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番外916 温かな樹の家で

 さてさて。グレイス達の体調の事もあるので、夜は早めに風呂に入り、早々に横にならせてもらった。その代わり循環錬気や寝室での談笑、スキンシップには時間を使う。

 同行してきている面々には、俺達に生活時間を合わせる必要もないので、あまり夜更かししなければそのまま居間や部屋の方でのんびりしてもらって構わないと伝えておく。


 ハロルドとシンシアも、シオン達やカルセドネとシトリアが同行しているというのに加えて、ユイやオウギとも知り合ったという事もあり、すぐに眠るのは名残惜しそうな雰囲気だ。ハロルドとシンシアに関してはシオン達とも何度も顔を合わせているし、年代も近いので割と仲が良い。動物組や魔法生物達との関係も良好で、シンシアは動物達に抱きついたりしていたしな。

 二人がいつもは仕事で早起きだとしても、今日ぐらい多少羽目を外しても良いだろう。


「では――僕達も程々になったら眠る事にしますね」

「うん。母さんの家でも伯爵家直轄地の鐘楼の音も聞こえるからね」

「寝室に消音の魔法を使っておくから、盛り上がったりしても問題はないわよ」


 シオンの返答に頷いて答えると、ローズマリーもそんな風に言った。


「ありがとう!」


 マルセスカが元気に返事をすると他の面々もお礼の言葉を口にする。ローズマリーの気遣いが嬉しそうだが、当の本人は羽扇で口元を隠して静かに頷いたりしていた。


「ふふ、あんまり盛り上がっていると、鐘の音を聞き逃してしまいそうだけどね」


 イルムヒルトがくすくすと笑う。そうだな。それはあるかも知れない。ハロルドは「それは少し困りますね」と苦笑しているが。

 時計の試作品等がみんなに行き渡っていれば良かったが……まあ、一日ぐらいの生活時間のズレや睡眠不足ぐらいは魔法や魔道具で補助できるから問題ないだろう。

 と、そうした話をしながら、バロールに視線を向ける。


「それでも心配なら、日付が変わる頃合いでバロールが知らせるって事で」


 俺の言葉にバロールがこくんと頷く。時間を計測する為の簡易術式を組んでバロールに行使させておき、設定した時刻に音を鳴らすといった具合に……目覚まし時計のような役割を担ってもらおう。


「それじゃあ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


 というわけで俺達は寝室へと向かう。そうしてシンシアは楽しそうにティールに抱きついたりしていて、そんな妹の姿にハロルドが目を細めたりしながら、みんなで居間へと戻って行った。


「ユイもそうだけど、ハロルドとシンシアも普段は責任感もあって自制してるから……ああして楽しんでもらえると嬉しいね」


 寝室に入ったところでそう言うと、みんなも微笑ましそうな表情で頷く。


「けれど……それを言うならみんなも自制したりしていない?」


 ステファニアが少し心配そうに首を傾げてアシュレイ達に尋ねる。


「私は大丈夫ですよ。みんなと一緒だと安心します」

「そうですね。毎日こうしていられる事が嬉しいし、楽しいです」


 アシュレイとエレナが笑うとマルレーンもにこにことした表情で頷く。


「テオドールは?」

「そうね」


 ステファニアがそう尋ねると、クラウディアが言って。みんなも俺に視線を向けてくるが。

 ああ。俺に関して言うなら、特殊な事情もあるから、かな。子供らしく甘えるとか、そういうのを置き去りにしてしまったと言えばそうなのかも知れない。


 ステファニアも王族として自制していた部分があるし、クラウディアも俺達とそう変わらない歳で迷宮管理人として王族の責務を果たした。

 みんなもそうだ。子供だからとあれこれ言っていられない幼少期を過ごした面々ばかりで。だから……お互い気持ちは分かるし、そういうところで心配してくれているのだろう。そうして気にかけてくれるというのは――嬉しいな。


「俺は――そうだね。前世の記憶が戻る前と後とで、精神年齢ぐらいは変わったかも知れない、かな? でも自分ではそれが悪かったとか、後悔してるとか、そういう気持ちはないんだ。今みんなと一緒にいられるのはそのお陰だし、この生活も楽しいからね」


 そう答えると、みんなも目を細めて頷く。前世と今世の記憶に関しては割とすんなり自分の中では腑に落ちてしまったし、それほどの葛藤も無かった。抱えていた悩みはテオドールとしての俺の方がずっと大きかったというのもあるだろう。

 それも力を得た事で前に動いて行く事ができたから、感謝しこそすれど、後悔はない。

 ふわりと、背中から抱きついてくる感触。


「ん。でも、テオドールはもっと我儘言っても良いし、私達にならどんとこい」


 そんな風に、頬を寄せて言ってくれるシーラである。そんなシーラの言葉に笑みが漏れる。


「ふふ、そういうのも、テオなら嬉しいですね」


 グレイスもそう言って俺の事を抱擁してきて、みんなも頷く。


「ん……ありがとう」


 困らせたり負担にならない程度なら、偶にはそういうのも良いのかも知れないな。みんなとならば。というか、俺にならもっと甘えて貰っても嬉しい、という事らしい。


「一応、私達の方がお姉さんだものね」


 と、そんな風に言って悪戯っぽく笑うステファニアである。

 それからみんなと一緒に抱擁しあったりしてから寝台で横になって、俺自身の事や地球の事を話したりしつつ循環錬気を行っていく。


 エレナにも前に俺の事情について話をしているが……並行世界の俺が干渉して今がある話をすると、寧ろ納得した様子であったっけな。そして、微笑んで言った。


「きっと……沢山の人が幸せになって欲しいと願っての事で……それは尊い行いなのだと思います。今の私があるのも、そのお陰ですから」


 エレナからしてみるとパルテニアラと重ねている所があるかも知れない。

 並行世界の俺はそれを自分が納得する為だとか、利己的な行いで崇高なものというわけではないと考えていたようだが……そうだな。俺にとっては間違いなく恩人だし、エレナだけでなく……みんなにとってもきっとそうなのだろう。


 そうして循環錬気を通して温かな想いを込めた魔力波長に身を委ね、夜はゆっくりと過ぎていくのであった。




 そうして明くる日。


「お誕生日、おめでとうございます……!」


 と、朝の挨拶の代わりにそんな言葉や拍手と共に一日が始まった。動物組も声を上げて祝ってくれて……中々に和んでしまうな。

 最近は大きな祝い事になっていた気がするので例年になくのんびりとした誕生日ではあるが、そうやって祝ってもらえるというのはやはり嬉しい。

 俺が起きた頃合いを見計らったように、あちこちから通信機にも誕生日を祝うメッセージが届いたりして。あちこちから届くメッセージに、みんなも笑顔になっていた。


 そんな調子で和やかな雰囲気の中で朝食を済ませ、家で少しのんびりしてから昼食の仕込みを行い、予定通り母さんの墓所へと出かける。

 天気は快晴。日当たりの良い花畑でのんびりするにはお誂え向きかも知れない。


 昨日集めた食材は発酵魔法のお陰で鮮度も下がらず、色んなキノコや野菜の入ったスープやキノコのソテーが用意できるだろう。


 みんなもフロートポッドに乗って紅葉の景色、森の空気を楽しみつつ母さんの墓所へ向かう。花畑は相変わらず綺麗で、魔力反応も相変わらず温かなものだった。


「おはよう、母さん」


 と、母さんに挨拶をしてから花畑の端に敷布を敷く。ティアーズが運んできたキノコ汁の入った鍋や、ソテーを作る為のフライパンを即席の竈にセッティングしたりして、準備は完了だ。では、秋ではあるが、花を見ながらゆっくり食事させてもらおう。こんなささやかで落ち着いた誕生日も悪くないと思う。

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[気になる点] テオドールは何歳になったのでしょうか……?
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