番外911 守護者補佐の起動
スレイブユニットを従えての編隊飛行。逆に本体は回避行動をとりつつスレイブユニットを隠密行動させて目標物をこっそり回収させたり飛び回らせたりと、飛行性能試験としては上々な結果だ。
スレイブユニットから幻術を行使して、本体とスレイブユニットが複数自在に飛び回るような光景を展開したりと、結構な制御能力を持っているのが窺える。小さな角の生えたスレイブユニット――小鬼達が飛び回る光景は若干ユーモラスなものの、何となく式神か何かを術者が操っているというような連想をさせられる光景である。
「同時制御の数が多くなるほど行動も単純化せざるを得ませんが……20機程度の規模までであれば、そこそこの水準での行動が可能だと思われます」
と、魔法生物が実際にスレイブユニットの挙動制御をした上での手応えを教えてくれる。核の中でスレイブユニットの行動を演算する仮想領域を構築し、それぞれにアルゴリズムを組んで疑似的な自律行動をさせる事ができる、というわけだ。
結構な数のスレイブユニットを同時に動かす事が可能ではあるが、その状態で一斉に魔法行使すると当然魔力消費量も相応に増大してしまう点に注意が必要だろう。迷宮核からの支援を行えるようにしておけば魔力消費量に関しては問題無いだろうけれど。
「思っていた以上にすごい支援ができそうだね」
「広範囲を幻影で覆ったり、かしら?」
アルバートが感心したように笑顔になると、オフィーリアがそう言って首を傾げる。
「多分それも可能だろうね。幻術の性質を考えるなら、幻である事を察知させずに刈り取る、みたいな動きの方が理想だとは思うけれど」
「流体騎士団やユイ様との連係が重要というわけですね」
俺の言葉に魔法生物は真剣な声と表情で頷いていた。
その辺は訓練を重ねる事で上手く合わせられるように仕上げていく必要があるな。
時間的な猶予はあるから交流も兼ねて訓練を積んで、実戦を想定した効果的な運用法等も指導していきたいところだ。
ともあれ、飛行能力も十分なものだし、魔法制御やスレイブユニットの制御能力の水準も相当なものなのでこれからの訓練が楽しみになってきた。
続いてアクアゴーレム式の腕――アクアアームの使い勝手を確かめるという事で、重い物や脆い物を色々土魔法や木魔法で構築し、持ち運びに注意の必要な物品を並べて、適切な力加減での保持や運搬ができるかといった試験も行っていく。
アクアアームについては基本形としてはペンギンのフリッパーに親指がついたような形状で、ある程度の大きさならそのまま持つ事が可能だ。
その形のままでは持ちにくいものもあるので、その辺のコツや力加減についても試験も兼ねて今後の為に習得する、というわけだ。
魔法生物は形や重心、性質を見て取ると、レビテーションを併用して重い物を持ち運んだり、大きい物は重心を確かめて支えたり、脆い物は壊さないように浮かせてからフォークリフトのように下から支えて運んだりと、色々工夫をしていた。丁寧な仕事ぶりに性格的な部分が現れているな。
ともあれ、各種試験は一先ず問題無しといったところだ。当人の意見を参考にして少しだけ出力回りの調整をしてやれば……後は名付けと魔界の迷宮核からガーディアンとしての登録を残すばかりといったところだな。
何度か標準状態の出力調整を行い、当人にとって扱いやすい状態に調整したところで尋ねる。
「これで大丈夫かな?」
「はい。ありがとうございます。お手間をおかけしました」
俺が尋ねると、光る口を笑みの形に変えて応じてくれる魔法生物である。
よし。では、起動試験回りは一先ずこれで完了だ。
「それじゃあ、後は名付けかな。普段は俺がする事も多いけど……今回は事前に話をしていた通り、ユイにお願いしたい」
「うん……っ!」
ユイにとっての補佐であり相棒。五感リンクで繋がる使い魔のような存在でもある。なので名付けを行う事でより絆を強くしたり、魔術的な緊密性を構築する狙いがあるが……そのへんの話は事前にユイにしていたという事もあり、明るい笑顔で元気よく頷いていた。
「オウギっていう名前を考えていたの」
「オウギは……扇の意味?」
「うんっ。ヒタカの植物の……カラスオウギから取った名前だから字は同じだよ」
ユイによれば、補佐役の見た目が決まったところで名付けも決まっていたので、レイメイやユラ達に色々と相談していたそうだ。
ヒタカのカラスオウギ、という植物は種子が黒く艶やかで……その種子を指して射干玉とも呼ばれるらしい。
これは……黒いものを示す枕詞で、黒の美しさを詠う等、良い意味合いで使われる事が多いな。
「カラスオウギの種子からの繋がりで、オウギというわけですね」
「うんっ、そうなの……!」
ユイは身振り手振りを交えながら一生懸命説明して、グレイスが表情を綻ばせてそう言うと、理解してもらえたと笑顔で頷く。
「オウギ、ですか。良い名前です」
当人もそんな風に言って、表情を笑顔にしていた。由来にしても今の説明にしても、ユイが一生懸命考えていたのが窺えるからな。そうやって真剣に考えてくれたというのはやはり嬉しいのだろう。
「それじゃあ、決まりかしらね」
ジオグランタが穏やかに微笑んでそう言うとみんなも頷く。そうして魔法生物の名はオウギとなった。
「では、改めて。オウギと申します。ジオグランタ様とユイ様の助けになれるよう、力を尽くしていく所存。どうかご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
そう言って、丁寧にお辞儀をするオウギであった。礼儀正しい仕草と落ち着いた物腰にみんなも好印象を持ったようだ。
「何となく、爺やに似た頼もしさがありますね」
と、アシュレイが目を細める。ケンネルか。確かに礼儀正しくて頼れるというのは執事的なイメージがあるな。
オウギとしてはまだ何もしていないので、家令のケンネルを連想されるのは光栄ではあるが、恐縮との事だ。
「そう思って頂けるように、きちんと補佐役としての修業を積みたいものです」
感情はあまり出さないまでも静かにやる気を見せているオウギである。モチベーションが高いのは良い事だな。
補佐役の魔法生物こと、オウギとスレイブユニットを連れて魔界の迷宮奥へ向かい、ジオグランタとユイの立ち会いの下でガーディアンとしての登録を行ったのであった。
ユイと同じく中枢部を守護する立場のガーディアンという事で……。スレイブユニットも迷宮核に登録し、迷宮核から生成可能な体制を整えておく。
スレイブユニットに関しては迷宮魔物に近いが特殊な立ち位置だ。
完全な自律行動はできないので生成しただけでは戦力にならないが……まあ何体かは中枢部に常時配備しておく予定だ。
普段はジオグランタやユイの身の回りの事を行ったり、必要とあらば中枢部にいながらにして迷宮内部のあちこちの映像情報、音声情報を持って来たりできるという寸法だな。
まあ、ユイ共々しばらくは修業を行う予定であるが……。
それから……中枢部に詰めている状態でも快適に過ごせるようにリビング、厨房、風呂などといった生活空間も増設する予定だ。この辺はヴィンクルも同様だな。
ティエーラやコルティエーラ、ジオグランタは精霊なので必ずしも家のような生活空間は必要としないらしいが、一緒に過ごせる場所があるなら嬉しいと笑っていた。
そうして、オウギを迎えて数日後。今度はユイの薙刀がもうすぐ完成すると、工房の面々から連絡が入ったのであった。