番外913 後継者の成長
補佐役であるオウギも起動し、武器である薙刀も無事出来上がって、ユイについては身の回りのものが出来上がった感じだ。
「こうなると後は良い防具が必要なのではないかな? テオドール公達は、水竜夫婦から受け取った鱗を防具としているようだし……余の鱗でも持っていくか?」
と、後日訪れてきたメギアストラ女王が言った事から、あれよあれよと話が進んで、ユイ用の防具も作られる事になった。
俺達の竜鱗装備と同じく、衣服の下に着られるタイプの防具を作ろうというわけだ。ユイとしては俺達と同じ種類の防具という事で実に嬉しそうだ。
メギアストラ女王は複数の属性の吐息を吐けるとの事だが、防具に組み込む魔石にメギアストラ女王が火の属性を宿らせておけば、防具が火気となり、相性の悪い金気を弾く強固な防具となる、というわけだ。
「ん。ヴィンクルは武器防具はいらない?」
シーラが尋ねると、ヴィンクルは手を握ったり開いたりして、自分には爪や鱗がある、というように声を上げた。
竜の爪牙と鱗というのは……確かにそれ以上ない武器防具でもあるな。
それからヴィンクルは「でも魔道具は色々便利だから嬉しいし助かっている」というように声を上げていた。それを聞いたアルバートが「ありがとう」と応じるとヴィンクルもにやりと笑みを見せたりして。
「ふむ。竜はそういった所、自身の強大さに自負心があるからのう。そういった想いが爪や牙、吐息や魔力をより冴え渡らせると信じておる」
ルベレンシアが目を閉じて頷くとメギアストラ女王も頷く。
「そうだな。余は魔王となって長いから在り様も竜達の中でも独特になってきた気がするが……確かに竜達はそういう傾向がある。余とて戦いの場に立つならば自前の爪牙や吐息、魔力を頼りにするだろうし、そこに誇りを持たねば鈍りもする、というわけだな」
竜達の意見はそういう事らしい。幻獣種はやはり精霊に近しくて個性的な傾向があるが、竜の場合はそういった最強の種族であるという自負心も重要という事なのかな。
「ベルムレクスに敗れた我が言うのも何だが……生来の強者である事に胡坐をかき過ぎて研鑽を怠るのも良くはないな。自分の強さへの自負ばかりが強さを引き出すものではない。メギアストラやアルディベラ、それにそなた達を見ていると……強さを支えるものは色々あると今更ながらに気付かされる」
ルベレンシアがそう言うと、メギアストラ女王は静かに頷き、ヴィンクルも何か想いを巡らせるように目を閉じていた。
強さを支えるものか……。確かにそうだな。確固たる戦う理由や、守りたいもの。そういうものが自分を強くするというのは分かる。
先程のメギアストラ女王の言葉が一般的な竜達からは一歩引いた目線だったのも、魔王として守りたいものがあるからなのだろう。
それは――ティエーラとコルティエーラ、クラウディアの想いに触れたヴィンクルも同じで……。きっと理由を持つメギアストラ女王やヴィンクルの爪や牙は、相当な力を発揮するのではないだろうか。
そうした竜達の言葉を聞いていたユイも胸のあたりに手を当てて感じ入っているようだった。ラストガーディアンを目指すものとして、今のやりとりには色々と思う所があるのだろう。
ともあれ、そんな調子でメギアストラ女王から竜鱗を提供してもらい工房で防具の作製も行うという事で。ユイはまだ子供で成長途上なのでこれから体格の変化もあるが、ビオラ達によればその辺の調整もそれほど手間ではないとの事で請け負うと笑っていた。
自動修復を組み込みつつ、迷宮核に手直ししてもらうという手もあるだろう。
さて。そんなわけでユイの武器防具、補佐役に関しても一区切りといったところだ。
防具に関しては以前作ったものの属性変更版ということもあって、そこまで難しい事もないからな。
後は訓練と勉強を頑張りつつみんなと日常を過ごしたり、あちこち一緒に出掛けて見聞を広めていくという事で。
俺の誕生日も近付いてきているので、みんなと共にのんびりと旅の準備を進める。
「それじゃあ……これとこれを持っていくのでお願いしますね」
アシュレイが微笑んで伝えると、改造ティアーズが丁寧に衣服を運んでいき、シーカーとハイダーが協力してそっと衣服を畳んで旅行鞄に収納したりして。そんな魔法生物達の様子にマルレーンもにこにことしていた。
最近ではシーカーやハイダーの本来の仕事である監視任務が少なくなって、中継が主な仕事になっていたりするので、こんな調子で工房の仕事を手伝ってもらったり、身の回りの事を手伝ってもらったりといった役回りを担ってもらっている。使用人と交代して余裕のあるシフトを組もう、というわけだな。
ともあれ、誕生日に母さんの家に行くという事でみんな楽しそうだ。俺の誕生日に関しては身内の祝いなどからそのままお祝いに来てくれる知り合いが多く、規模が大きくなってしまっているところがあったが……今年は子供の事もあってあまりみんなの負担となる事も控える方向だ。殊更宴会という事はせず、身内でのんびり過ごす、という事で。
「リサ様に経過報告できるのが楽しみです」
と、グレイスは静かに微笑む。
「うん。母さんも喜んでくれると思う」
時期的にはそろそろ体型にも影響が出てくる頃合いらしいが……。まあ直近の健診でも循環錬気でも母子共に健康なのが確認できたので俺としても安心していられる。
「楽器は魔法の鞄で運ぶわね」
「ん。ありがとう」
ローズマリーが言うとイルムヒルトもにっこり笑い、シーカー達が魔力楽器を魔法の鞄に丁寧に収納していく。リュートだけは日常でイルムヒルトが演奏したりするので、ぎりぎりまでそのままだ。
そんな調子で和気藹々とした雰囲気で旅支度を整え――数日もすると出発の日――誕生日の前日がやってくるのであった。
「ふむ。そなた達の事だから心配はないと思うが気を付けてな」
「お気遣いありがとうございます」
穏やかな雰囲気のメルヴィン王と言葉を交わす。
フロートポッドに乗って転移港へと向かうと、メルヴィン王やジョサイア王子、それにアルバート達が見送りに来てくれていた。今年は内々でのんびりするので、代わりに見送りを、というわけだ。
「テオ君達が戻ってくる頃には防具も出来上がるんじゃないかな?」
「うんっ、楽しみにしてるね」
アルバートが言うと、ユイも上機嫌そうににこにことした笑みを見せる。ユイも見聞を広めるという目的ではあるが、護衛の役回りもしたいと、そんな風に意気込んでくれている。まあ……修業中だしルーンガルド側という事もあるので多少は動いても大丈夫だとは思うが。シオン達とカルセドネ、シトリアも一緒だしな。
「何かあったら誕生日とか気にせずに連絡してくれれば、すぐに戻ってくるよ」
「うん。のんびり楽しんできてね」
俺もアルバートとそんなやり取りをして転移門を潜る。
「それじゃあ、行きましょうか」
と、クラウディア。大型フロートポッドについては流石に転移門を潜れないが、そもそも転移門は迷宮のシステムの補助を受けているからな。牽引しつつ俺かクラウディアが補助してやることで一緒に移動する事が可能だ。
転移門設備の外に移動するように座標指定をしつつ移動すると、光に包まれ――ガートナー伯爵家の転移門設備に飛んでいた。
フロートポッドもしっかり設備の外に移動している。人員を点呼して揃っている事を確認していると、父さん達が顔を見せた。
「ああ。テオ。よく来たね。奥様方も元気そうで安心しました」
「ええ、父さん」
と、挨拶をすると父さんは表情を綻ばせ、ダリルも領主の息子として丁寧にみんなに挨拶をして……その後で俺に少し肩の力を抜いた笑みを向けてくる。
「みんな元気そうで、顔を見て安心したよ」
「ありがとう。ダリルも元気そうというか……。何だか、前より筋肉がついた?」
何となくだが、前より痩せただけでなく年齢的な成長も相まって体格ががっしりしている印象があるな。
「初心を忘れないようにって、たまに農作業の手伝いをしてるんだ。秋口は人手が多いと喜ばれるからね」
なるほどな。領民としてもダリルのこうした成長に関しては結構頼もしく思っているのではないだろうか。