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番外910 補佐役起動

 というわけで魔法生物をみんなに引き合わせる。


「ん。よろしく」

「ふふ、初めまして」

「こちらこそ初めまして。どうぞ、これからよろしくお願い致します」


 みんなから挨拶を受けて、魔法生物は律儀な印象で発声器から挨拶を返していた。

 核の明滅反応を見るとそこはかとなく嬉しいといった感じだ。表に出る感情表現も内心の感情の動きも控えめではあるが好意的で、口調も含めて落ち着いた性格である事がよく分かる。


「魔石の容量と質が一級品だったから、言語能力と論理的な思考、記憶能力には大分力を割く事ができたわぁ……」


 ベアトリスは魔法生物の受け答えを見やり、静かに言った。感情の豊かさ、情動の動き方とはまた別の論理的な思考能力。計算能力であるとか、状況からの未来予測だとか。


「優秀な参謀にもなれそうかしら」

「私の場合、合理性のみでの予想になってしまいますので、感情が絡んだ場合の判断は難しいかと」


 ステファニアが言うと、魔法生物は受け答えを返す。

 自身の情動が控えめであるという事には自覚的、というわけだ。

 中枢部への交渉があった場合に、フラットな立場で連絡役を担い、更に術式を使って相手の言葉の真偽の判別が可能だ。


 但し……他者の感情や好き嫌いまでは分からないから、そういった要素が絡む時に意見を求められた場合はあくまで参考程度にして欲しいというわけだ。

 そうして必要に応じて自分の特性を前提にするように主への注意を促すのが魔法生物のスタンスなのである。


「情動も含めた状況判断をするのはあくまで私達、という事ね」

「うん。気を付ける」


 ジオグランタが言うとユイも真面目な表情で頷く。魔法生物の特性をしっかり理解しておくというのは、その個性を尊重して大切にしているのとイコールだからな。

 目的があって彼らに望んだ性質故に、向き不向きをしっかり判断してやるのが主となる者の役目と言える。


 そうした魔法生物の性質や関わり方を説明すると、カドケウスやマクスウェル、アルクス、アピラシアといった魔法生物組の面々は核を明滅させて嬉しそうな反応を見せたり、うんうんと頷いたりしていた。


 マクスウェル達と同じように隣人であるように望んだのは、補佐役も同じだ。連絡と真偽判定だけなら何かの装置で機械的に行う事もできたのだし。


 ともあれ、魔法生物に関する性質についてはジオグランタもユイもきちんと理解しようとしているようなので心配はいらないだろう。

 後は魔法生物の外装を組み上げていく必要がある。みんなへの挨拶、顔合わせも済ませた所で、この辺の作業に着手していくとしよう。




 そんなわけでベアトリスも連れて、フロートポッドで工房へと向かう。アルバート達にも魔法生物を引き合わせると、楽しそうに笑って応じていた。

 工房のみんなは魔法生物に慣れているからな。仮のマニピュレーターを通して握手をしたりして楽しそうに歓迎すると、魔法生物もまた核を明滅させながら律儀に挨拶を返していた。


 本体とスレイブユニットは核が出来上がるまでの間に色々と組み上げている。推進方式はティアーズの挙動制御を流用しているが、外装は見た感じ結構別物だ。

 黒く着色した魔力変換装甲で外装を構築し、内部に黒ゴーレムの弾性装甲を緩衝剤として用いているので、耐久面では相当に強固と言えるだろう。本体に関してはスレイブユニットと違って防御能力をしっかりとしておく必要があるからな。


「ただスレイブユニットはここまでの防御性能はないから注意して欲しい。迷宮内部でガーディアンとしての登録を済ませた後ならシステムの力を借りて転移させたりできるから、スレイブユニットを鹵獲させないように守る事自体はそこまで難しくはないけれどね」


 そう言うと魔法生物は「なるほど。承知しました」と受け答えをしつつ核をピカピカと光らせていた。肝に銘じているというか真剣に話を聞いているというか。そういう反応になるのだろうか。


 スレイブユニットは映像、音声を送るシーカーと似たような機能の他に、本体の遠隔魔法発動体としての役割を持つ。理屈としてはバロールによる遠隔魔法に近いな。魔弾の機能は持っていないけれど。


 本体共々魔界の迷宮核にガーディアンとして登録してやることでスレイブユニットを量産したり、本体のバックアップを取ったりする事ができるわけだ。


 そして、本体は演算能力が優秀なのでスレイブユニットを複数体同時運用する事が可能だ。

 魔法生物の核はジオグランタの属性が与えられた魔石なので……必要とされる要素を余裕で支えるだけのポテンシャルがある。ユイを支援するための様々な術式、本体の防御性能、スレイブユニットの制御、運用能力と……この辺のスペックを見ていくとラストガーディアンの補佐役という肩書きに相応しいものかも知れないな。


「それじゃ、本体に組み込むから一旦仮の感覚器から外すよ」

「問題ありません。よろしくお願いします」


 というわけで了承を貰ったところで、本体に魔法生物の核を組み込み、アルバートやベアトリスと共に手早く各種感覚器官と核との間をミスリル銀線で繋いで回路を構築していく。まずは――視覚と発声器官、聴覚器官を優先的に繋いでやるのが良いだろう。


「っと。これで良し」

「聞こえているかな? もう喋っても大丈夫だよ」

「ありがとうございます。これが私の本体なのですね」


 アルバートと俺がそう言うと、魔法生物は落ち着いた声で返答しつつ、ほんのりと感じる嬉しさを示すように核を明滅させていた。言葉も聞こえているし、発声にも問題はなし。続けて視覚についても正しく機能しているか細かく質問していく。

 立てた指は何本か。紙に塗られた色について。暗視機能、拡大機能を使った場合の視界。

 きちんと感覚器が機能している事を確認してから次の感覚器を繋げて、それらを一つ一つテストしていく。


 例えば聴覚テストでは様々な言語を聞いて翻訳や復唱をしたり魔力楽器の音の高低を聞き分けたりといった具合だ。

 ジオグランタやユイも「私達の補佐役になるのだから」と、予め用意しておいた文章を朗読したり、キーボードの鍵盤を押したりと感覚器の試験を手伝ってくれた。


 そんな魔法生物とのやり取りにみんなも表情を綻ばせたりして、工房は和気藹々とした雰囲気だ。


 五感のテストを終えたら次は魔法関係だ。本体からの魔法行使。スレイブユニットの起動テスト。スレイブユニットからの魔法行使。それぞれ問題は無いようである。


 スレイブユニットはやはり事前に構築してあるが……一機だけなので後で迷宮核に量産してもらって、複数同時制御のテストも行わなければならない。


 諸々のテストを終えて背中側から内部装甲、外装を閉じる。もう動いても大丈夫と伝えると、魔法生物は黒い靄を身体に纏ってふわりと空中に浮かんだ。


 漆黒の中に目と口が光ってぼんやりと浮かんでいる。楕円形の目と横一文字の口と言う……とぼけたような表情だが、身内を相手にしている時は光の形が変わって表情が見えるので核の明滅が見られなくとも感情の動きを窺い知る事ができる。

 見た目は闇の精霊にシーカーやハイダーを混ぜた感じだろうか。本当の闇の精霊であるシェイドとしては親近感が湧くのか、何やらその姿を見てうんうんと頷いていたりする。


「それじゃ、スレイブユニットを連れて、少し工房の中庭を飛んで貰っていいかな」

「飛行性能の試験ですね」

「そうなるね」


 それが終わったらゴーレム制御によるアームの性能テストという事になるか。魔力制御に関しては見た感じ中々精密な制御ができているので順調そうではあるかな。

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