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番外914 伯爵家の昼食

「初めまして。ユイと言います!」

「オウギと申します」

「ああ。初めまして。その子が例のお弟子さんとその使い魔の魔法生物、という話だったね」


 ユイの明るい挨拶とオウギの丁寧な挨拶に、父さんが表情を緩める。


「そうですね。流石に鬼族という事で才気に溢れているといった感じですよ」

「ほう。テオが言うのだから相当なのだろうね」


 ユイに関しては対外的な肩書きとしては俺に武術教練を受けている弟子という事で通達している。俺と父さんのやり取りを受けて、ユイも少しはにかんだように笑っていた。


 鬼族なので聞かれればヒタカの出自と言い張る事も出来るが……まあ、指導するレイメイやゲンライ、ユラ達といった面々ならともかく、必要の薄い所で魔界迷宮のラストガーディアンであると知らせるのは互いに無用なリスクを増やしてしまうだけだからな。


 将来的には魔界側で仕事をするから、ある程度ならルーンガルド側での行動に融通も利くけれど……ラストガーディアンであるならば本当の立場を隠して行動するという事にも慣れていった方が良い。同じくラストガーディアンであるヴィンクルもまた、幻術の魔道具で飛竜の振りをしているしな。


 オウギに関しては――ユイと五感リンクをしているという事もあり、補佐役や従者という肩書きを名乗るよりは使い魔、とした方が良い。


 と、そこに父さんが迎えに出した馬車に乗って、墓守の兄妹、ハロルドとシンシアがやってきた。ダリルの婚約者であるネシャートも……少し父さんの家で俺達を迎える準備を手伝っていたらしい。


「これは境界公。奥様方も」

「こんにちは、テオドール様」

「うん。みんなも元気そうで何よりだ」


 と、ネシャート、ハロルドとシンシアに挨拶をする。

 そうしてユイとオウギがやって来た面々にも挨拶と自己紹介をすると、初対面の面々も二人に笑顔で挨拶と自己紹介を返していた。


 ネシャートは――やはり秋口という事で、ヴェルドガルの農法、農作業の見学を兼ねて手伝いに来ていたらしい。


「お料理の仕込みは終わっていますよ」

「うん。ありがとうネシャート。途中で任せちゃって悪いね」

「ふふ。少し手が離せない所でしたからね」


 ダリルとネシャートがそんなやり取りを交わして笑う。

 ダリルとは……前より和気藹々としている雰囲気で、関係が良好である事が窺えるな。


「じゃあ、今日は二人が料理を作ってくれたんだ?」

「うん。料理も経験しておいた方がいいかなって。やってない事も経験すれば仕事に従事している人の気持ちも分かるし。ネシャートにも教えて貰って、料理もそこそこになってきたからね」


 なるほどな。領民と一緒に農作業をした経験が、ダリルの考え方に大分影響しているように思う。

 父さんの家で、まずは軽く食事をしてから母さんの家に向かう予定になっていたが、料理をお披露目してくれるという事はダリルとしても結構自信が出てきた、という事なのだろう。


「お昼が楽しみになってきましたね」

「そうだね。ダリルとネシャートさんが作ってくれた料理だし」


 グレイスの言葉に笑って頷く。中々嬉しいサプライズだな。循環錬気を用いて体調管理をしているという事もあり、みんなの悪阻はあまり重くならず、もうほとんど収まっているので食べられる料理も割合融通が利くようになった。その事は通知済みなのでダリル達も安心して料理ができたのではないかと思う。




 肉団子とジャガイモのトマト煮込み。これはバハルザードの料理で、主にダリルが担当してくれたそうだ。ガートナー伯爵家の面々には受けが良かったそうで、今回の食卓で出してくれたというわけだな。

 逆にヴェルドガルの料理をネシャートが手掛けたという事で、豚肉のロースト料理はセオレムでも料理長のボーマンが饗してくれた事がある。


 互いの国の料理をダリルとネシャートで交換して作る、というコンセプトなわけだ。


「ああ――。これは美味しいな」

「ん。旨味が良く出てる」


 俺とシーラが言うとダリルは照れたように笑顔になっていた。

 トマト煮込みは肉の旨味がトマトのさっぱりとした味わいのスープに程良く溶け出していて……何とも美味だ。肉団子もジャガイモも、煮崩れないようにしっかりと下準備してあったり注意してあるのが窺えて、ダリルが丁寧に作ってくれた事が分かるな。


「こっちも……美味しい……!」


 ユイがネシャートの作ったローストを口にして笑顔になるとネシャートも嬉しそうな微笑みを見せていた。こちらも少し酸味のあるソースが使われており、さっぱりとした味わいだ。他にも果物やヨーグルトが多めに用意されていて、悪阻が収まっているとはいえ味付けや準備するものには結構気を遣ってくれているのが分かるな。


「何というか、私の場合は野外で作るような料理が主で、こうした料理は少し自信が無かったので、いい経験になっています」


 ネシャートとしても色々得るものがあるようで何よりだ。野外で作るような料理に慣れているというのは……まあ、エルハーム姫と共にバハルザードの内乱を転戦していたからだろうな。

 そうして和やかな雰囲気の食卓を囲み……食事も一段落した頃合いでハロルドとシンシアに尋ねる。


「そう言えば、魔道具の使い勝手はどうかな?」

「いい感じです。森の小道でぬかるみになりやすい場所から水分を抜いて平らに均したりとか……そうした仕事を進めたので、前よりも歩きやすくなっていると思いますよ」

「最近は落ち葉を風で集めたりとか……普段のお仕事の時も便利ですね」


 と、ハロルドとシンシアはそんな風に教えてくれた。それぞれ水と風で多機能を持った魔道具なのだが、色々と活用してくれているようで何よりだ。




 食事が終わったらハロルド、シンシアにも大型フロートポッドに乗ってもらい、早速母さんの家に向かう事になった。


「料理、美味しかった」

「喜んで貰えて嬉しいよ」


 と、父さんの家の中庭でダリルとそんなやり取りを交わし、父さん達が見送ってくれる中、みんなでフロートポッドに乗り込む。高度を上げていくと、ユイが「わあ……」と声を漏らしていた。少し離れた所に見える森と湖畔……それから一際大きな樹――母さんの家に感動しているようだ。


 紅葉で色付いた森と透き通るような湖と……湖の近くに立つ大樹。


「秋頃のリサ様の家の周りは綺麗ですよね」

「本当に。空から見ると余計にそう思います」


 エレナが言うと、アシュレイも微笑みを浮かべる。


「うんっ、テオドール様が教えてくれたそのままだから、余計に感動するの」

「ふふ。気に入ってもらえるのは嬉しいですね」


 グレイスが小さく肩を震わせ、アシュレイやステファニア、それにハロルドとシンシアもユイの言葉に嬉しそうにしていた。紅葉した森の上を横切り、湖の方までフロートポッドで飛んでいき、少し空からの景色を楽しんで母さんの家の前に降りる。


「お帰りなさい」


 と、顕現したフローリアが俺達の事を待っていてくれた。


「ただいま!」


 セラフィナが明るく返事をするとフローリアも楽しそうに迎える。

 そうしてティアーズとハイダー、シーカー達が荷物を母さんの家に運んでくれる。


 では――みんなにはのんびりしてもらって、ティアーズ達と家の中を軽く掃除するか。

 あまり汚れてはいないが、雑巾がけ等をして綺麗に保っておきたい。ティアーズがマニピュレーターを伸ばして戸棚を綺麗にしたり、シーカーとハイダーが能力を使って床の埃を取り込むようにして綺麗にしていく。シーカーとハイダーの掃除の仕方は――能力の応用という感じだな。


 ユイも薙刀を箒に持ち替えて、オウギと楽しそうに掃除を進めるのであった。

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