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番外903 鬼娘の力量は

 レイメイ、ゲンライと共に城の船着き場に向かうと、早速ユイが模型武器を素振りして使用感を確かめていた。

 薙刀を構えて軽い踏み込みと共に斬撃を見舞う。基本的な動作ではあるが――踏み込む速度も得物を振る速度も尋常ではない。それと……船着き場の足場を踏み込みの威力で壊さないよう、マジックシールドを展開してそれを足場にしているようだ。


 ユイは俺達がやって来た事を認めると、改めてはにかんだように一礼してきた。


「もう少し素振りを見せてもらっていいかな? どんな動きができるか分かると、指導の方針も立てやすいからね」


 と伝えると、ユイは「うんっ」と元気に頷いて更に素振りを続ける。湖水からアクアゴーレム達を作って構えさせると、ユイは心得たというようにそれに向かっていった。

 一閃。斬撃を見舞って交差するとユイの背後でアクアゴーレムが両断されていた。


「武器を扱うための基礎的な技術と知識は持っているわけか」

「ある程度の所は対話の時に伝えていますよ」

「テオドール公は杖術以外も使えると聞いてはおったが……」


 ゲンライが感心したように頷く。

 まあ……BFOでは生産職のフレンドがいて、色々珍しい武器にも触れる機会があったからな。そこそこ変わり種の武器にも知識はあるし、杖以外の武器を扱う事もできる。


「とはいえ自信を持って他人に教えられるかどうかとなると、やはり杖術の延長上にある技術になってきますが」


 杖術は払う、突く、巻き込むといった動作が豊富で、他の武器にも応用が利きやすい。その上、魔法の中には魔法の刃を杖そのものに纏ったり、或いは杖先端から刃を伸ばして展開する術というのもあって……主にBFOでの対人戦や迷宮での狩りの場においてではあるが、剣や刀、槍や薙刀のような割合スタンダードな武器の代用として扱った経験ならそれなりに豊富だ。


 リーチや武器の使い方が変えられるので相手の武器によって使い分けたりフェイントをかけたり、開けた場所、閉所等の環境に応じて使い分けたりができるというわけだな。

 今のユイはと言えば、きちんと刃の形状に合わせた使い方ができているので、その辺でレイメイやゲンライも感心しているところがあるのだろう。


「空中で軌道を変えているのは……魔道具じゃないようだな」

「空中で動く為の術式自体は難しい術ではないので、すぐに覚えてくれました。魔道具の補助無しでシールドを使いこなしているのを見る限りでは、制御能力は高めかも知れませんね」


 見ている内にユイは武器を持ち換え、棍棒を猛烈な速度で振り抜いていた。打撃面積を大きくするように当てる事で、アクアゴーレムが弾けるように吹き飛ぶ。

 それを見て俺がウッドゴーレムも送り込むと、今度は棍棒の先端を使って、速度と膂力を以って側頭部を粉砕するような使い方をしていた。やはり、武器と相手によってしっかりと振り方を変えているようだ。


 槍、斧、大鎌と色々武器を持ちかえ、それぞれの武器でゴーレム相手に素振りをしたり、武器に慣れてきた頃合いを見てゴーレムと模擬戦闘をしてもらったりしているが……まあ、何というか動きを見る限り戦闘センスは天性のものがあるようで。


 正面から突っ込んできたゴーレム達に槍を構えて突っ込んでいき、猛烈な速度の刺突と跳ね上げる石突での殴打を見舞う。槍を大きく振ったタイミングに合わせて背後にアクアゴーレムを形成して突っ込ませると、振り切った勢いのまま身体を動かしてアクアゴーレムの攻撃を回避する。そのままアクアゴーレムは追いかけるように飛び、正面からもゴーレム達に掴みかからせる。


 角のあたりから周囲へと魔力が広がる。魔力ソナーだ。背後からの敵の動きを振り返らずに把握したユイは、振り被った槍を正面のゴーレムの頭部に突き立てるような動きを見せる。正面のゴーレムが守りの動きを見せるも――ユイの意図は槍による攻撃ではない。


 槍を突き立てた空間にマジックシールドを展開し、それを支えにしながら闘気を纏った踵を後方から迫るゴーレムに向けて跳ね上げたのだ。背後のアクアゴーレムを粉砕しながら大きく空中へと跳躍。中空からシールドで反射して正面のゴーレムを頭上から槍で貫く。


 俺の教えた技術とユイ自身による直感的な動きの組み合わせ。その戦闘センスは天性のものだろう。勿論、それを可能にする反射速度、身体能力、魔力制御の能力があってこそだが。


 やがて、ユイは一通りの武器を使った後で「これが使いやすかった」と、薙刀を選んで更にゴーレムとの模擬戦を続ける。薙刀、長巻といった武器は確かに強いが――実戦では刃を立ててきちんとした斬撃にするのが難しい武器でもある。だが反射神経に優れるユイはその辺の調整が上手い。どんな体勢からでも斬撃の初動か途中で微調整して、しっかりとした斬撃や先端を用いた刺突として成立させてくる。


 薙刀の性質をどこまで理解しているのか。ゴーレム達に対策の動きをさせてみる。

 手を変形させて槍として集団戦をさせるわけだ。槍は攻撃を繰り出す為のスペースが小さく済むので、集団で密集し、相手に穂先を向けて槍衾を作る事ができる。斬撃よりは刺突の方が最短距離で相手に届く。

 振り回して斬撃を見舞う事を目的とした武器である薙刀に対して、相性のいい性質を持っているだろう。あくまで、武器だけを見るならば。


 対するユイは――更に間合いを広く取って刺突そのものが身体に届く前に闘気による長大な薙ぎ払いを見舞っていた。

 なるほどな。刺突は薙ぎ払いよりも速いが……遠心力を乗せられる分、払う方が威力も乗せやすい。密集した槍等は外から叩きつけられる重い闘気の一撃には無力だし、対抗しようとしても威力の違いで押し切られるだろう。


 というか……最初からユイは迷宮を抜けてきた相手とラストガーディアンの間で戦う事を想定しているわけだな。鬼としての膂力と膨大な闘気。それらをより増大させる事のできる武器。薙刀を自在に振るえるスペースが確保できる条件である事。諸々を考えると、ユイの選択と想定は正しいと言える。

 これでまだまだ幼いというか発展途上ではあるのだが。ヴィンクルと同格と考えると納得がいくところでもあるかな。


「んー。汎用性を考えると柄の部分に特殊な金属を使って伸縮可能にするって言うのはありだな」

「閉所では刀として扱えるし、相手が密集しているところにそのまま切り込んでいく事もできる、というわけね」


 ローズマリーが俺の言葉を受けて、思案しながら言う。

 例えば神珍鉄のような性質を持つ金属。或いは流体騎士、ゴーレムの技術を応用するとか。それなら迷宮内部での訓練をする時にも向いているだろうし、実戦で相手の間合いや狙いを狂わせるような使い方もできる。


「しかしまあ大したもんだ。基本的な体術や武器の扱いに関しちゃ言う事がないな」

「ふうむ。まずは基本的な術を教えて、応用や延長上にある高等術が使える下地作り。後は仙気を練る為の修業法を指導する……といったところかの」


 レイメイとゲンライはユイの動きを見て頷き合う。


「指導方針も定まってきましたかね」

「そうさな。見る限り武術に関しては儂らが教えるより、テオドール公に任せて一貫させた方が良いように思うのじゃが」

「同感だな。長柄の武器で間合いの内側に踏み込んだ場合、潜り込まれた場合の動きも含めて、慣れているテオドールなら儂らより適任だろう」

「確かにそうかも知れませんね」


 となると、魔力衝撃波や螺旋衝撃波等も教えておくのが良さそうだな。武器を振るいにくい超接近戦で戦いを有利に運ぶための強力な手札となる。


 というわけで、方針も定まったところでユイも交えて話し合いだ。


「武器は、薙刀で決まった?」

「うん。色々使ってみたけど、多分私が自分の受け持つ事になる場所で振るうなら、これが向いている気がするの」

「確かにね。それじゃあ、それを使っての戦い方を覚えていこう。色んな相手を想定して対処できるように訓練を積んでいく、と」


 俺が言うとユイは笑顔で応じる。武器の扱いと使い分けにも慣れて貰えば、大抵の状況に対応できるようになるからな。


「儂らの役としては……まず基礎的な術を教えていく事とした。儂らも、お主の目指しているものの意義は分かっておるし、必要なら助力は惜しまぬつもりでおるよ」

「ま、何事も基礎の延長上ってことだな。それに……鬼もそうなんだが高位の妖怪には特有の通力って奴が備わってくる。その扱い方に習熟していきたいところだな」


 ゲンライとレイメイが言うとユイは真剣な面持ちで頷いて「ありがとうございます。よろしくお願いします」と一礼していた。鬼の通力か。レイメイが早い段階で会いに来てくれた理由も分かる気がするな。

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