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番外909 錬金術師の来訪

「どうでしたか?」

「ふっふ。目を疑うような才能よな。ああした才気溢れる若者と接するというのは、良い刺激になる」

「先が楽しみですな。まあ……任務の事を考えれば気軽に手合わせを、というわけにもいかないのでしょうが」


 フォレスタニア城に顔を出してくれたイグナード王とイングウェイを、ユイと引き合わせると、二人は修業中という事ならと、船着き場で闘気の様々な使い方についてレクチャーしてくれた。

 ユイもまた闘気の使い方については興味があったようだ。


「グレイス様みたいにはいかないと思うけど、頑張る……!」


 と、気合を入れてイグナード王やイングウェイの様々な闘気の使い方を見て、自分も真似できないかと闘気を操ったりしていた。そんなユイの様子にグレイスも表情を綻ばせながら見守っていたが。


「うむ。確かにグレイスの闘気は凄い」


 ルベレンシアがどこか誇らしげな笑みを浮かべる。魔界でグレイスと戦った中でルベレンシアもその力には感銘を受けたらしいからな。


「私の闘気に関しては……感覚でやっていたり、種族的な所があるので指導には向きませんが……。騎士団長のミルドレッド様や、お城で教導をしているラザロ様に触発された所がありますから、機会があればお二人とも一度お話をしてみるのも良いかも知れませんよ」


 グレイスは穏やかに微笑みつつ、ユイに対してそんな風に教えていた。ユイも真剣な面持ちでこくこくと頷く。そうだな。二人の闘気の使い方を見て、それがグレイスにとってはかなり参考になったようだったから。


 そういった経緯があったからこそ、後になって吸血鬼の特性を制御して、闘気を更に自在に操る幅が増えた……のかも知れない。


 そんなわけでグレイスの闘気の操り方については種族特性や循環錬気への慣れも絡んだかなり独自のもので、あちこち見回しても同じ事ができる者はいなかったりする。その辺はラストガーディアンであるユイやヴィンクルも例外ではない。


 まあ、レクチャーは難しいというのはグレイスの言う通りだ。

 今は激しい運動もできないので座学でしか伝えられないというところもあるしな。ただ、ユイは対話の中でグレイスの戦い方についての記憶も持っているからか、みんなから少し離れた所で目を閉じて先程のイグナード王、イングウェイのレクチャーを踏まえた上で自主トレーニングを開始したようだ。


 身振り手振りと共に、身体に少しだけ纏った闘気を操り、理想とする動きを思い出しているようだが……あの動きと闘気の練り方は――恐らくグレイスの闘気砲弾だな。

 ユイ自身は俺との対話もあって……生来の強者故に研鑽を疎かにして敗れた、という実例を知っている。だから鬼の身体能力に頼るよりも、修業して技量を磨く事に重きを置いているところがあるようだ。

 ただ、種族的な向き不向きを言えば、力と物量、頑健さを前面に押し出すというのは実際に有効だ。これは、長所を伸ばす方向だし、そうした長所をしっかりと効果的に活用できるようにする、というのもまた修業だ。


 実戦での切り札と成り得る技を定めてそれを磨いておく、というのは基本ではあるが、色々な種類の技を調べて身に着けておくのも、対応できる状況が幅広くなって無駄にはならない。


 ともあれ、イグナード王やイングウェイのレクチャーもユイにはかなりいい勉強になっただろう。

 あちこちから人がやってきて演武等していってくれるので修業には良い環境だ。この前も、深みの魚人族の戦士であるブロウスとオルシーヴが遊びに来て、水流に闘気を纏わせて使う戦い方を実演で見せてくれたしな。


 その他にも境界劇場の満月の時の公演を見たり、幻影劇場では営業時間外に幻影劇鑑賞に行ったり……色々日常生活も堪能しているユイなのである。


 公演に感動したり幻影劇に見入ったりと……反応が素直なのでイルムヒルトも歌を聴かせるのが楽しかったそうだ。

 ステファニアの話では植物園に行って花妖精達と仲良くなり、火精温泉で一緒に湯船に浸かっていたという話である。女湯での事なので俺は見ていないが、元気にスライダーを滑ったり、流水プールを水上歩行して流れに乗って遊んでいる姿なら休憩所から目撃したが。


 そんなわけで、フォレスタニアやタームウィルズでの暮らしにも馴染んでくれているようで何よりだ。


「ラストガーディアンになった後の事も考えると、ヴィンクルとユイにはスレイブユニットを用意しておくのが良いのかも知れないな」

「そうね。迷宮の奥でずっと過ごすのも退屈するでしょうし」


 クラウディアが優しげな表情で微笑んで同意してくれる。


「スレイブユニットがあると任務だけに縛られずに済むというのはありますね」


 アルクスのスレイブユニットもうんうんと頷いていた。

 ヴィアムスもスレイブユニットで気楽な外部活動ができるが、そもそも出自が深みの魚人族と関わりがあるので、集落の生活が馴染むそうだ。一緒に狩りに行ったり、集落のみんなと、最近流行っているチェスをしたりと日常が楽しいとの事であるが。


 ラストガーディアンの機密性を高めるにはスレイブユニットの見た目は別の姿にするとか、そういった工夫も必要になってくるかな。


 とは言え二人にスレイブユニットが必要になるのもまだまだ先の話なので、その辺はじっくり仕上げていけば良いだろう。


「旦那様。ベアトリス様がお見えになっております」

「ああ。分かった。すぐに準備して迎賓館へ向かうよ」


 船着き場にセシリアがやってきて、ベアトリスの来訪を伝えてくれた。


 今日は――魔法生物の核を持って錬金術師のベアトリスがやってくる予定になっているのだ。カドケウスと同じ方式で魔法生物の人格形成を行うという事もあって、実績のあるベアトリスに依頼を出して、俺自身もウィズと共に構築作業を手伝ってきたのだ。


 魔法生物と主従関係を構築する必要があるので、素材や触媒としてジオグランタの属性を付与した魔石やユイの血も提供している。これにより結びつきを強くしてやるというわけだな。その他、言語機能等々の学習作業は俺が担当した。

 そんなわけで魔法生物の核と暫定的に繋げる感覚器を持って、ユイと共に応接室へと向かう。


「こんにちはぁ」

「ええ、こんにちは」

「こんにちは……!」


 応接室で顔を合わせて挨拶をする。相変わらず気怠そうな雰囲気のベアトリスである。

 挨拶もそこそこにベアトリスが机の上に魔法生物の核を置く。


「境界公の持ち込む素材は他で見られない凄いものだから……今回の魔法生物も優秀な子になりそうだわぁ……」


 俺と一緒に挨拶に来たカドケウスの頭を撫でつつベアトリスが言う。カドケウスはこくんと頷いていた。成り立ちを考えるとカドケウスにとっては兄弟のようなものだろうか。

 補佐役の誕生をほんのりと嬉しそうに思っている気持ちを、カドケウスが五感リンクを通して俺に伝えてきてくれた。


 早速仮の感覚器に繋ぐと魔法生物の核が明滅して、発声器官から声が聞こえてくる。


「初めまして。こうして主や境界公、カドケウスとお会いできて、嬉しいと感じています」


 と、静かで落ち着いた口調で魔法生物が挨拶をしてくれる。

 ユイも既に五感リンクで繋がっているので、魔法生物の気持ちが伝わってくるのか、笑顔になっていた。喜怒哀楽といった情動は薄いけれどきちんとあるからな。気持ちはしっかりと伝わっているようだ。


「うんっ、初めまして。私もお話できて嬉しいな」


 魔法生物の核も色々見て来たのでその明滅の仕方から気持ちも分かったりするが、ユイから挨拶を受けて魔法生物は嬉しそうな反応を見せていた。

 というわけで、ベアトリスにお礼を言って報酬も支払う。


「相変わらずいい仕事をしてくれますね。これからも頼りにしています」

「こちらこそ。境界公から持ち込まれる仕事は良い刺激になるからありがたい話だわ……」


 と、そんな風に言って目を閉じて頷いていた。


「一先ず、みんなにも挨拶をしようか」

「承知しました。皆様にお会いできるのが楽しみです」


 魔法生物が明滅しながら答える。大分落ち着いた印象で、ユイと性格的な相性も問題なさそうだ。

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