでは万全を期した対応を取っておいた方が良い。


「色々懸念はありますが、一先ずはフォレスタニアに戻って精霊の回復を待ち、事情を聴きたいと思います。母さんの墓所や家、それに父さんの家、ハロルドとシンシアの家も……安全が確認できるまで、シーカーやハイダー達を置いて監視の目を残しておきたいと思っているのですが、どうでしょうか?」

「では――シーカー達に関してはお願いしよう。何かあればテオに連絡を取る、という事でいいのかな?」

「そうですね。それは問題ありません。それから、ハロルドとシンシアについてですが――」


 そこまで言うと、父さんは穏やかに笑う。


「そうだな。非常時という事で、暫く私の屋敷に寝泊まりすると良い。墓守の仕事については……暫く我慢させてしまうという事になるが」


 なるほど。それなら確かに……。父さんの家なら転移門ですぐに駆けつけられるしな。

 母さんの家や墓所に張った結界は契約魔法を組み込んで、俺達に害意のある者は立ち入れないようにしてあるから、ハロルドとシンシアなら立ち入って墓守の仕事をする事もできるが……事情が分かるまでは用心をしておくべきだろう。


「二人は真面目だから、そうなると心苦しい所はあると思うけど……二人に何かあったらそっちの方がみんなも辛いからね」


 父さんの言葉を受けてダリルがハロルドとシンシアに言うと、二人は真剣な表情で応じる。


「いえ、分かります」

「今は……静かにしているのが私達の仕事、ですね」


 そんな二人の言葉に、みんな思い思いに頷いていた。グレイス達も今は安静が大事だから二人と同じような思いもあるだろうし、ネシャートはそんな風に気遣うダリルに目を細めていた。


「森で何か起これば私も察知できるし、お墓の手入れも……小さな精霊達にお願いしておけばすぐに荒れたりはしないわ。リサのいるあの場所は――精霊達もみんな好きだから」


 フローリアがそう言うと、顕現していない小さな精霊達もうんうんと頷いているのが見えた。そんな反応に表情が少し緩んでしまうが。


「ありがとう。フローリアもそうだけど、みんなも気を付けてね」


 そう伝えると精霊達が嬉しそうな表情で力こぶを作ったりして俺の言葉に反応していた。まだ目を覚ましていないランパスを心配そうな目で見ながらこちらに向かってお辞儀をしてくる風の精霊もいて……同じ精霊同士、心配しているようだな。

 では――あちこちに連絡を入れつつ、フォレスタニアに戻る事にしよう。そうして、俺達は父さんやダリル達に見送られて転移門を通り、タームウィルズへと飛んだのであった。




『一先ずフォレスタニア城に戻って、精霊の容態を診たいと思います』

『承知した。誕生日の骨休めであったというのに、苦労をかけるな』

『いえ。何がどうなるのか、分からない案件でもありますからね』


 メルヴィン王とそんなやり取りを交わしつつ、みんなでフロートポッドに乗ってフォレスタニア城へと戻った。

 遠いようでいて誰しもの先々に関わる内容でもある。何らかの理由でこの世に留まる魂もあるが……それは例外的なものだし。


 それに冥府の異変がルーンガルド――というか、現世に影響を及ぼさないとも限らないからな。可能性だけを論じるなら色々考えられるが……だからこそランパスにはしっかりと話を聞かなければならないだろう。


「お帰りなさい、テオドール」

「うん。ただいま」


 そうしてフォレスタニア城に到着すると、ティエーラ達が俺達の事を待っていてくれた。フォレスタニアは精霊達の力が濃いという事もあって、魔力反応から見てもランパスの容態は安定してきているようだが――ティエーラが近くに来た事で、更に回復量が上向きになっている事が窺える。このまま隠蔽と保護のための結界を城のどこかに構築しつつ、ティエーラ達に付き添ってもらえれば安心だろう。


「助けてくれて、ありがとう」


 コルティエーラが静かにお礼を言ってくれて、四大精霊王達も口々に礼を言ってくれた。

 早速城の一角……少し広めの部屋にて結界を構築し、ガートナー伯爵領の様子も見られるように対応している水晶板を部屋に持ち込む。寝台の上にランパスを寝かせ、近くにティエーラ達が付き添いつつ話ができるようにソファやテーブルも用意しておく。


「それにしても冥府、ね。色々言い伝えはあるけれど……」


 広間のソファで身体を休めつつ、ローズマリーがそう言って思案を巡らす。言い伝えというのは……所謂臨死体験をした者が語った内容であったりだな。常世のイメージを形作るものではあるか。人々の想いが反映されているというのなら一般的なイメージからそこまでかけ離れたものではない、とは思う。


「生物の恐れや願いが反映された精霊界の一種ではありますが――生命を司る私とは、輪廻転生という一部で繋がっているとしても、やや手が離れている、と言えますね」


 ティエーラが言う。誰しもが思う死への恐怖。それを和らげるための死後の安らぎを願う想い。死は終わりではないと願う気持ち。良きにつけ悪しきにつけ生前の行いへの報いをと願う心。そうした物が冥府を形作ったとも言える。

 長い歴史を重ねているし、死というのは誰しもが強い想いを向けるから、そうしたものが強固に精霊界の在り方を支えているのだろうとは思うが。


「同じく。現世にある私達からは精霊界と言っても少し毛色が違いますね」


 マールの言葉に他の四大精霊王達も頷いていた。


「もし仮に冥府に赴く必要ができた場合、ティエーラ様達の加護は大丈夫なのでしょうか?」

「それは……恐らく問題ないとは思うぞ。毛色が違うと言っても儂らの加護が向かっておるのは、あくまでそなた達であるし」


 エレナの質問にプロフィオンが答える。デュラハンやガシャドクロもまた、自分達が戻った時も、確かに加護は届いていると教えてくれた。


「何にせよ、この子の意識が戻らねば進展はない、か」

「でも、少しずつ回復はしてるみたいで……良かった」


 ラケルドがランパスの髪を撫で、ルスキニアも様子を窺いながら頷く。戸口の所から小さな精霊達も心配そうに覗いていたりして……サラマンダーやシルフ、ノーム、ウンディーネが仲良く並んでいるのは和むというか。

 シェイドも自分は相性がいい、というようにランパスのすぐ近くに寄り添っていたりするし。


 そうした精霊達が高位精霊に呼応しているという事もあって、最初は消え入りそうだったランパスの魔力反応もどんどん回復しているのが見える。これなら……大丈夫だろう。

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