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番外902 鬼と仙人の見立ては

「それではお部屋に案内しますね」

「ありがとう」


 クレアに案内されて、ユイは屈託なく笑ってお礼を言うと、大きな木箱を軽々と持ち上げてついていく。ユイもフォレスタニアに滞在する機会が増えると思うので、迎賓館ではなく城の奥に私室を用意したのだ。


 レイメイからは『丁度暇していたところでな。明日には顔を出しに行こう』と、そんな返信を貰っている。

 何というか、転移門があるお陰でちょっと近所に顔を見せに、という感覚で行き来できるな。フットワークの軽い事である。

 時差もあるので訪問予定を合わせるとこちらが朝食後の少し遅めの時間、向こうは夕方ぐらいからというのが融通の利きやすい時間帯での訪問という事になるか。


 俺としてもそれはありがたいと答えると、レイメイからゲンライにもそうした経緯が伝えられたようで『そういう事なら、儂もレイメイと共にフォレスタニアに顔を見せよう』とメッセージが届いた。そんな調子で明日の二人の来訪が決定している。


 レイメイとゲンライだけでなく、色々な面々と通信機でやり取りをしていると、私室に荷物を置いたユイが戻ってくる。


「お部屋はどうでしたか?」

「広くて綺麗だったよ。ありがとう」


 と、ユイはエレナが尋ねると、素直に感謝の言葉を伝えて来てくれる。では、更に朗報という事で伝えておこう。


「ああ。今通信機でやり取りをしていたんだけど、使う武器が決まったら工房で武器を用意してくれるってさ。訓練用と実戦用のどっちも用意できるって、エルハーム殿下もコマチさんも乗り気みたいだ」

「それは――うんっ、嬉しいな……!」


 というわけでユイに合わせたヒタカの武器を調達する目途もついた。

 戦い方や武器に関する知識は俺と迷宮核が伝えているので、ユイの運動能力と反射神経なら何でも扱えるとは思うが、それだけにしっくりくる武器を決めるというのも中々大変だ。


 この武器がいいと、一つに決めるまでは木魔法や土魔法で模型を構築してそれを試してもらうか。こと武器の重量に関してはユイの場合問題にならないから、色々と融通が利くしな。


「でも……まだ私は何もしてないのに、こんなに良くしてもらっていいのかなって思っちゃう」


 ユイがふと真剣な面持ちになって言う。


「それはまあ……誕生日だし良いんじゃないかな? それに、そんな風に考えられるユイなら、この先も大丈夫だと思うよ。今心配している気持ちも、考え過ぎる必要はないけれど、忘れないようにね」


 そう言うとユイは真面目な表情でこくんと頷いていた。

 対話の時もラストガーディアンの存在意義をしっかり考えていたしな。素直で天真爛漫な印象もあるが……それは俺との対話でみんなへの好意を持っているからで。


 だからこそ根が真面目で芯がしっかりしているという事の裏返しだとも言える。だとするなら、きっと変に驕ったりする事も無いだろうし、そうならないようにするのが俺の役目でもあるのだろう。


「ふふ。ユイさんは良い子ですね。今日は誕生祝いという事で、夕食も少し豪華なものとなっておりますよ」


 セシリアがそう言って。みんなも相好を崩して頷くのであった。


 夕食の席は賑やかなもので。そうした食事であるとか団欒の雰囲気も、ユイにとっては初めてのものだ。「美味」と耳と尻尾を反応させるシーラの言葉に頷いたり、コルリスやアンバーにシャルロッテと一緒に鉱石を食べさせてにこにこしたりと終始楽しそうな様子であった。




 そうして明くる日――。

 今日の予定をみんなにも伝える。レイメイとゲンライは俺達が朝食を取って少ししたら来る予定だ。時間は少しずれるがユラやリン王女、アカネやイチエモンといった顔触れも会いに来るとの事である。


「思っていたよりすぐに来るんだね。もうちょっと動きやすい服にしておけば良かったかな」


 俺の言葉にユイは振袖を見ながら言う。昨日着ていた服とはまた違う柄であるが、木箱の中には訓練等にも適した服があるそうで。


「お二方がいらっしゃるのであれば、仙術等の手解きがあるかも知れませんね」

「そうだね。二人ともそのつもりのようだよ」

「それじゃ、お部屋で着替えてくるね」


 グレイスの言葉に俺が頷くとユイはそう言って私室に向かう。


「素直な子だけれど、それだけに心配になるところはあるわね」


 その背を見送って、ローズマリーが言う。


「そうだね。迷宮中枢に用があってもラストガーディアンと直接交渉できるわけじゃないけれど、その辺は気を付けておきたいかな」


 鬼は力に優れるが、物語ではよく酒で酔わされているところを騙し討ちで倒されたりといった話も多いからな。

 構築の際の対話では相手の性格や気性も何となく分かる部分があるので、ユイの性格を念頭において素直な性分は美点でもあるし欠点にもなるという話をしたりもしている。


 それもあってか、過去の話の中で俺がそういった悪意を寄せ付けないように気を付けているというのもユイは察していたので、自分の種族の性分や性格の客観視であるとか、悪意のある存在というのをしっかり認識しているようではあるが。


 となるとラストガーディアンとしての修業の他に、嘘や悪意を見破る魔道具を用意するとか補佐役をつけるとか、そういった事をしておけば安心だな。補佐役としては――改造ティアーズも良いかも知れない。

 そうした話をするとみんなも納得したというように頷く。


「ん。それなら安心」

「それに、顔を合わせている相手がテオドールの知り合いで、対話で既に知っているからというのもあるものね」


 と、うんうんと頷くシーラと、目を閉じて微笑むクラウディアである。昨日のやり取りでも思ったが、確かにそのへんもあるかな。

 そんな話をしたりあちこちと通信機で連絡を取っているとユイも部屋から戻ってくる。白い着物と紺色の袴、赤色のたすきで袖を固定して割と動きやすそうな出で立ちだ。ユイの準備も万端といった様子だな。


「その服装も凛々しくて良いわね」

「うん、ヒタカの服だよ」


 ステファニアが言うとユイは嬉しそうに笑顔で応じる。

 というわけで昨日話をしていた通り、運動に適した服という事で色々な武器の模型を作ってユイに試してもらっていると、レイメイとゲンライもフォレスタニア城を訪ねてきた。転移門を通しての移動なので合流してこっちに来るにしてもそれほど時間はかからない。


「こんにちは」

「うむ。急な訪問ですまぬな」

「まあ、割と興味が湧いたもんでな」


 再会の挨拶をすると苦笑するゲンライとにやっと笑うレイメイである。


「気持ちは分かりますし、気にかけてくれるのは嬉しいですよ」


 俺の言葉に笑みを浮かべ、それから二人の視線は一緒に迎えに出てきたユイに向かった。俺もユイを見やって頷くと、一歩前に出て口を開く。


「初めまして。ユイと申します」


 と、丁寧にお辞儀をするユイである。


「うむ。儂はゲンライという。が、知識としては知っているのであったな」

「レイメイだ。よろしく頼む」


 二人は礼儀正しく挨拶されて相好を崩す。


「それじゃあ、船着き場に行ってさっきの続きをしながら話をしようか。少し方針を打ち合わせながら行くから、先に向かっていてくれるかな」

「うんっ」


 ユイは元気に返事をすると城の奥へと向かった。

 そんなユイの背中を見て、ゲンライは感心したように言う。


「昨日誕生したばかりと言うが……相当なものじゃな。立ち居振る舞い、身のこなしから見える体幹の良さが、ずば抜けておる。一流の武人でもそうはおらんのではないかな」

「迷宮核と僕とで、色々対話の中で知識として伝えていますからね。やはり、ラストガーディアン候補でもありますし」

「いやいや、同族として見ても大したもんだ。きっちり修業をすればとんでもない事になりそうだが」


 ゲンライとレイメイはそう言って、顔を見合わせて頷き合う。


「話を聞いている分には真っ直ぐな性格をしているようだし、鬼がそうした気質なのはレイメイ達を見ておるから分かる。魔界の守護は世の安定と平和にも繋がるとなれば……これは決まりかの」

「そうだな。仙気を扱えるようになって困る事もないだろうしな」


 ルーンガルド側のラストガーディアンであるヴィンクルは竜としての身体能力もだが、西国の魔法にも通じている。ユイの立場と将来を考えれば、西国の魔法や呪法、魔界とは別系統の技術に通じていた方がいい。鬼に向いている技術でもあるという事も考えるとゲンライとレイメイの指導はありがたい話だ。まあ……そんな事を言いつつ俺も武術と魔法の指導に加わるつもりではいるのだけれど。

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