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番外907 守護者の補佐は

 そんなわけで薙刀に組み込む術式――自動修復や契約魔法等――を紙に書き付けたら後は工房のみんなの仕事だ。

 薙刀については仕上がりが気になるところだがみんなに任せて、俺はユイの補佐役となる存在の構築に着手していく事になるだろう。

 というわけでどういった補佐役が良いのか。みんなと相談して決めていくわけだ。


「改造ティアーズも考えているけど、今回は求められる物が少し変わってくるからね。結構な改造になりそうな気もするけれど」

「大幅に変えると言うのなら……予備知識が使えないよう、見た目というか、外装そのものも変えてしまって良いのかも知れないわね」


 ローズマリーが羽扇を手の中で弄びながら言う。


「確かにね。素体がティアーズであっても運用するのは魔界側だし」


 ベースを運用実績の長いティアーズとしつつも外装……見た目を変えて、直接戦闘能力よりもユイの補佐能力に重きを置く、というわけだな。


「魔道具があれば大丈夫かも知れないけれど、翻訳の術式は必要よね。今使われている言葉も時代を経て変わったりするものだから」


 クラウディアが言う。それは――管理者であったクラウディアの実体験でもあるな。ユイは迷宮核が構築した折にルーンガルドの東西、魔界の言語を習得しているので多言語を話せるけれど……補佐役にも言語能力は必要となるし、時代が移り変わればその辺も変わってくる。


「大前提として補佐役の適性が必要ですが、ユイさんは明るくて素直な性格ですからね。それを補えるような考え方や行動をする補佐役が良さそうです」

「冷静で慎重、且つ、ユイさんの考え方を尊重してくれる、みたいな感じでしょうか」


 グレイスの言葉に、アシュレイが思案を巡らせながら言った。


「確かに……。職務に忠実で補佐、交渉に適性があるっていうのは前提になってくるかな。その上でジオグランタやユイと良い関係であれば理想的だけど」


 ジオグランタやユイと、迷宮中枢への訪問者を繋ぐパイプ役にもなってくるが、外部からやって来た人間とコンタクトを取る場面では先入観によって態度を変えず、私情を挟まず、真贋や悪意を判定し、ありのままを報告するといった……然るべき行動をこなせる信頼性がまず前提となる。


 同時に……外部の者に必要以上に悪印象を持ってしまう、というのは避けたい。

 中枢に正当な用事がある者なんてそう多くはないだろうが、単なる興味本位や悪意を以って近付いてくる相手というのは出てくるだろう。

 連絡役としてそういった連中をシャットアウトするうちに、外部の者に悪印象を持ってしまって、主人達を大切に思うからこそ判断基準が厳しく変わってしまうとか、任務にストレスを感じてしまう、というのは……俺としては避けたいのだ。


「そうなると、カドケウスと同じような自意識や性格っていうのも視野に入ってくるかな」


 そう言うと、当人であるカドケウスは猫の姿のままこくんと頷いていた。

 カドケウスに感情はあるし、五感リンクで対話をすると俺や俺の周りのみんなにほのかに好意を向けて来たり、色々疑問に思っている事を質問されたりもするのだが、逆に俺と敵対してきた者に関して思考をする時……感情を殆ど動かさない。


 襲撃してきそうな者に対して実際に迎撃や防御の態勢は整えても、具体的な命令がなければ自分の判断で先制攻撃等は仕掛けない、というような。好き嫌いで判断せず、独断や命令違反で突発的な行動を起こさないために色々考え抜かれた末の魔法生物の一つの在り方というわけだ。


 魔法生物として自意識は高過ぎず低過ぎず、判断能力は高い方と……色々考えると今回の目的としては理想的なのかも知れない。


 来訪者とコンタクトを取るための言語能力も必要になる。受け答えの中で目的が正当であるか、訪問者当人は悪意や嘘がなくとも雇い主がいるかどうか等……判断するのに抑えるべき要点はいくつかあるが、その辺は俺達が色んな事態を想定して予めの対応を定めておけばいい。


「迷宮の防衛にも関わるから、私がしっかりすれば良い……っていう単純な話じゃないもんね。でも……私はカドケウスの事好きだし、そうやって大変な仕事をしてくれる子の事は大切にしてあげたいと思う」

「控えめだけれど、賢くて優しい子みたいだものね」


 ユイとジオグランタは俺達のやり取りを聞いていたが、そう言ってユイがカドケウスを腕の中に抱いて、ジオグランタと共にその頭を撫でたりする。


「うん。カドケウスは……二人とこれからも仲良くしたいって」


 カドケウスの返答やその心の内で感じているほのかな温い感情を二人に伝えると、ユイは嬉しそうに屈託のない笑みを見せ、ジオグランタは微笑ましそうというか、穏やかな表情を浮かべる。


 役割分担をして補佐役を挟んだ方が良い事柄というのはどうしてもあるので、そういった仕事をしてくれる魔法生物を大切にしたいという……その気持ちは大事だ。ユイにはそれを実行するだけの力もあるし、そんな風に思ってくれる心もある。


 魔法生物と対話をして隣人、友人としての関係を望んだりもしているが……対話を行って高い自意識を構築しなくとも、共にいる者次第で友人にもなれるだろう。特に……同じ相手の補佐役として過ごすわけだし。


 五感リンクによる対話も可能にしておけば……きっと良い関係を築けるだろう。補佐役の性格、自意識についてはこの方向で考えていこう。


「性格はそれで良いとして……他には幻術や迷彩、隠蔽術、治癒術あたりも覚えていると良いのかな」

「基本的にはユイさんの支援というわけですね」


 エレナが俺の言葉に微笑む。可能ならば色々教えてやりたいとは思うが、役割分担を考えると直接戦闘よりは後方支援系統の術や技能を習得してもらう、というのが良いのだろう。


「交渉役が人質に取られる可能性については?」


 ステファニアが少し真剣な表情で言った。そうだな……。ユイやジオグランタが大切に思うならそこに人質としての価値が出てきてしまうからな。


「対策を考えるなら――本体は別の場所において、交渉はスレイブユニットで行うっていうのはどうかな?」

「それなら人質を取る意味もなくなって安心ね」

「うんうん」


 イルムヒルトが笑顔で言うと、ユイはマルレーンと共ににこにことした表情で頷く。


「鹵獲されても情報漏洩しないよう対策できるからね。例えば、手出しした相手に呪法を発動させたり、スレイブユニットが解析されないように内部構造を読み取れないようにしたり」


 情報を与えない……どころか、拉致して帰った所で相手に呪法をバラ撒いたり、というわけだ。平和的に交渉を持ちかけているのに、暴力で応えて人質を取ろうとしたり、拉致を目論むような相手であれば、相当強力な呪法カウンターを仕込めるし、こちらとしてもそんな相手に遠慮はいらないから容赦のない対応ができる。


「ん。頭の上に矢印がついたり?」

「それも可能だね」


 シーラの言葉に少し笑って答える。いずれにしても取り戻すためにユイが動く必要もなく、極めて安全な運用が可能になるだろう。


 それに……スレイブユニットで替えが利くなら必要以上の自衛能力を組み込まなくても良くなるし、戦闘用ボディに換装する事で逆にユイが戦闘を行う時に直接支援も行えるな。戦闘に巻き込まれても大丈夫というのは安心だ。


「何というか……補佐役という言葉以上に心強い存在になりそうではあるな」


 パルテニアラがにやりと笑う。そうやって諸々話し合って、補佐役について細かな部分を決めていくのであった。

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